18「武具屋2」
「店長じゃ無かったのかよ!」
心の声だけでは抑えきれず、なんか普通にツッコミを入れてしまった。
「え? いやいや、ただのアルバイトだよ?」
「凄く詳しそうだったのに……」
さすがのメルも少し困惑している。
「まあ、武器や防具が好きなのは本当だからな。鍛冶の腕は無いけど、少しでも武具に近い所で仕事がしたかったのさ」
……まあ、勝手に店長だと勘違いしたのはこっちだ。
それに、武具に詳しいならそれはそれでいい店員だろう。
「ところで、そっちの兄さんは何か買うのかい? ゼロから色々揃えるとなると、結構高くついちまうから、最低限見繕うかい?」
「あー、そうっすね。仮に簡単な討伐依頼に行くなら、何が必要ですか?」
「そうさなあ、簡易的な革鎧とかベストみたいな体を保護する物と、底が厚めのブーツ、手袋くらいはあったほうがいいな。それと討伐証明とか必要な場合があるから、解体用ナイフ。武器はまあ、兄さんの好みにもよるかな」
割と的確な事を言ってくるな、このアルバイトのおじさん。
しかしその最低限でもいくらになるんだろうか。
「武器無しでそれだけ揃えると、いくらくらいになります?」
「まあ、全部で三万五千ってとこか。革鎧をベストに替えるなら一万ほど安くなるよ」
鎧、ブーツ、手袋、ナイフでその値段ならまあいい感じじゃないだろうか。レザーベストにするならもっと安くなる。それで武器を買う資金にもっと回せるかもしれない。
「じゃあ一旦それ保留で。ちょっと武器も見たいんですよ」
「ああいいよ。それで、兄さんはどんな武器が得意とかあるのか?」
得意な武器……と言われても剣道はやっていたが、まさか竹刀なんて無いだろうし。
「竹刀っていう……まあ木剣ですかね。今までそれしか振った事無いんですが……」
「シナイ……聞いた事が無い武器だな。でも、木製武器ならあるぞ?」
こういう武器屋で木の武器とかあるのかよ。いやまあゲームでも棒やら竹槍が武器で売ってたりするからなぁ……。
「シナイってのがどういうもんか知らねえけど、まずはこの棍棒だな。ゴブリンがよく使ってるやつだ。意外と頑丈だし、何と言っても安い!」
そう言って、おじさんは棍棒を取って俺に持ってみろとばかりに差し出してきた。
とりあえず装備してみる。
「……うわあ……ゴンゾー、ゴブリンキングみたいだよ……」
「……あー……なんか、悪かったな……これは止めといたほうがいいな……」
二人のリアクションは最悪だった。
まあ、ゴブリンがよく使ってる武器だっていうし、そもそも人間はあまり使わない武器なのだろう。しかしゴブリンキングってなあ……まだ見た事も無いモンスターだが、そんなに似ているのだろうか。
まあそれは置いといて、武器としてのこれは、太いバットって感じでさすがにしっくりとはこない。この武器は無いな。
「じゃあこれはどうだ。先端は別素材だが、柄の部分は木製の槍だな」
「いや、槍は使った事が無いので……」
「ああ、そういやそうだったな。木製ってのに気を取られちまった。すると……後はこれくらいかな。ただ木製にしちゃあ、ちと高い」
槍を勧めてきたが、俺が断るとおじさんはすぐに別の場所から武器を取り出した。
やや黒っぽい、鉄のような棒。持ち手の部分には布のようなものが巻かれている。長さは一メートルより少し長いくらいか。ただ、木の棒には見えない。
「これは、アイアンウッドっていう珍しい木でな。名前の通り鉄のように硬いが、でも鉄ほど重くねえ。まあ木ではあるから、火には弱いんだけどな」
「なるほど……これは……」
おじさんから手渡されたそれは、確かに見た目ほど重くは無かった。さすがに竹刀ほど軽くは無いが、鉄の棒ほどの重さも無いのでまあまあ振りやすい。長さも丁度いい感じだし、値段次第ではこの武器でいいかもしれない。
「これ、いいっすね。さすがに竹刀よりは重いけど、同じ感覚で振れそうです。高いって言ってましたけど、どれくらいなんです?」
中段の構えを取りながら、値段を聞いてみる。
「おお、様になってるな。防御を捨てた相打ち覚悟の構えか……っと、値段だったな。この辺りには無い木材だからな、加工も面倒だし、二万ってとこだな」
剣ほどじゃ無いが、木の武器としては確かに高い。
正直な所刃物を扱うのは怖いというのもある。モンスター討伐とかをするなら、殺生もしていかなきゃいけない。結局斬殺か撲殺かの違いになるんだが……まあ、どっちにしても、扱い慣れた物の方が良いだろう。
「じゃあ武器はこれにします。防具は……どうするかな……全部で五万五千か……」
革鎧からベストに替えたら一万ほど安く済むんだよな。でも命を守るものだからな、安くしてしまっていいのか。でもベストの方が普段から着やすそうではある。
「ふむ、そうだな。あと一時間くらいかかる事だし……兄さん、構えからしてあんたの剣術はこの辺のものじゃ無いだろ? 良かったら待つ間、その剣術について教えてくれよ。そしたら、五千ほど値引いてやるよ」
「あ! 私も聞きたい! 確か『ケンドー』だっけ?」
ふむ、ただ一時間待つのも暇だったし、話すだけで五千も値引いてくれるんだったら乗らない手は無いな。それに、値引いてくれるんなら革鎧のままでいいし。
「それくらいでいいなら全然話しますよ! じゃあ、防具も最初に言ってた革鎧の奴でお願いします!」
「あいよ! いやー、なかなか聞けなさそうな話が聞けそうでこっちもラッキーだ。どう見ても兄さん、この辺りの者じゃ無さそうだもんな」
どう見ても、というひと言が少し気になったが……まあいいだろう。
とりあえず、俺は剣道の事を二人に話しはじめた。
そもそも殺し合いではなく自己の練磨が目的の修行の一種である事。
騎士道みたいなものはやはりこの世界にもあるようで、似たようなものだと理解された。
それからなんと、竹刀の事を話してみたら竹と同じような木は一応存在はするという話も聞けた。とはいえ、モンスター相手には竹刀を作っても武器としては頼りない気はするが。
「なるほど。互いに全力で打ち合い、死ぬ事なく技術を極めるために、衝撃を逃がす特殊な筒状の木剣と、急所を完全に覆う防護服を用いる。これにより、『死の寸前の攻防』を繰り返すことが可能になる……そういう事だな」
ちょっと話しただけで、おじさんの剣道への理解度が高い。
このアルバイトのおじさんは何者なんだろう。
「一対一だとゴンゾーはかなり強そうだね」
「まあモンスターだったり多数相手だと役に立つかわかんないけどな」
そう、剣道や柔道はあくまで一対一の対人戦。何もしてない人よりはマシだろうが、それでもモンスター相手だとどうなるかわからない。そもそもモンスターをまだ見たことが無いが、想像するにイノシシとかそういうのを相手にできるのか、という感じだろう。
たぶん、かなり厳しい。そう思うとやっぱり殺傷力の高い武器の方がよかったかもしれない。
「いやあ、しかし良い話が聞けた。異国の剣術の話なんてそうそう聞けないからな。シナイって奴もひょっとしたら再現できるかもしれねえしな。約束通り、値引きしとくぜ」
「こっちも助かります! 色々と節約したいもんで」
「まあ、そのうち稼げるようになったらまた来てくれよ。待ってるからよ!」
そんな感じで一時間が経ち、メルの武器もしっかりと仕上がっていた。
俺とメルは支払いを済ませて武器屋を出た。いい店だったな。
しかし、異世界というのもそんなに居心地悪い訳でも無さそうだ。
宿屋でも服屋でも武具屋でも、案外親切にしてくれた。
この調子なら、訳の分からないスキルがあっても、何とか上手くやっていける……かもしれない。そう思った。




