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14「コヨン視点」

コヨンさん視点でのお話です


 私はコヨン。エミルの街でのギルド職員兼、魔道具師をしている。

 もう二十四歳にもなるが、小柄で一切の女らしさも無いので、恋人もいない。

 まあ、仕事は嫌いでは無いので現状にそこまでの不満は無い。


 ギルドでは一般的な仕事の請負もしているが、荒っぽい仕事も当然のように多い。そういった仕事が多いと、その仕事をする人間もやはり荒っぽい人が多い。なので、トラブルも多いのだ。

 そういった時のトラブルを解決するために、色々な魔道具が必要になる。

 嘘を看破する魔道具や、手足を拘束したり、魔法の発動を封じる魔道具、特殊条件でのみ光る透明なインクの魔道具……様々だ。

 私は基本、その魔道具を使う時に呼び出される。魔道具師以外には扱いが難しいものも多い。

 今日は、嘘を看破する魔道具の使用で呼び出された。


 翼人による転移魔法の被害者が出たらしい。


 ……ああ、たまにある詐欺だ。翼人は悪戯好きなのか、命は取らないにしても、他種族に魔法をかけてくるらしい。その魔法の一つが、転移魔法。今いる場所からまったく別の場所へ飛ばしてしまうという恐ろしい魔法だ。

 実際にこの魔法のせいで、街二つ分以上飛ばされて帰るに帰れなくなり途方に暮れるケースがそれなりにあったらしい。自己責任というにはあまりにも不憫なので、それが証明できれば国から補償金が出ることになっている。

 滞在費や帰還にかかる費用なので、普通の人のひと月分以上の働きの金額が貰える。なので、旅人等が偽って補償金だけ貰おうというケースがそれなりにあったのだ。

 とはいえ、本当のケースもあるので、詐欺と決めつけて無下に追い返すわけにはいかない。

 まあ、今日は暇だったし、魔道具開発も煮詰まっていたので、気分転換には丁度いいだろう。


 同僚のリナに連れられ、件の人物と会ってみたが、見た目だけで私は少し衝撃を受けた。


 若い二人の新人ギルド登録者だ。同僚のリナから聞いたが、アダチヤマゴンゾーとメルランという二人。

 メルランという女性は、ただの新人だろう。ただ、もう一人の方。

 正直言って、顔に驚いた。街では見る事があまり無い顔だ。

 人族……では無い……と思う。わからない。人族かもしれない。東方にこんな顔をした種族が居たと思うが、何という名前だったか……ゴリーラ族……だったか? そんな名前の種族だった気もする。

 そしてもう一人の若い女性。よく見る新人冒険者だろう。成人したら英雄譚に憧れて冒険者を目指す。比較的平和な地域だからこその幻想だろうが、そんな平和な街でも冒険者はいないと困ることも多い。無茶をしたり、トラブルを起こさなければ新人冒険者はいくらでも歓迎だ。


「どうも、初めまして。このギルドの魔道具師を担当している、コヨンといいます」


 とりあえず挨拶はしっかりしておく。

 しかし、警戒は解かない。恐らく詐欺……と思われるのはこの男の方だろう。

 あまり顔で判断するのはよくないかもしれないが、トラブルを起こす人間のそういう時の顔に何故か似ている気がする。


 しかし、そうしてずっと警戒していると、アダチヤマさんは私の態度に苛立ったのか、少し声を詰まらせた。

 ……態度に出すぎてしまっていたかもしれない。そうだ、決めつけてはいけない。

 彼がそのゴリーラ族だったなら、それだけで転移被害者の証明かもしれない。この辺りで見ない種族がここに居るというだけで証明に近いのだから。


「おや、緊張させてしまいましたかね。すみません、職業柄どうしても人を疑わねばいけないもので」


 場の雰囲気が悪くならないように、もう一度適当に声をかけておく。

 そしてそこから、彼が嘘をついてないかの質問をはじめた。


 まず驚いたのが、名前と年齢だ。

 アダチヤマ・ゴンゾー。家名持ちだ。

 家名があるからと言って貴族位だとかそういう訳ではないが、人口の少ない村出身ではない事は推察できる。

 そして、何と十六歳だという。絶対に私より年上だと思っていたのに……。

 あまりに驚いて声を出してしまい、少し不快にさせてしまったようだ。気を付けねば。


 そして次に出身と種族。

 ニホンという聞いたことが無い国。そして、自称人族。

 魔道具は嘘を言っていないという事を示している。

 まあこの際、人族かどうかはいいだろう。彼の言い方からして、他の種族を見たことが無いなら、同じような特徴の我々と同じ人族だと思うのが当然だ。

 嘘を嘘と自認してない場合、実はこの魔道具は反応しない。その欠点を知っているなら対処しようもあるだろうが、さすがに初見の物に対しては難しいだろう。ニホンという国ではどれだけ魔道具が発展しているか知らないが、この街はかなり発展している方だ。まず同じような魔道具は無いはずだ、対処はできないだろう。

 

 さて、次に一番の問題である、翼人に転移魔法をかけられたのか、だ。

 彼は『翼のある金髪の女がいて、気が付いたらこの国に居た』と言っていた。

 翼人種は金や銀、緑といった髪色が多いとされる。瞳の色は緑が多いが、気付いたら目の前にいた程度ならそこまで覚えていないかもしれない。言い方的にも嘘は言って無さそうだし、転移魔法の被害者というのは間違いなさそうだ。

 ただ、聞いた事も無い国に居る翼人種による転移魔法でこの国に来たというのは……どうだろう。そもそもこの補償金は、この国に居る翼人種が問題を起こした時のお金だ。関係のない国外の事にはそもそも許可は出せない。

 そもそも転移魔法は国を跨ぐほどの距離を移動できるほどの魔法ではない。

 なら、こいつは嘘を言っている。

 だが、魔道具はこいつは本当の事を言っていると示している。


 色々と訳が分からなくなってきたが、丁度いい事に彼はいくつかニホンの物を持っていると言った。単純に異国の物に興味があったので彼の許可を得て、まずは財布を見せて貰った。

 精巧な出来栄えの銀貨や銅貨と思われるものがある。他にも、金属とは思えない軽さのものや、金貨にしては輝きが違う物もあった。他にもいくつか紙切れや、個人のギルドカードのような類の物だろうか、カード類がいくつかあった。書いてある文字が見た事も無いものなので、やはり異国から来たのは間違いないのだろう。

 まだ何かないかと見ていると、少し大きな紙があった。独特なデザイン。

 しかし、これは……


 この国ではあまり見ないが、あらかじめ紙に魔法を封じ込めておき、とっさの時に使える呪符や魔術札という特殊アイテムだろう。

 こんな危険な物を隠し持っていたとは。しかし、呪符の事なんかこの国に分かる人はいないと踏んでいたのだろうが、そうはいかない。

 私は咄嗟に距離を取り、隠し持っていた杖を握る。私はこれでも初級と中級魔法レベル一を持っている。リナもあれで短剣術レベル一持ちだ。武器も隠し持っている。

 呪符を手放している今なら! ……と思っていたのだが、なんとこれがニホンのお金だという。紙をお金にするだなんて……いや、こんなに精巧な物なら納得か……。

 しかし、また失態を晒してしまった……。職業柄、人を疑う癖が付いているのでもうある程度は仕方ない。それに、リナほどすぐに人を信用するようではいけない。せめて私だけでもそういう所はしっかりしないといけない。

 それはそれとして、しっかりと謝罪はしておく。


 次に見た物は金属板。恐らく魔道具の一種だろう。

 スマホという通信機らしい。魔力切れでその補充もニホンでないとできないらしく、役には立たないようだ。できることなら買い取って研究したい……あれほど小型の通信機なんて、この国でもまだ存在しないはずだ。今度また交渉してみよう。


 そして最後に、身分証が出てきた。……持っているなら最初から出して欲しかったが、確かに私達ではニホンの文字が一切わからないので、身分証としての効力は薄い……と思っていた。

 表紙には貴族位と思われる立派な紋章が描かれている。

 中身には文字はわからないが、どうやって描いたのか分からない程に精巧な似顔絵。

 学生証、と言っていたがここまで立派な学生証を生徒一人一人に渡すというのは、考え辛い。まず、貴族が通う高位な学校と考えていいだろう。

 しかし、アダチヤマさんは自身を平民だといった。

 だとすれば、もっと根本的な生活基準から違うのかもしれない。このミンティカの国より、もっと豊かで、もっと魔道具や技術的なレベルが進んでいる、そんな国なのだろうか。

 私は少し恐ろしくなった。


 本当は補助金は断ってしまってもよかった。他所の国からの転移は対象外だ、とか言って。隣国等の友好国なら実際の所は対象なのだが、何せ聞いた事も無い国だ。

 しかし、彼との関係を断ち切るのは得策ではない。むしろ、もっと補助金を増額して、恩を感じさせておいた方が良いだろう。個人的に彼の所持品を買い取って調べたい、というのも勿論ある。

 普通は十万アラドも渡せば十分だ。だが、貴族位の可能性や今後の事を考えると五十万アラドも渡しておけばいいだろう。

 補助金の方はこれでいい。


 そして次はギルドカードだ。彼が本当に間者ならステータスは誤魔化せないだろう。

 本来は普通のギルドカードを渡すのだが、彼らの事を調べたいというのもあって、特別に最新式のギルドカードを渡すことにした。これならステータスやスキル等も調べられる。

 だが、結果は……そこそこ優秀な若者、といった感じだ。レベルの割にステータスが高いが、種族によってこういうのは違うので、判断が難しい。スキルは剣術一、格闘術一と若い人が持つには珍しいが、よくあるもの。ただ、言語習得レベル一があったのが珍しいが、すこし引っかかる。このスキルを持つからこそ、異国から送られてきたのではないか、と……。

 しかし、今日だけでは答えが出せない。危険な人物では無いだろうが、私の個人的興味も含めて、もっと色々と彼の事は調べた方がいいだろう。


 補助金も渡し、ギルドの新規登録も終わった。今ここで私にできる事は、もう特に無い。これ以上引き留めるのも怪しまれるだろう。何より、ただの善人である可能性も高い。

 少なくとも、一緒に行動している彼女はただの善人だ。変な事にあまり巻き込みたくはない。

 

 だから私は、今後の為に別の仕事をする事にした。

 リナと一緒に部屋を出た私は、すぐにリナと別れて魔道具師の作業部屋の隣にある部屋に向かった。本来はただの事務等の管理室。

 ドアを開け、すぐに目当ての人物を呼び出す。


「シノビアラ、いますか?」

 

「はい、何か用ですか~?」


 藍色のショートヘア、スレンダーな体躯、赤い瞳が特徴の、このギルドの職員の一人。

 ただの事務員ではない。事務の仕事もして貰ってはいるが、本来の仕事は……。


「仕事をお願いします。特定人物の監視です。とりあえず、五日くらいを目安に」


 シノビアラは、隠密の仕事を任せる暗部……のようなものだ。

 スカウトスキルや隠密スキル、そうそう使う事は無いが暗殺のスキルも持つ、このギルドでもかなりのエリートだ。


「怪しい人でも見つけたんですか~?」


「まあ、そうですね。異国人です。今日登録に来たばかりなのですが、個人的に興味があるのと、間者の可能性もありそうなので、念の為です」


「その人の特徴とかあります~?」


「うーん……とにかく、一度見たら忘れない顔ですね。しばらくは同じく今日登録したばかりの女性と共に行動すると思います。明日にでも仕事を探しにここに来るかもしれません。これが、二人の情報です」


 名前や見た目の情報、会話から察する今後訪れそうな場所のリストを渡す。

 書類を書きつつ、色々とメモ書きしておいたものだ。


「なるほど~……え、今日登録したばかりの新人さんですか?」


「そうですね。先ほど登録を終えてここを出たばかりです」


「ん~……ならすぐ追いかけた方がよさそうですねぇ。あ、監視だけでいいんですか?」


 彼らが何か事件を起こすとはあまり考えられないが、もし討伐依頼などを受けて危険な目に合って最悪の場合……というのは少し困る。


「もし危険な状態なら、こっそりと助けてあげてください。とりあえずギルドとの繋がりを維持して、なるべくなら友好的にしておきたいので」


「は~い。じゃあ今から行ってくるので、特別手当、お願いしますね~」


「では、任せましたよ」


 少しの荷物を取り、シノビアラはすぐに部屋を出ていった。

 

「ニホン……得体のしれない国ですね……」


 このギルドの安全面を考えても、聞いたことのない国の出身である彼を放置するのはよくないだろう。しかし、単純に自分の知的好奇心からくる事であるのも事実だ。


 今しばらくは、シノビアラの報告待ちか、明日辺りにでも仕事を探しにやってくるのを期待しておく事にしよう。

ダウナー系研究者っていいよね……

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