12「ギルドカード」
「しかし……五十万……俺が言うのもなんですけど、多すぎでは?」
「この辺りでの安宿なら一泊食事付きで三千から四千アラドですけど……もっと良い所に宿泊したとしてそれを約ひと月分、服もこちらの物を新しく買い揃えた方がよいですし、護身も兼ねて装備品も買うとなると、妥当かと。アダチヤマさんが身分の高い方でしたら、まだ足りない位です」
なるほど、約ひと月分の生活費諸々という訳か。それにしても少し多い気がするけど、まあある分には困らないし、受け取れるものは受け取っておこう。
「わかりました。有難く頂きます!」
「では次に、ギルドカードをお渡ししますね」
リナさんの手には二枚のギルドカードがある。それを1枚ずつ丁寧にテーブルに置くと、今度はメルが反応した。
「そ、それってもしかして、最新式のやつですか!?」
「お目が高いですね。お詫びも兼ねて、カードも最新式の物を用意させて頂きました」
「最新式……だと何か違うんですか?」
そもそもまず旧式すら知らないのでとりあえず聞いてみる。
「従来の物は身分証やここのギルド会員証程度のものでしたが、最新式は自身のステータス表示やスキルなどの確認もできるんです! 勿論、見せたくない部分は非表示にもできる配慮も完備の優れモノ!」
なるほど。身分証代わりになる上にステータスが確認できるのか。便利そうだな。
「でも最新式って高いんじゃ……?」
「お詫びも兼ねてますから従来の価格で結構ですよ。……というより、アダチヤマさんの補償金から既に登録料などを引いた上で補償金をお渡ししております。だからお気になさらず」
あれ、じゃあギルドカード代金込みで五十万も支払われたのか。至れり尽くせりだな。
「え、でも私まだ払ってませんよ?」
と、メルは疑問顔。
「うふふ、アダチヤマさんが払ってくれた、でしょう?」
魅惑の笑みでリナさんが言う。俺の補償金からメルの分も引いておいてくれたんだろう。
確かに、メルが居てくれたおかげで心に余裕できたし、女の子とこれだけ自然に話せたのも初めてだ。
それにメルは最初、お金の無い俺の分を払ってくれるつもりでいてくれた。その優しさに応えたい。
「え、でも……いいの?」
「ああ、俺もそうするつもりだったよ。何もわからない俺に、メルは親切にしてくれたしな」
「そっか……うん。ありがと、ゴンゾー!」
『好意を確認。ステータスが上昇します』
体の奥から力が湧いてくる感覚だ。
好意とは言ってもラブではなくライクなことくらいは分かる。でも、女の子に好感を持たれるっていうのは嬉しいものだ。
「ああ、ニホンという国であんな『トイチ』なんて言う恐ろしい利息のある国で苦労してきた彼が、千アラドとはいえ若い二人にはそれなりの金額! 自分の生活だってこれから不安もあるはずなのに、それこそ一アラドでも惜しいはずなのに! 彼女の為ならとお金を惜しまず支払う! 野獣のように見えてもやはり実は高貴な身分でこれこそが本物の『ノブレス・オブリージュ』なのね!? 伝説の騎士と薄幸の村娘の恋物語が、今私の目の前で……!!」
『軽度な好意を確認。ステータスが微上昇します』
うん、台無しだ。そしてこれもやはり好意なのかよ、なんか複雑な気分だ。
「一応補足しておきますけど、トイチは日本でも違法ですからね?」
念の為、補足をしておく。日本に対してあまり変なレッテルを貼られてもなんだか嫌だしな。
「いや、まあ……単なるお礼でしょう、リナ。……さて、リナは放っておくとして、お二人とも、このカードのここの部分に血を一滴垂らしてみてください。それで完全な本人登録ができますよ」
カードの一部分を指さしながら、役に立たなくなったリナさんを放置してコヨンさんが俺たち二人に説明を続けてくれる。
「あ、これなら痛くないのでこれでどうぞ」
と、小さな針を手渡してくれた。サービスが行き届いている。そして、こういう地味な所がやはり異世界の凄い所だなと感心する。
指先を少し刺してみたが、確かに痛みはなかった。逆に少し怖かったが、ともかくそれで出てきた血液を言われた通り、ギルドカードに垂らす。
すると、カードが淡く光り、何も描かれていなかった部分に瞬時に文字が浮かび上がっていく。
うん、でも読めない。結局、自分のステータスが確認できない。
察してくれたのか、コヨンさんは俺のギルドカードを手に取った。
「……はい、では一応確認義務があるのでステータスなども確認させて貰いますね。他言はしないのでご安心を。……ええと、レベルは十……年齢の割に高いですね」
とりあえず俺にもレベルがあるようでよかった。たぶん、どれだけ鍛えたとか経験だとか、そういうものを可視化したものなんだろう。
「他のステータスは……おお、かなり高いですよ、ほとんどのステータスが平均以上です! 十五レベル以上の前衛職の方並みのステータスですよ! これはニホンの方の特性なのか、いやはや興味深い……興味深いですよぉ……!」
何かコヨンさんが軽く興奮しているが、ステータスが高いのは嬉しいが……たぶん例のスキルでのステータス上昇のせいだろう。
恐らくこのスキルで上昇した分もカードに反映されていて、レベル以上の高いステータスを持つ強キャラみたいに誤解されている、という感じかな?
ゲームだとこういうのって元のステータス表示せずにバフマークがついて上昇後のステータスだけ表示されてるとかもあるしな、そんな感じに見えてるのかもしれない。
体感では五分ほど続くので、まだもう少しステータスは高いままだろう。
「では所持スキルは……あ、言語習得レベル一がありますね。なるほど、だからこちらの共通語を理解できているのかもしれませんね」
それは……転生だかの際に言われなかったスキルだな。初期サービスみたいなものなんだろうか?
「それ、どういうスキルなんですか?」
「ええ、知らない言語でもある程度理解できるようになるスキルですね。レベル一なので共通語が喋れているのはこのスキルのおかげでしょう。それなりに珍しいスキルなんですよ。ちなみに、スキルレベルが上がれば文字の読み書きもできるようになると思います」
便利なスキルなんだな。しかし、これ持ってなかったら話す事すらできなくて詰んでいたわけだ。仮に記憶を引き継いだまま生まれ変わっていたとしても、このスキルが無かったら言葉は自力で覚えるしかなかったわけだ。あの天使のおかげなのかは知らないが、まあこれだけは感謝してもいいな。
「後は……剣術レベル一、格闘術レベル一ですか。全てレベル一とはいえ、その若さで三つもスキルを持っているなんて……ニホンの方が凄いのか、アダチヤマさんが特別凄いのか……」
剣術に格闘術……は、ずっとやってきた剣道や柔道、古武術のおかげだろう。でも、結構頑張ってきたつもりだけどレベル一なんだな。もう少し高いかと思っていた。
それともう一つ、俺の謎スキルは見えていないようだ。こういう特殊スキルは鑑定とか言うスキル持ちの人間からも見えないって確かあの天使も言っていたから、このスキルを隠し通すのは問題無さそうだ。
「さて、メルランさんの方はどうですかね?」
「はい、登録はできたと思います!」
メルもカードに血を垂らし終えていたのだろう。相変わらず何が書いてあるかわからないが、メルのカードも淡く光っている。
確かメルは八レベルとか言ってたけど、実際の所どうなんだろうな。まあそれも今から分かる事か。
……しかし、コヨンさんは仕事だし他言しないと言ってくれてるけど、俺がメルのステータス聞いちゃうのはいいのかな?
そもそも、俺のステータスなんかもメルに筒抜けだっただろうし……。
まあ、本人が何も言わないのだから問題ないのだろう。
とりあえず、俺もメルのステータスを聞いてみることにしよう。




