26「再びギルドへ」
三人で街の大通りを歩いていると、ヒソヒソと俺を見ながらおばさん達が何か言っているように見えた。良い人達ばかりに会っていたが、やはり知らない人から見たらこんなものなのだろう。まあ例の情緒の天秤とか言う俺のスキルが発動していないだけマシだ。
でも、俺も仕方ないのかな、とちょっと思う。
まあ俺の顔がブサイクでゴリラ顔っていうのもあるだろう。この世界は色んな種族が居るが、人族といういわゆる普通の人間は、整った顔立ちの人が多い。なので、俺のような顔は目立ってしまう。
でも今、歩いているだけで何か悪目立ちしているのは俺の顔だけが理由じゃないだろう。
ミリィを中心に、まるで親子のように三人で手を繋いで歩いているのだ。
明らかにまだ子持ちとは思えない若いメルと、ゴリラ顔の俺と、幼女にしか見えないミリィ。
そりゃあ傍から見ればどういう関係性なのか謎だろう。
「あ、あの……恥ずかしいです……」
「メル……俺もやっぱり普通に歩きたいんだが……」
「えー? ミリィちゃん小さいから迷子にならないようにって思ったんだけどなあ……」
「その、わたし小さいように見えるかもしれないですけど、大人と変わりませんから!」
なんだろう、強がって大人ぶってる子供にしか見えないし聞こえない。
でも事実だ。こいつは元々は天使長だったのに、色々やらかしたせいで降格に降格を重ね、今や『下級天使見習い補佐代理心得』とかいう最早天使かどうかも怪しいレベルまで格下げされたのだから。ちなみに今は精霊のふりをして俺のサポート役をしている。
「んー……まあギルドまで後ちょっとだし、普通に歩こっか」
「うん、そうしてくれると俺も助かるよ。周りの視線が怖い」
いつ嫌悪感を抱かれてダメージを受けるかわからないからな。妙な事は避けておきたい。
さて、ギルドまではあと少しだ。昨日も見た大きな建物が見えてきた。
「おっきな建物ですねー」
ミリィは初めて見るので大きさに少し驚いている。が……。
「あれ……? でもよく見ると……」
「ああ、ボロいんだよな……。まあ、中はちゃんとしてるから」
遠目に見ると大きくて立派な建物だが、いざ近づいてよく見ると、所々壊れていたりする場所が目立つ。俺に補償金をくれたのは有り難いが、こういう所の修繕費にもっと気を使ってもいいのではないだろうか。まあ、中に入ればチンピラにしか見えないような輩も結構居たので、直しても壊される、という事情があるのかもしれないが。
とにかく、ギルドに到着したわけだし、さっさと中に入ろう。
「……あれ? 思ったほど人がいないな」
ギルドの中は、昨日ほどの活気はない。人はいるにはいるが、受付やクエストボードの辺りにほんの数人だけだ。
「あ、みんなあっちに居るみたいだよ」
そう言いながらメルがある方向を指さした。
受付のある広間の奥の方は、フードコートのように椅子とテーブルが並べられていて、そこには昨日見たチンピラみたいな人達や冒険者のような人たちが食事をしていた。
そういえばコヨンさんが酒場や料理屋もあるとか言っていたっけ。まだ朝の早い時間だし、飯を食べてから依頼を受けたりする人が増えるんだろうな。
「空いてる今がチャンスかもな。じゃあ、クエストボード見てみるか?」
「あ、ちょっと待って」
今のうちにクエストボードを見て良さげな依頼を……と思っていたのだが、メルが何か言いたいようだ。
「依頼を受けるのってギルドカードが必要なんだからさ、ミリィちゃんのカード作らないといけないんじゃない? それとも精霊だから必要ないのかな……?」
ああ、そういえばそういう問題があったか。
受付の方も今ならあまり人がいないし、先に聞いてからの方がいいだろうか。よく見たら受付の昨日と同じ場所にはリナさんがいるみたいだ。俺の事情も知っている人の方が話が早いだろう。
「そうだな、丁度受付にリナさんがいるっぽいから、まずは聞いてみるか」
「そうだね、行こっかミリィちゃん」
「は、はい……って、手を繋がなくても大丈夫ですってば!」
相変わらずメルはミリィを小さな子供みたいに扱っている。そのうちちゃんと説明してあげた方がいいかもしれない。
メルに手を引かれたミリィと一緒に、俺たちはリナさんの居る受付に向かった。
近くまで行くと、リナさんは俺たちに気が付いたようで、笑顔を向けてくれた。
「おはようございます。早速来てくれたんですね、お二人……あれ? もしかして、そのお子様は……」
元気に挨拶をしてくれたリナさんだが、メルと手を繋いでいるミリィを見て少し固まった。
「ああ、こいつはですね……」
ややこしい事になる前に説明してしまおうと俺は声をかけたのだが、それを遮るようにリナさんは語りだした。
「いえ、言わなくていいです! 昨日の今日ですよ!? まだ十数時間ですよ!? 人族の妊娠期間は十ヶ月ほどのはずです。一部の獣族は、ひと月ほどで出産するというのも聞いた事はありますが……それが昨日までまだそこまでの関係では無かったはずの男女が、今日には幼児を連れて歩いている……。つまり、この街の時間の流れが歪んでいるか、あるいはアダチヤマさんの……その、繁殖能力が人知を超えた神の領域にあるということですね!? つまりそれが! ニホンという民の特殊能力なんですね!」
「怖いよリナさん」
思っていた通り盛大に何かもう色々と勘違いをされているようだ。さすがにメルもちょっと引いているし、ミリィに至っては初対面の印象がこれだ。どうしようもねえ。
しかし、そんな中で勇気あるミリィが一歩前に出て、リナさんに言い放った。
「あの……受付の方、誤解ですよ。わたしはミリィ。昨日ゴンゾーさんと『契約』して、そのまま『受肉』しただけですから!」
ミリィが助け舟のつもりで口を開いたが、それがトドメだった。こいつはまた余計な事を言いやがる。
「け、契約して即受肉!? つまり法的な手続きすら飛ばして、ダイレクトに生命を……!? メルさん、あなたそんな破廉恥な契約を許したんですか!?」
もうダメだこの人、早く誰か何とかしてくれ。
「……リナ、何をやってるんですかあなたは……? ちゃんと仕事してください」
どうしようもない暴走状態のリナさんを止められる救世主、コヨンさんがやって来てくれた。
「さて……登録した翌日から来てくれたのはギルドとしては有り難いのですが……幼児を連れてきて契約だとかちょっと聞き捨てならない言葉がいくつか聞こえたのですが……ギルドの者として、というか大人として聞いておきたいので、一応説明をお願いします」
「最初からそのつもりだったんですけどね……」
「それは……リナが申し訳ない……」
暴走してしまったリナさんはとりあえず放って置くとして、きちんと話が通じそうなコヨンさんに俺たちは説明することになった。




