02「生まれ変わってみよう」
「なあ、生まれ変わりってどういう感じになるの?」
「は、はい。また同じように日本に生まれ変わるという事でしたら、お金持ちの家に生まれるようにするとか、記憶を引き継いだまま生まれ変わるとか、そういった事ができます」
「イケメンに生まれ変われるとかないの?」
「さすがにそれは生まれるまではわかりませんので……なるべく容姿端麗な両親の元に、という事ならば可能なんですが……」
なるほど、まあ十分有利な条件ではあるな。記憶を引き継いだままっていうのも面白そうだ。
天才児として色々と面白い人生を歩めるかもしれない。
だが、俺はまだ十六歳。記憶を持って生まれ変わるにしても人生経験が足りない。
学力だって並だったから、それ以上の知識は無い。スタートラインは他の皆よりもかなり先かもしれないが、本物の天才には絶対に敵わないだろう。
「有利な条件っていうのはそれだけか? 他になんかないの?」
「えっと……日本……地球ですとそれが限界ですね。ですが、アラドフィールという世界でしたら、それなりに優遇できるのですが……」
地球以外……だと?
つまり、異世界って事か。
「あー、そのアラドフィールっていうのは何なの? さすがに聞いた事が無いんだが」
「地球の表現で言いますと、異世界になりますね。多種多様な種族と、魔法や魔物……モンスターといった概念がある世界です。スキルや加護といった特殊な能力を持って生まれる人もいますので、そういったかなり有利な物を持ったまま生まれ変わる事も可能です。ただ……」
天使は困った顔で少し言い淀む。
いま聞いた限りだと魔法のある世界で特殊なスキル持ちって、日本で金持ちとかよりもかなり面白い人生が歩めそうだ。
「ただ、何だよ?」
「いくら有利なスキルがあったとしても、日本よりも危険なのは間違いありません。現在魔族とは戦争中ですし、優秀な子として生まれれば将来的には戦闘に駆り出されるかもしれません。私がどうにかできるのは地球での生まれ変わりか、そのアラドフィールへの生まれ変わりですが……アラドフィールはあまりお勧めはできませんね……」
ふむ、魔法ありだけどそれなりに危険がある世界か。でも面白そうな世界だな。
生まれ変わるって事ならこの顔ともおさらばできるし、特殊なスキルを持っていれば、ある程度無双できるんじゃないだろうか。
「なあ、そのアラドフィールってのに生まれ変わるとしたら、俺の記憶はどうなるんだ? あと記憶とその特殊スキルってのは両立していいのか?」
「それは問題ありません、記憶は今のものを維持したまま生まれ変われますが……。あの、恐ろしいモンスターとかいるんですよ? そりゃあ戦争中とはいえ全ての地域が危険という訳ではないのですが……」
「それはまあ置いといて。あと気になったんだが、特殊なスキルっていうのはどんなのがあるんだ?」
「えっと、大気から魔力を吸収して魔力が尽きないものや、他人のスキルを奪うもの、未来視、時間逆行……様々ですね」
「それ全部とかは無理なの?」
「一つだけと決まっていますので……。それに、これらのスキルは一人の人間が持つには危険すぎて天界では封印されたスキルですので……選ぶことは禁止されているんです。生まれ変わりの際にその封印級のスキルからランダムで一つ、という事になりますね……」
なんだランダムなのか。
でも聞いた限りだとどれになったとしてもかなり無双できるんじゃなかろうか。
無限の魔力を持つ魔法使いなんて、その世界ではチートだろう。
未来視や時間の巻き戻しなんてものなら、そう簡単には死ななそうだし、ギャンブルのようなものがあるのなら、大儲けできそうだ。
封印されるほどのスキルを一つっていうのなら、どれでも使い方次第ではその世界では天下を取れるんじゃないだろうか。
「記憶を引き継いで、そのスキルとやらを貰って、その世界の比較的安全でそこそこ裕福で容姿端麗な両親の元に生まれ変わるっていうのは可能か?」
「可能ですけど……いいんですか? 日本とはかなり世界観が違うと思いますので、苦労されると思いますし……。それに、日本に未練とかは……」
未練か。
そりゃあ、あるに決まっている。こちとら何もしていないのに殺されたわけだし。
「あー……そういえば、俺が死んで、両親や友達はどうなったんだ……?」
「……皆様、とても悲しんでおられました。原因不明のものでしたし、当然です。ですから、お詫びも兼ねてこうして他の方には無い特別な条件が付いたのですよ」
両親も友達も、俺にとっては掛け替えのないくらい大切な人だった。
こんな顔の俺とも仲良くしてくれた友達。
こんな不細工な息子に沢山の愛情を注いでくれていた両親。
仮に地球に生まれ変わるなら、俺はやはり日本を選ぶだろう。安全だし、引き継いだ記憶を活用するのなら日本しかないだろう。
そうしたら俺はどうするだろう。
「……正直、日本は恋しいよ。だけど、記憶持ったまま生まれ変わったら、たぶん俺は両親とか友達を見に行っちまう。そうすると、どうなると思う……?」
「それは……どう転んでも、良い結末になるとは……その……」
だろうな。忘れかけた頃に無理に思い出させてしまったり、別人になった俺……つまり他人に思い出を汚されるような形になるだろう。
「じゃあ記憶を消して生まれ変わるとする。けどさ、それって全部忘れてるわけだし、それは俺なのか?」
「……魂は同じですから、私達からすればあまり変わらないのですが、記憶とか人間の概念からすると、その……別人と言えますね……」
いわゆる輪廻転生ってやつかな。
やはり俺っていう存在そのものは消える感じになるのだろう。
「そうなると、そのアラドフィールってのに生まれ変わるのが一番いいと思う。たぶん、それが誰も悲しまないだろ」
俺のこの考えを天使は真面目な顔で聞いていた。
そして、俺の話を聞き終えると、微笑みながら答えた。
「安達山権蔵さん、貴方は優しい方ですね。顔は怖いですけど……」
「ねえ喧嘩売ってる?」
「ち、違います! ただ、貴方がそんな人ですから、こんな無茶な生まれ変わりの許可が下りたんだな、と思いまして……」
やっぱりそういう許可ってあるのか。天使長とか言ってたからかなり偉いと思っていたが、更にその上がいるんだろう。
という事はこの天使は中間管理職なのか。板挟みで凄く苦労してそうだ。
「そういや生まれ変わる事だけ気にしてたけどさ、天国に行けたりとかはしないの?」
「天国なんかはあくまで天寿を全うされた方ですので……ですが貴方はそのまま生きていれば間違いなく、天国行きでしたよ。それに生まれ変わってもう一度人生を歩んでも、貴方ならまた天国に行けると思います」
「そっか、ありがとな。それじゃあ俺はそのアラドフィールってのに生まれ変わる事にするよ」
「わかりました。まあどのスキルになるかはランダムですが、どのスキルになってもその世界では二つとない物ですし、他の人よりもかなり有利になれるはずですから」
「そういえばどういうスキルかっていうのは自分でわかるものなのか?」
「ええ、特殊スキルは自分にしかわかりません。他人のステータスやスキルは、鑑定のようなスキルを持った人からは見られる事もありますが、それでも今回のような特殊なスキルは視えないようになっています。ともかく、他の人には無いスキルですので、誰にも話さない事をお勧めします」
「ああ、わかったよ」
俺がそう言うと天使は懐からタブレットのようなものを取り出した。
「それでは転生の準備を始めますね。条件は記憶の引継ぎ、封印スキルを一つ、戦争とは遠い地方で、裕福で容姿端麗な両親の元……でよろしいですか?」
「ああうん、それでいいんだけど……それ、タブレット?」
「そうです。天界も下界と一緒で近代化が進んでいますので。……実を言うと、これのせいで安達山さんを間違えて死なせてしまったんですけど」
操作ミスかよ。やってらんねー。
まあ色々と未練はあるが、この顔とおさらばする為だ。
「新しい機械って難しいじゃないですか。ぱそこん? ってやつもやっと慣れてきたのに急にこんな板みたいなものに替えられて、天界でも困ってるんですよ」
「まあ俺が死んじまった事はもういいけどよ。早く操作に慣れとけよ。俺みたいなのが今後何人も出てきたらやばい事になるぞ」
「そんな事になったら私も降格だけじゃ済まない事になってしまいますし、今後は気を引き締めて頑張りますので……」
「おう、頑張ってくれや。俺が大人になる頃に封印スキル持ちがもう一人居たってのは勘弁してほしいからな」
俺がそう言い終えると天使はタブレットを操作し始めた。
きっと生まれ変わりに関しての設定とか、色々あるんだろう。
ゆっくりとミスがないように一つ一つ確認しながら、天使は指を動かしていく。
「それでは、目を閉じてください。眠りにつくような感覚があると思います。その後、目を開ければあなたはもう生まれ変わっています。恐らく物心ついた歳頃になっているでしょう。それでは、貴方の人生に幸多からん事を……」
そう言われ、俺は目を閉じる。
そうか物心つく頃か……。二歳くらいかな。
目を閉じたままでいると、だんだん眠くなってくる。
さっき言っていた通りだ。俺はこれから生まれ変わるのか。
もう目を開けてもいいのだろうか。
もう俺は生まれ変わっているだろうか。
せめて次の人生くらい、まともな顔に生まれていたい。
新しい世界でモテモテライフをエンジョイできるだろうか。
少し不安になりながらも、俺は目を開けてみる事にした。
そしてその俺の目に映った物は……。
「おお……お?」
どこかの町。日本ではない事は一目瞭然だ。
石畳が敷き詰められた大きな通りには、行き交う人々の足音で活気に満ちていた。
道の両側には、何かの店が沢山並んでいる。
道行く人々は見慣れない格好の者たちばかりだ。中には明らかに人とは違う姿の、獣が二足歩行しているような人も居た。そんな人達が、ちらちらと俺の方を見ている。
そして俺はある事に気が付く。
「あれ……? 俺、そのままじゃん……」
俺は、生まれ変わっていなかった。
あろうことか、俺は元の姿のまま異世界に転移させられていた。
そして俺は決意する。
……あの天使、もう一度出会ったらぶん殴ってやろう、と。
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