27「ミリィの登録」
「それで、この幼児は一体どこの誰の子供なんでしょうか? 冒険者風の装備をされてますけど……」
コヨンさんが至極当然の事を聞いてくる。そんな当たり前の事が何かありがたい。話が通じるって言うのは大切なのだ。
「結論から言うと、こいつ……ミリィは精霊なんですよ」
これ自体は嘘なのだが、今日は嘘発見の魔道具は無い。本当は天使だと言ってもややこしくなるだろうし、実際にこの世界に存在するらしい精霊で通した方がいいだろう。
「……はい?」
うん、これも当然の反応だろう。むしろベティさんなんかがチョロすぎたというか、簡単に信じすぎだったんだよな。
「あの、本当なんですよ。私たちが泊まってる宿の、ゴンゾーの部屋で生まれたばかりの精霊みたいなんです。今朝なんか宿に祝福を与えてて、凄かったんですから!」
メルも助け舟を出してくれる。
「しかし精霊……ですか。本物を見るのは私も何せ初めてなものですから……。それが本当なら、アダチヤマさんは精霊と契約をしたという事なのでしょうか? なら、精霊の力を借りられるのですか?」
「そこら辺については俺もよく知らないんですが、俺がミリィを使役するって感じだと思います」
「それは……どう見ても幼児のこの子を使役というのは……いくら精霊とはいえあまりにも見栄えが悪いですね……」
「俺もそう思います……」
スキルのせいで誰かに嫌われたりするのは避けたいのに、ミリィを使役すると俺の好感度というものはどんどん落ちていきそうだ。
「それで、その子が精霊だとして……今日は普通に依頼を受けに来たのですか? それとも何か聞きたい事でも?」
「依頼を受ける際にギルドカードが必要ですよね? ミリィのギルドカードって必要なのかなって思いまして、それを聞きに来た所……だったんですが……」
「リナがミリィさんを見て勘違いして暴走してしまったと……いや本当に申し訳ない……」
「ごめんなさいね、つい早合点しちゃって……」
すっかり元に戻ったリナさんも一緒に謝罪をしてくれた。まあコヨンさんは悪くないんだけどな、同じギルド職員としての事なんだろう。
「こちらとしても例が無い事なので……従魔なんかはそういった個別の登録が必要だったりしますから、この場合も登録が必要なのかしら? でも子供のギルド登録って、基本的にはダメだったわよね?」
「いや、リナの業務でしょう。私もそこまで詳しくないですよ。……でも、保護者の許可で子供でも登録はできますし、契約者のアダチヤマさんの許可でミリィさんのギルドカード自体は作っても問題ないのでは?」
さすがに前例が無いのだろう、リナさんも少し困惑している。
「それで大丈夫なら俺としてはミリィのギルドカードを作って欲しいんですけど。今後も一緒に依頼も受けるので」
「では、昨日と同じように登録用紙に色々と書いてもらって、登録料さえ支払って頂ければ大丈夫ですよ。……あ、登録料を一万アラドにすると最新式の例のギルドカードにもできますけど、どうしますか?」
昨日貰った俺達の物と同じギルドカードか。一万アラドとは結構高い物だったんだな……。
しかし、最新式だとステータスやスキルの情報が表示されるんだよな。ミリィが変なスキル持ってたりして精霊じゃない事がバレたりすると面倒な事になるかもしれないし、お金も節約したいし、ここは普通のギルドカードでいいかな?
「ああいえ、登録料は結構ですよ。私が出しておきましょう。その代わり、ミリィさんのスキルやステータスは私にも確認させてください。精霊のステータスなんてそうそう見れるものではありませんから……あ、当然他言はしないので安心してください」
うーむ……断り難い。でもまあ、精霊そのものがあまり知られていないみたいだから、そんなに変な事にもならないだろう。
「じゃあそれでお願いします」
とりあえずなるようになるだろう。
「じゃあ、この登録用紙にお名前、年齢、種族、出身、得意分野などを書いて……あ、ミリィちゃん、字は書けるのかな? お姉ちゃんが書いてあげよっか?」
リナさんが優しくミリィに接してくれてはいるが、やはりミリィにはそれが不服のようだ。
「むー、小さく見えるかもしれませんが、わたしこれでも大人と一緒です! 文字くらい書けます!」
やはり強がって反抗している小さな子供にしか見えない。
「あらそうなんだ、ミリィちゃんって凄いのね」
微笑みながらやはり子供に接するようにリナさんが軽く返事を返す。たぶん信じてない。
しかし実際の所、登録用紙を受け取ったミリィはさらさらと必要事項を書いていく。
そういえばこいつは文字の読み書きとかは当たり前のようにできるんだな。
「ほう……やはり普通の子供では無さそうですね」
用紙に色々と書いているミリィを見ながら突然コヨンさんが言いだした。
「え。何か変ですか?」
「まあ、あれくらいの年頃だとまだ字が書けない子もいますけど、とても綺麗な字が書けていますし。けど、それにしては内容が……」
何か書いてる内容がおかしいのだろうか。
「年齢は産まれたばかり、種族は精霊、出身は宿屋、得意分野は回復魔法に浄化魔法……ほんとの事なのに、なんていうか……無茶苦茶だね」
用紙を見ながらメルも頷いていた。
確かに内容だけ聞いたら子供がでたらめを書いているだけだろう。でもそうなんだから仕方がない。
内容はともかくとしてちゃんと書けたようなので、ミリィは用紙をリナさんに手渡した。
「うーん……これ怒られないかな……まあいっか。それじゃあ次は、このカードのこの部分に血を一滴垂らしてね。この針なら痛くないからねー」
まだ子供だと思っているリナさんが小さな針をミリィに手渡していた。この針、地味に凄いんだよな。
「……今更なんですけど私、精霊って幽霊のようなものだと思ってたんですが……ミリィさんは血とか出るんです? まあ、ああして物に触れたりはしているみたいですけど……」
確かに俺も精霊って言ったら霊体とかそういうのを想像しちゃうな。
「受肉したとか言ってたんで、体に関しては普通の人間と変わらないと思いますよ? 飯も普通に食べてたんで」
「あまり疑うのもよくないとは思うんですが……どこかのお嬢様とかじゃないですよね? 内密に冒険者というものを経験させるために、とかそういう話は極稀ですがあるんですよ」
「鍵のかかった部屋に入ってきた上で、寝ている俺の真上から突然出現するお嬢様が存在するならそうなんでしょうけどね……」
俺のその発言にコヨンさんも苦笑いで返すしかなかったようだ。
そんな会話をしている間に、ミリィのカードの登録が終わったようだ。
「はい、できたわね。それじゃあステータスの確認をさせて貰いますね。他の人には話さないけど……ミリィちゃんはアダチヤマさんやメルランさんに見られるのは嫌かな?」
「いえ、構いません。むしろ、わたしのステータスを見てもっと驚くべきです! わたしは大人なんですから!」
申し訳ないが、大人ぶれば大人ぶるほど逆効果だ。
しかし、俺もミリィのステータスは気になるので、しっかり確認しておきたい。
ミリィ自身がいいと言ったのもあって、俺たちは全員、ミリィのカードを確認する事にした。




