15「宿屋」
さて、ギルドを後にした俺たち二人は、早速どこへ向かうか話をしていた。
「それで……どうしようか? 資金に余裕はできたけど、まずどこに行く? どの店がどの辺にあるかも俺はわからんのだが」
とりあえず考えられるのは宿の確保か、服屋だろうか。
早めに宿を取っておかないと泊まる場所が無くなる……ような事がこの異世界であるのかは知らないが、早めに安心はしておきたい。
服も今のままでは目立つので早めにどうにかしたい。俺の服は未だに学生服のままだ。
「そうだねー……まだ部屋は空いてたと思うけど、早めに宿を確保しちゃった方がいいかも。まずは宿屋に案内するね!」
メルは笑顔で返答しつつ、俺の隣を歩きながら案内をしてくれた。
……ああ、今まで同世代の女の子が俺の隣を歩いてくれることなんて、あっただろうか。まさか異世界に来てこんな体験をする事になるなんてな。
でもこれは、メルが特別優しいだけだろう。実際、最初にこの街に来てしまった時は不審者扱いだったもんな。更にそのせいで謎スキルでなんかダメージ受けるし……こういう面ではまだニホンに居た頃の方がマシだったのかもしれない。
しかし、こうして歩きながら街を見ると……まだチラチラと見られてはいるが、あまり気にしない方がいいだろう。それはそれとして、美男美女が多い気がする。
俺が言うのもなんだが、日本ではもっと顔立ちにばらつきがあるというか、色んな顔立ちの人がいるものだ。
でもこの異世界の街は、まあそもそも日本ほど人が多くはないが、整った顔立ちの人ばかりな気がする。だから俺の顔はこの世界だと余計目立つのだろうか。そして人種が違う人も見かけるが、そういう人は正直、俺には美人なのかどうかもよく分からない。
いや待てよ? もしかしたら俺もそういう風に見られているのかもしれない。異種族はあまり見慣れていないかもしれないし、俺を見る目もそういう目なのかも! ……って結局それは人間には見えてないという事なんだよな。最初はメルもゴリラウタン族とか言うのと見間違えてたわけだし。
「ゴンゾー、どしたの?」
きょろきょろと周囲を見回していた俺を不思議そうに見ながら、メルが首を傾げた。
「ああいや、この国の人たちは美男美女が多いなって思ってな」
「美男美女? んー……そうかな?」
メルは自分の頬を指でつつきながら考え込む。
「だってよ、顔の造形がもう俺と違いすぎるだろ」
「え、ゴンゾー顔を気にしてるの?」
「うん」
はっきり答える。
「何で?」
何でと言われても困るけど……。
「いや、メルだって最初に俺の顔見て驚いてたじゃないか」
「ああ、あれはゴリラウタン族と思ったら人族でびっくりしちゃったからだけど……私はゴンゾーの顔、おかしいとは思わないよ?」
うん、それは本心なんだろうと思う。メルは良い子だ。顔で差別はしないのはこの短すぎる付き合いでもわかる。
「故郷ではブサイクって言われてたし、彼女もできたことないし、良い事なかったからなあ……」
「うーん……正直言って私も顔の良し悪しってよくわからないからなぁ……。でも、つがいが欲しいならやっぱり冒険者だよ! 強い人に憧れるっていう話はいくらでもあるからね!」
つがいって……。
しかし強くなればモテるのか。この世界にはレベルやステータスの概念もあるし、どれだけ強くなったのかもわかりやすい。モンスターもいるなら強さを誇示しやすいのだろう。
そうしてモテていけば、現状判明している俺のスキルで五分程度とはいえ、更に強くなる。その強さで更に強い敵を倒して……無限ループが! ……できないだろうな。効果時間が半端だし、そもそも嫌われたらダメージ受けたり弱体化する。持つ人が持てば強いスキルだったんだろうとは思う。実に惜しい。
「あ、ここだよゴンゾー! ここが私が泊まってる宿『折れた剣の宿』だよ!」
「すっげぇ不吉な感じの名前だけど大丈夫なのか?」
石造りの壁には多少の煤がこびりついていて、派手な看板はない。ただ、使い込まれた木の板に俺には読めないが『折れた剣の宿』と刻まれているのだろう。建付けが悪そうな気配もないし、少なくとも雨漏りとかに怯える必要はなさそうだ。
「宿屋のご主人さんが元々は冒険者だったみたい。それに、剣が折れる、つまりもう戦わなくて良い、つまりは平和とか安全な宿屋って意味なんだって」
「へえ、詳しいな」
「あはは……私もちょっと気になったから聞いてみたんだ」
まあ、さすがに気になるよな。俺もたぶん聞いちゃうと思う。
ともあれ、まずは宿に入ってみないとな。メルが泊まってる場所なんだし、中は問題ないんだろう。
「ただいま戻りましたー! お客さん連れてきたよー!」
宿に入りつつ、メルが声を上げる。
「あれ、早かったねメルちゃん。ギルドの登録は終わったの?」
出迎えてくれたのは、メルよりも少し大人っぽい女性。二十歳前後くらいだろうか。動きやすそうな服装の上からエプロンをしている。茶色の髪をリナさんがしていたみたいに後ろで纏めている。でも、リナさんは色っぽい感じだったけど、何ていうか、この人は美しい感じだ。やはりこの世界の人は顔面レベルが高いと思う。
「終わったよー、こっちのゴンゾーと一緒に登録してきたんだ。それで、ゴンゾーも泊まる所がまだみたいだから、ここをオススメしといたんだ!」
「あ、どうも。ゴンゾーです。異国から来たばかりで慣れない所をメルに助けて貰ってます」
「どうも、私はベティ。この宿の看板娘……ってあんまり自分で言うものじゃ無いんだけどね……まあ宿の主人の娘だよ。長期の宿泊なら、うちは安くておススメ! 一泊夕食付きで三千アラド。連泊するならちょっとサービスするよ!」
うむ、俺の顔を見ても物ともしない。まあ、異種族も多いだろうし、いちいち驚いてたら仕事にならないか。
「私はしばらくここに泊まる予定で、十日分払ってるんだ。ゴンゾーはどうする?」
ふむ、一泊夕食付きで三千か。コヨンさんは安宿なら三千から四千って言ってたから、安い部類か。メルも快適だって言ってたし、色々とメルに教えて貰いたいからメルとすぐ連絡が取れるこの場所がいいだろう。よし。
「じゃあ俺も十泊ほどお願いします」
「毎度ありー。それじゃあ洗濯や湯浴みなんかはサービスにしとくね。ついでに夕食の際に保存食も付けとくから、追加のおかずにするか朝食にするといいよ」
ああ、サービスって値引きじゃなくてそういう感じか。でもまあ、ありがたいな。
早速十日分の宿泊費、三万アラドを支払う。貰ったばかりの革袋からお金を取り出すが、どの硬貨がいくらだったか一瞬忘れそうになって少し焦った。
「はい、それじゃあこれが鍵ね。二階の一番奥の部屋だね。鍵は無くしたら弁償になるから、気を付けてね」
「どうも」
鍵も受け取って、とりあえず宿の確保はできた。まだ日が明るいし、服屋に行く余裕は十分にありそうだ。
「じゃあゴンゾー、宿も取れたし、今度は服屋に行く?」
「そうだな、やっぱりこの服じゃあ目立つだろうし、この国の服は欲しいな」
やはり目立つのは避けたいところだ。服が目に付いて、今度はそこから顔に目が行って、そして怖がられる……というパターンは避けたい。
「確かに見たことない服だけど、ゴンゾーさんはどこの国から?」
ベティさんがそう尋ねる。
「日本って国からなんですよ」
「あのね、翼人に転移魔法で飛ばされてきちゃったんだって」
ある意味事実ではあるけど、やはり便利だな、この設定は。
「聞いたことが無い国だけど……そりゃまあ遠くの国からご苦労様だね……」
『同情を確認。ステータスが微上昇します』
ああ、また発動した。しかし、同情でもいいんだなあこれ。判定がよくわからん。
「まあ国に帰るにも金が要るだろうし、ギルドにも登録してきたんだろ? ならたっぷり稼いできなよ、頑張りな!」
ベティさんはいい笑顔で応援してくれた。
こういう人ばかりなら、異世界も悪くないかもしれない。
そう思いながら、俺はメルと一緒に今度は服屋を目指した。




