24「出発前に」
カーンカーンと大きく響き渡る鐘の音で目が覚めた。朝日で部屋は少し明るい。
かなり疲れていたからか、ぐっすりと眠れていたのだろう。まるで目を瞑ったら即座に朝になっていたかのような気分だ。
とりあえず俺は目覚めたが、さて駄天使ことミリィはどうかな?
「……主天使様、違うんです……だって、近代化といってもパソコンからタブレットは……せっかくパソコンの操作を覚えていたところなのに……うう……」
何かよくわからん夢を見てうなされている。
とりあえずさっさと起こすことにしよう。
「ほら、起きろミリィ。今日はギルドに行くんだよ」
とりあえず雑に体を揺さぶって起こしてみる。
「……主天使さま……はっ! お、おはようございます。すみません、ベッドを占領してしまって……」
「まあそれはいいんだけどよ。今日はこれからメル……昨日居た桃色の髪の子な。あの子とギルドに行って一緒に依頼を受ける予定なんだが」
「もう依頼を一緒に受ける仲間が居るんですね。そういえば、私が来たのって、ゴンゾーさんがこの世界に来てから何日目くらいなんでしょうか? 一応わたし、天界ではあの後すぐに降格してすぐにこちらに送られた感じだったんですが……」
「いや、割とすぐだよ。こっちに来て初日の夜にお前が来たって感じだ」
「え! じゃあたった一日でこちらの衣服を手に入れたり仲間も見つけて宿代も稼いだんですか!? ゴンゾーさん凄いじゃないですか!」
まあ俺もめちゃくちゃ運が良かったとは思う。
あと、メルがめちゃくちゃいい子だったからだな。
「まあ、かなり運が良かったって感じだが……その辺りはまた説明してやる。で、お前はギルドに一緒に来るのか?」
俺のこの言葉に対して、ミリィは何故かきょとんとしている。
「え? 当たり前じゃないですか。わたしはゴンゾーさんのサポートが役目ですからね!」
「でもなあ……お前を連れて行くとな、幼女に無理させてるって俺が何か言われそうだし……」
見た目幼女のこいつをギルドに、ましてや討伐依頼に連れて行くなんて言ったら、その保護者と思われている俺が周りからどんな風に思われるやら。絶対にベティさんに止められるだろう。
「で、でも、わたしの回復魔法があった方が絶対に役に立ちますし! その……ゴンゾーさんにもしもの事があったら、わたしも非常に困りますし……」
「何だ? 俺が天寿を全うできればそれでいいんじゃないのか?」
確か、こっちに来た理由は俺が天寿を全うした時にスキルを回収する事だとか言っていた気
がするが。
「あの、わたしとしてもゴンゾーさんをお助けしたいという気持ちは本当なのですが、ちゃんと手助けをしているか等の定期報告を天界に送らないと、また怒られてしまうので……」
なるほど。天寿を全うするのを待ってるだけっていうのは天界が許さない、ちゃんと仕事しろって感じなのか。まあ俺としても役に立ってくれるならそれはそれでいい。
「そうだなあ……俺は精霊について全然知らんのだが、この世界には精霊って本当にいるんだよな? なら精霊が俺について来てもおかしくない理由って何か無いのか?」
「あ、それでしたら契約をしたという事にするのがいいと思いますよ。精霊と契約することで、人間は精霊から加護を得たり精霊の力を使えたり、精霊そのものを使役したりするんです。代わりに人間は精霊に魔力を提供したり、場合によっては魂を提供したりするんです」
「魂って……それ大丈夫か?」
「わたしがそうするわけじゃないですよ! あくまでそういう精霊もいるって話です!」
「ああ、そうだった。あくまで仮の話だもんな。まあ加護とか精霊の力は無理だろうけど、使役するって感じにするしかないか……結局幼女を無理に連れ回してるって俺の評価は落ちそうだけど……」
ついてくる理由はそれでいいだろうけど、根本的な所の解決は難しそうだ。
ともかく、早く準備をしてメルと合流しなければ。あまり待たせるわけにもいかない。
俺は昨日買った装備品を身に着け、荷物をある程度バッグにまとめて、朝飯をミリィと分けて、それを頬張りながら部屋を出た。
受付の前まで行くと、メルは既に来ていたようだった。受付でベティさんと雑談をしている。
「ごめんな、待たせたか?」
「今来たばっかりだから平気だよ。それより、ミリィちゃんはやっぱり連れて行くの?」
「ああ、よくわからんが俺と契約したからついて来るんだとさ」
「「精霊さんと契約!?」」
メルとベティさんの声がハモる。
「凄い、おとぎ話みたいだね! でも、大丈夫かな? 討伐依頼だといくら精霊さんでも危ないんじゃないかな……それに、精霊さんって服とか装備とかどうなるのかな?」
「こんなに小さいのに……でも、人間とは色々と違うだろうからね……。できればうちで看板娘になって欲しかったけど……」
まあ、二人の心配も当然だろう。
そういえばあまり気にしていなくて今気付いたが、ミリィの服だ。
シンプルな白いワンピースといった感じの服装に裸足のまま。ちなみに当の本人はのん気にまだ朝飯を頬張っている。
「受肉したとか言ってたし、こうして飯も食べてるし、人間と変わらないんじゃないか? ただまあ、もう少し動きやすい服とか靴くらいどうにかしてやらないとな……」
ギルドに行く前にまた服屋に寄って服とか色々揃えてやらないといけないな。
「あ、それならいいものがあるよ、ちょっと待ってな」
ベティさんはそう言って、受付の奥にある部屋に入って行った。何かを取りに行ったのだろう。
「父さーん! 私の昔の服とかって確かここに仕舞ってあったよねー?」
「あー? それなら奥の箱に仕舞ってたと思うが、何だ今更ー?」
奥の方からベティさんとそのお父さんらしき人の声が聞こえる。
しばらくわちゃわちゃとその二人の会話が聞こえていたが、何か色々取り出したりもしているのだろう、ガタガタと何かを動かしているような音も聞こえてきた。
一方でミリィはようやく朝飯を食べ終えたみたいだ。元々俺と半分こしたものだが、やはり体が小さいのもあって、それでも少し大きかったのかもしれない。食べ終えて満足そうにしているミリィを、微笑ましくメルが眺めていた。
「お待たせ―! 私の小さい頃の物なんだけど、たぶんミリィちゃんでも着れると思うんだ。もしよかったら使って!」
「いやあ、うちの宿から精霊が産まれるなんて、いい宣伝になるってもんだよ。ミリィちゃんだったね、いくらでもうちに居てくれていいからね」
ちょっとゴツいおじさんがベティさんと一緒にやってきた。恐らくベティさんのお父さんだろう。確か元冒険者とか言ってたし、筋肉も凄い。とても冒険者を引退した人には見えない。
「ここだとあれだし、こっちで着替えるといいよ。ミリィちゃん、おいで?」
「はい、ありがとうございます」
小さな子に接する感じでベティさんは声をかけるが、こいつ見た目が幼女なだけだからなあ……。中身は……そういえば何歳くらいなんだろう。でも、元は天使長ってくらいなんだから、もういい大人だとは思うが。
そんな感じでミリィの服については解決しそうなので、俺達は着替えを待つ事になった。




