25「祝福」
「やあ、君がゴンゾーくんだね。俺はバルトロ、ベティの父でこの宿の店主だ。精霊と契約するなんて凄いじゃないか! 君さえよければうちの宿にミリィちゃんとずっと泊まってくれたまえよ! もちろん宿代は貰うが、代金なんかもサービスするからね。精霊の生まれた宿、精霊のいる宿なんて言ったらお客さんも増えるだろうしな!」
ガッハッハと豪快に笑うこの人、バルトロさんはやはりベティさんの父親のようだ。
「バルトロさーん、私の宿代は安くしてくれないのー?」
「メルランは今日からしっかり稼ぐんだろ? それにうちより安い宿なんてそうそうありゃしねえぞ。……ああ、ゴンゾーくんは家族向けの大部屋が空いたら料金そのままで移って貰おうと思ってるんだが、メルランも一緒に移るか? かなりの節約になるぞ!」
また豪快に笑いながらとんでもない事を言ってきた。まあ言い方からしても当然冗談なのだろう。メルだって年頃の女の子だ、男の俺と同室だと色々とまずいだろう。というか本当はミリィと一緒でもあまりよくないのだけど。
「ゴンゾーと一緒の部屋かあ……部屋代も折半にすれば確かにかなり節約になるかも……。それに、ミリィちゃんの事も見てあげられるし……いい案かも!」
冗談のはずだったろうに、当の本人はなぜか本気にしていた。
さすがに俺もそれは困る。一応俺だって年頃だし、見るのも見られるのも気になる。まあミリィは……さすがに小さな子に興味とかある訳が無いし、犬猫に裸見られても気にならないようなものかな……。
「おいメルラン……お前一応年頃の女の子だったよな……? 冗談だったんだが……」
さすがにバルトロさんも少し引いている。
実際の所、さすがに出会ってまだ一日しか経ってない女の子と同室でやっていける自信は俺には無い。
「えー冗談だったのー? いい案だと思ったのになぁ……」
自分が可愛い女の子だという自覚が一切無いんだろうな……。
自分が襲われるかも、とか色々と見られて困る、とかも頭に無いのだろうか。
「ミリィちゃんのお着替え終わったよー! サイズぴったりで良かったねー」
ベティさんに手を引かれ、服を着替えたミリィがやってきた。
動きやすそうなシンプルな服装だ。けれどそこまで質素な感じも無く、服だけで見れば街で遊んでいそうなただの子供だ。また、服だけではなくブーツや革製と思われる防具も身につけていて、手には木製の杖も持っている。まるで小さな冒険者だ。
「わあ、冒険者みたいだね! 凄く似合ってる!」
「私の小さい頃の服と装備なんだ。小さい頃は冒険者に憧れてたからね。もう使う事も無いし、ミリィちゃんにあげるよ」
「あの頃のベティは可愛かった……パパみたいな冒険者になる―って毎日のように言ってくれてなあ……あの頃を思い出すなあ。いつか孫ができたらと思ってずっと取っておいたが、そんな気配も無いし……有効活用してくれたまえよ!」
とりあえずベティさんに恋人がいないであろうことは分かったが、こんなに貰ってもいいのだろうか?
「でもいいんですか? 大事な物だったんじゃ……」
「いいのいいの。それに、昔の服や装備はこれだけじゃないからね」
「ありがとうございます。こんなに良くして頂いて……今のわたしにできるのは、これくらいですけど……」
ミリィもお礼を言っている。それだけでは悪いと思ったのだろうか、ミリィは突然目を瞑って両手で杖を握り、何かを唱えだした。
「……この場所に、祝福を……!」
突如、ミリィの周辺が淡く光り輝いた。その光は円状に広がり、宿の薄暗い部屋を一瞬にして白銀の世界へと塗り替えた。清浄な輝きが波紋のように壁を抜け、床を浸透し、建物全体を包み込んでいく。それはかつての天使長としての権能の片鱗かと思えるほどだった。
なるほど、これが祝福か。体が軽くなったような感覚があり、清々しい気持ちになってくる。
効果は抜群だな。
「おお、これが精霊の力……!」
「凄い、これがミリィちゃんの力なのね……!」
「なんだか、体が軽くなってきたよ!」
ミリィが精霊だと思い込んでる三人は、その祝福の力に驚いている。
実際の所凄い力だとは思うが、俺は三人に聞こえないように、こっそりとミリィに聞いてみた。
「おい、何なんだこの力は?」
「ああ、これは浄化魔法と光魔法の組み合わせですね。それっぽいでしょ?」
「……お前、もしかして本当は有能なのか?」
「ふふん、もっと褒めてもいいんですよ!」
胸を張って偉そうにミリィが言い出した。ちょっとイラッときたが、まあこれは本当に有能なので許してやろう。
「精霊に祝福された宿だなんて、繁盛間違い無しだな!」
「本当、ミリィちゃん凄いわね!」
ベティさんたちはまだミリィを絶賛している。
さて、ミリィの服も何とかなった事だし、そろそろギルドに向かった方がいいかな。
「さて、じゃあそろそろギルドに行くか? ミリィも冒険者っぽくなったし、こういう変な力も持ってるみたいだし、これで大丈夫だろ」
「そうだね、こんなに凄い力を持ってるなら問題無さそうだね! でも、モンスターが出たら私たちの後ろに隠れるんだよ?」
「はい、回復魔法も使えるので、そういうのは任せてください!」
今までの事はともかく、できる事を考えたらこいつ本当に有能かもしれない。
というか、近接戦闘の俺、シューター技能で遠距離攻撃できるメル、回復や支援のミリィ。パーティーとしてのバランスはいいんじゃないだろうか。
「それじゃあ行ってらっしゃい。無理だけはしないようにね!」
「今日の夕飯は豪勢にしとくからな! 頑張ってこい!」
こうしてベティさんとバルトロさんに見送られながら、俺達はギルドに向かう事にした。




