20「一日の終わり」
「しかし、食事に満足できて良かったよ。食べ物が自分に合わなかったらこの先やっていけるか不安だったからな」
「あー、それよくわかるよ。旅先とかで、あんまり美味しくないものとかどうしてもあったから……ヒュージワームは苦手だったな……」
名前からして虫……それもミミズ系だろうか?
だとしたら俺も遠慮したいところだ。
とにかく、俺たちはそんな感じで食事をしつつ適当に雑談をしていた。
まだ混むほどではないが、周りも少しずつ客が増えてきて、そんな人達の話し声も聞こえてきた。
「まーたホーンラビットか……。嫌いじゃないけど、最近はどこの店もこれが多いよな」
「最近はかなり数が増えてきてるみたいだぞ。畑を荒らすし、討伐依頼も増えてるんだってさ」
「そこまで危険じゃないとはいえ、ツノで刺されたら怪我じゃ済まないからな……また駆け出し冒険者が即引退するような時期が来たって感じだな……」
周りの人達はとても興味深い話をしていた。
こういう害獣みたいなモンスターの討伐依頼があって、やはりそれで稼いでいくんだな。そして肉なんかはこうしていろんな場所に巡って行くと。
そして今はそんな討伐依頼も増えている。まったく危険が無い訳じゃないみたいだけど、ちょっと俺も興味が沸いている。せっかく異世界に来たんだ、やっぱりそういうゲームの依頼みたいな事は一度くらい経験してみたい。
そんな風に思っていると、メルも同じように思っていたのか、こんな事を言い出した。
「ホーンラビット討伐依頼か……楽勝だね! 村で何度もやってたし、ゴンゾーは私よりもレベル高いし、明日ギルドで依頼が出てるか見てみようよ!」
メルは凄くやる気だった。
でも、メルは何度もホーンラビットを倒したことがあるみたいだし、とても心強い。初めての討伐依頼には丁度いいのかもしれない。
「そうだな、俺も討伐依頼ってのに興味あるし、経験者のメルがいるなら俺も安心だよ」
「じゃあ明日は一緒にホーンラビット討伐だね! 村だと一匹四千とか五千で買い取りだったんだよね、この辺りだとどれくらいになるのかなー?」
一匹五千……あれ? 思ったより高いな。夕食に出てきたこのホーンラビットの香草焼きも結構大きかったから、もしかして俺の想像より大きいモンスターなのかもしれない。それにツノがあって刺してくる……あれ? やっぱり結構危ないやつなのでは?
「……なあ、楽勝って言ってたけど危ないモンスターとかじゃないのか?」
「え? まあ近づいて突進されたら確かに危ないけど、離れて石を投げて倒すとか、突進してきても急には曲がってこないから横によけちゃえば大丈夫だよ!」
ああ、そういえばメルはシューターってスキルを持ってたんだったな。確かそれでモンスターを倒していたって言ってた。
俺も野球経験くらいはあるし、遠くから倒せそうならなんとかなるだろう。
それに、メルの言っている金額通りの稼ぎになるなら、二人で分けても二匹討伐すればとりあえずはその日暮らしができそうな感じだ。
「あ、そろそろお客さん増えてきたね。明日は早くから討伐依頼に行きたいし、今日の所はもう部屋に戻って休んじゃおうか?」
席がいっぱいという程ではないが、確かにお客さんが増えてきているようだった。
腹も膨れたし、正直少し眠くなってきている。明日を考えるなら、今日の所は早めに寝た方がいいだろう。
「そうだな、明日早く出るんならもう寝ておきたいかな。正直、今日は色々あって疲れたからな……」
「そういえば転移したの今日だもんね、ゴンゾー。それじゃあ、戻ろっか」
ちなみにサービスで追加されたパンと干し肉があったのだが、それは朝飯用に残しておいた。
そんな感じで俺たちは食堂を出て、それぞれ自分の部屋に戻ることにした。
受付の前まで来たが、ベティさんはどうやら食堂側の方の仕事が忙しいみたいで、受付の方には誰も人が居なかった。まあ、この時間に宿側の客は少ないのだろう。
階段を上がり、俺は二階へ。メルの部屋は三階なのだろう、今日の所は俺たちはそこで別れることにした。
「それじゃあ、私は上の部屋だから。明日は朝の鐘が鳴ったら、準備して受付の前に集合ね!」
「おう、わかった。じゃあ、おやすみ」
朝の鐘ってのはよくわからんがとりあえず鐘が鳴ったら起きて受付に向かう事にしよう。
さて俺の部屋は確か二階の一番奥だったな。鍵を取り出して早速部屋を開けてみる。
扉を開けると、そこには予想に反し清潔な空間が広がっていた。シンプルなベッドと簡素なイスとテーブルがあるくらいだが、埃臭さとかそういった臭いは無い。さすがに日本にあったようなふかふかな布団などは無いが、綺麗なシーツと枕もある。一泊三千アラド……仮にこれが日本で一泊三千円と考えたら十分すぎる程だ。夕食も付いてたしかなりお得だ。
内側からもちゃんと鍵をかけられるみたいなので、ちゃんと鍵をかけておく。
今日一日でそれなりに使ってしまったが、まだまだ結構な金額が残っている。防犯は大事だ。
とりあえずこれで大丈夫だろうと思ったら、なんだかドっと疲れてきた。
考えてみれば、今日一日は本当に色々あった。
天使のミスとやらで死んだと思ったら、異世界に転生……するはずだった。なのに恐らく更なる天使のミスで、今度は転移になってしまった。たまたま優しい人に出会えて、ギルドで運よく補償金が貰えたから良かったけど……まだこれから先はわからない。
異世界で生まれ変わってモテモテライフ! とか考えていたのが馬鹿らしくなるくらいだ。
今はとにかく、生きていく事を考えなくちゃいけない。その為にも稼いでいかなくちゃな。
ベッドに横になると、一瞬で睡魔が襲ってくる。
体も、心も、俺が思っていた以上に疲れていたんだろう。
俺は、泥のように眠りについた……。
かと思った。
「うわわ! あ、危ない!」
天井から突然、少女が降ってきた。
少女は俺の腹がクッションになったのか無傷だったようだが、肝心の俺はそうはいかない。結構痛かった。
「あ、あの……ごめんなさい……。でも、何とか間に合い……ました……かね?」
痛みでのたうち回っていると、少女はよくわからない事を言っていた。
金色の髪は長く伸びていて、部屋は薄暗いはずなのに綺麗で輝いて見えた。そして俺を見つめる緑色の瞳。その目にはどこか見覚えがある気がした。
そしてそして、少女の背中から見える、見覚えのある……翼。
まさか、こいつは……。
「アダチヤマさん、お久しぶりです!」
あの時の天使が、この世界に来やがった……?




