22「勘違いなんです」
さて、どうしよう。
俺の目の前には身長百三十センチ程の少女。
そしてもう日は落ちて暗い中、宿の部屋に少女を連れ込んでいる……ようにしか見えない状態だ。
鍵はしてあるがマスターキーとか合鍵とかあるだろうし、わずかな時間で扉は開けられてしまうだろう。
とりあえず俺は、小声で天使……いや下級天使……なんとか、今の名前はミリィだったか。
ミリィに小声で話しかけた。
「おい、こんな時間にお前みたいな奴を部屋に連れ込んでるのを見られたらまずいぞ! お前姿を消したりできないのか?」
「そ、それは……天使長の時ならできたんですが、今はそこまでの力は無くて……」
「くっ……なら妹とか……無理があるか……しかし他に何か……ああもう、何かないのか!」
「素直に娼婦を知らずに呼んでしまったと誤魔化すのが一番無難なのでは……?」
「お前のような見た目の娼婦呼んだとか社会的に死ぬだろ! お前は俺を日本で死なせた上にこの世界でも社会的に死なせる気か!」
間違いない、こいつは俺を不幸にする存在なんだ。イラついてきた。
とりあえず殴るのは問題なので両頬を引っ張ってやった。
「ああ、違……違いまひゅ、そんにゃつもりひゃ、いひゃいでひゅ!」
こうしてやることで多少俺のイラつきは収まったが、そんな事をしている暇は無かったのだ。
無慈悲にも扉は開けられてしまった。
「あの、ゴンゾーさん、開けますからね。服とか着てますよね? 娼館に行くなら行くで……」
扉を開けたベティさんは途中で固まってしまった。
ベティさんの目の前には、大柄な男が小柄な少女の両頬を引っ張り、その痛みで涙目になっている少女が映っている事だろう。
恐らくベティさんは俺が娼婦か誰か女を連れ込んで……というのを想像していたのだろう。
それが、目の前には少女に暴行を加えている俺の姿だ。そんなものを目撃してしまったらどうなる?
「せ、性犯罪者! 幼女誘拐! 誰か! 誰か―!」
『恐怖と嫌悪と敵意を確認。ステータスの低下とダメージを受けます』
「ぎゃああああ!!」
体が重くなって今までで一番痛いダメージが体を襲ってきた。電撃をモロに受けたような、鋭い針で全身を貫かれたような痛みだ。
「あ、アダチヤマさん! あの人を敵だと思って!」
スキルを解除するためなんだろうけど、なんて事言うんだこの下級天使。
「できるか!」
勘違いでこうなった訳だし、ベティさんは悪くない。それに親切にしてくれた人に対して即敵対とかできるわけがない。
「お、落ち着いてくださいベティさん! 誤解です! 誤解ですから!」
他に人が来ると更にややこしくなるだろう。言い訳は後で考えるとして、とにかくまずはベティさんを落ち着かせなければいけない。
「だ、だって、そんな幼女を部屋に連れ込んで! うちの宿で一体何をする気だったの!」
「連れ込んでません! 何か……何か勝手に部屋に居たんです!」
苦しい言い訳かもしれない。でも何にも思いつかないんだもの。そして体が重いし痛い。
恐怖に嫌悪に敵意。今までで一番の嫌われっぷりだったもんな。でもしょーがない。俺だって同じような場面に遭遇したらそうなる。
「え? ……勝手にって……もしかしてお嬢ちゃん、勝手に部屋に入ったの……?」
嘘だろおい、通用するのか。
でも好都合だ。嘘をつくという行為は良くない事だが、この際仕方がない。俺の社会的な命がかかっているのだから。
とりあえずこいつ……ミリィには話を合わせてもらわないといけない。
俺はミリィを見て、ベティさんからは見えないように目で何度かウインクをして合図をした。
ミリィは一瞬ポカンとしていたが、察してくれたのか、ウインクをし返してくれた。
「えっと……ごめんなさい、わたし、行くところが無くて……その……」
お、いい感じだ!
絶妙に嘘も言ってない。この世界に来たばかりのミリィは他に行き場所は無いだろうからな。
「困ったな……孤児院の子かな? でもこんな子は見かけた事無いし……髪も服も綺麗すぎるし……まさか、どこかのお屋敷から逃げ出してきたお嬢様じゃないでしょうね? それとも、昔おとぎ話で聞いた事のある精霊の類とか……?」
なんかいい感じに勘違いしてくれてるみたいだ。
この感じだと、孤児だとかどこかのお嬢様ってのよりは、精霊だのと思われた方がいいのかもしれない。実際の所、こいつは一応は天使な訳だし。
とりあえずベティさんに見えないようにミリィに向かって口だけで『精霊』と伝える。
ダメ押しで俺も言い訳をしておこう。
「そ、そういえばちゃんと鍵はしていたのにこの子が居たんですよ! 普通の人間じゃ無理なんじゃないかな……?」
「そうなの……? じゃ、じゃあこの子は……泥棒にも見えないし、本当に……精霊さん?」
ベティさんのその言葉に対して、ミリィは困惑しながらも、ゆっくりと頷いた。
「嘘……うちみたいな宿屋に精霊がいたなんて……。で、でも、一体何の精霊さんなの? お掃除を手伝ってくれるっていうシルキーさん……それとも家事を手伝ってくれるブラウニーさん?」
この世界でもおとぎ話でそういう精霊さんは居るんだろう。でもこうして普通に存在を信じているのは本当に存在するケースがあるからなんだろうか。
さて、ミリィはどう返答するだろう。ベティさんが精霊と信じてさえくれれば俺の社会的地位もなんとかなりそうだ。
「わたしは……えっと……せいえき……?」
ベティさんは固まった。
俺も固まった。
そして、何か俺の社会的地位が死んでしまったような、そんな気がした。
今日はもう一話追加で投稿します!




