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070 東部解放軍進軍の裏で

 チュジュサ王国とナガツ国の戦が始まって半年、チュジュサ王国軍は都市アーテルッサに集結させた軍を東に進軍させた。


 先の戦いで大敗したチュジュサ王国が討って出たのには理由がある。最近、ナガツ軍側の動きが鈍い。兵糧供給が滞って兵の士気が下がっている。そんな情報が入っている。


 逆に占拠された東部を解放するべく、チュジュサ王国側の士気は高い。アマリア王国からの援助物資により、十分な武器、防具、食料が供給されていることも士気の高さに一役買っている。

 そして士気が高くなりすぎて、進軍せざるを得ない状況に陥った。


 チュジュサ国王によって「東部解放戦」と名付けられた今回の戦いに動員された兵数は4万。数の上ではナガツ軍の2倍だ。


 そんな事情で解放軍がアーテルッサから出撃したのだが、その数日前にアマリアの大型飛空挺2機がこの地に降り立った。


 アマリア側が大型飛空挺を開発した話は、ここアマリア東部にも噂が届いていた。ルーサミーが見せるために行った電撃軍事演習によって一気に広まったからだが、今回の飛空挺の運用は更に想像を絶していた。


 なんと各挺が一体の巨兵をぶら下げてきたのだ。その異様な光景にアーテルッサの人々は、まさに度肝を抜かれたのだった。


☆☆☆☆☆


 更に数日前――


 「いいこと思い付いたのよ」


 座るなり嬉しそうに語り、目を輝かせたルーサミーを見た妹のフィセルナは、疲れた表情をぎょっとさせた。


 姉の思い付きは、恐らくチュジュサの援軍要請絡み。今回その件で内密に話し合うための面会を申し込んだのだ。


 だが、こういうとき姉の「いいこと」は、いいことだった試しがない。確実に自分が苦労する思い付きに違いなかった。


 実によく似た姉妹だった。


 「お姉さま。反対です」


 王宮奥の実質フィセルナしか通されない応接室で、二人は話し合っていた。ここに二人以外誰もいない。今の二人は君臣ではなく姉妹。だからフィセルナは経験則に基づき、即座に反対したのだった。


 「相変わらず気が早いわ。反対は中身を聞いてからにしなさい」

 「経験則ですわ。まともな内容ではないでしょう? お姉さま」


 とりつく島もない妹の様子に、ルーサミーは動じることなく優雅に紅茶を楽しんだ。


 「そうねえ。間違いなくチュジュサの求める援軍ではないでしょうね」


 ルーサミーの思い付きは、フィセルナの思った通りチュジュサへの援軍の件だった。


 「いったい何を送るつもりなの?」


 フィセルナもティーカップを口につけ、少し落ち着いたのか、ルーサミーが何を援軍に送るのか興味が出てきた。


 「帝国の思惑に乗って東方を騒がせたままにするのは癪じゃない? だから近衛騎士一軍を送ってナガツ国を葬ることも考えたのだけど、やめるわ」


 「わざわざ東の戦を長引かせるための援軍を送るって、何のために?」

 「帝国は西のビラン連合国に攻め込み、ミスリル鉱山を手中に入れたい。そして軍備が整って侵攻する際に、私とビランが手を組むことを避けたいってところかしら。だからこの一連の件のお礼にビランと軍事同盟を結ぼうと思うのよ。秘密裏に」


「そのために帝国には思い通りにいっていると思わせたいのね。ビランと同盟を結ぶには、我々にも時間が必要でしょうし。で、具体的にはどんな援軍を送るつもりなの?」


 質問を発した時、ルーサミーの目の輝きが増したようにフィセルナは感じた。


 ――これは、先日の電撃演習よりもヤバいかも。


「ちょうど、いいものがあるのよ」


 ☆


「な、なるほど……それなら在庫処分にもなって一石二鳥?」


 内容を聞いたフィセルナは、あまりの思い付きに顔を引きつらせながらそう答えるのが精一杯だった。


 とりあえずまたもや残業漬けの日々が戻ってくるのが確定だ。あと技術部の方への報酬も、特別報酬程度では済まないのも確定だった。


「実戦データも取れるから一石三鳥かしらね。あ、チュジュサの度肝を抜けるから一石四鳥か」


 フィセルナはもう一口紅茶で喉を潤し、感情を自身の内に押し込めた。瞬間、フィセルナは冷徹な政治家の目になる。


「戦が長引くのなら定期的に派兵すればいい実戦経験を積める……か」

「そうね。それも計画に組み込みましょう」


「話を戻すけど、乗り手にちょうどいい人材がいるわ」

「あら奇遇ね」


 姉妹は人の悪い笑みを浮かべた。実によく似た姉妹である。



☆☆☆☆☆



 援軍の一団が大型飛空挺から降り立った。

 今回援軍を率いているのは第23騎士団団長。第23騎士団は諜報活動を主任務とする騎士団である。


 一団を出迎えたのは一人の準騎士、フラン・マーカシスだった。フランは襲撃事件以降、王都に戻らず、チュジュサにて諜報活動を続けていた。


「団長、お久しぶりです」


「おう、マーカシス久しいな。大変だったそうじゃないか」


「いえ、大したことでは……それより規則ですので始めていいですか」


 団長が頷いたのを確認したフランは、目の前にいる団長に対し姿勢を正し、軍礼をとる。


「準騎士フラン・マーカシス。これより本国の指示により、アマリア東部()()()隊長、騎士ジェイコフ麾下に入ります」


「了解した。早速だがチュジュサ軍将軍に挨拶したい」


「は、ご案内します」


 騎士ジェイコフとは言うまでもなく、アマリア王国にあって騎士の頂点たる近衛騎士団長ジェイコフ・ルグンセル本人である。


 近衛騎士団長ジェイコフには二つの顔がある。近衛騎士団長としての顔と、諜報騎士団の表の顔だ。

 諜報騎士団である第23騎士団は特殊な任務内容ゆえ、実は女王ルーサミーの指示のもと首席聖女であるフィセルナが指揮をとっている。

 もちろん団員たちが知らない事実であり、フランを含めジェイコフが近衛騎士団長であることすら知らされていない。


 ケインとジェームスの件は本来であれば、ジェイコフにとって政治的に致命的なミスなのだが、すでに二人はこの世にいない。証拠も既にフィセルナによって処理済みだった。

 ジェームスとケインは襲撃事件の前に殉職しており、二人に成り済ました間者が違和感に気付いたフランに捕らえられた。

 この報告書ですら厳重に管理されており、恐らく今後日の目を見ることはない。


 さて、ジェイコフの後ろ斜めにはカーライルが立っていた。ジェイコフ付きの準騎士だから当然なのだが、この日のカーライルは無表情ではあるものの、特に不機嫌ではなかった。


 フランはカーライルを冒険者ギルドで見かけている。だが、騎士になっていたのか、従騎士として団長につけられたのね、いきなり団長につけられるのであれば、最初に思った直感通り強いのだろう――と思っただけだ。カーライルが無愛想なのは見かけた時から分かっている。


 カーライルが今回の派兵への同行を受け入れたのは将来を見越してだ。

 ジェイコフに聞かされたのは、準騎士全員に巫女や聖女のパートナーになれるチャンスが与えられるわけではないこと。聖女候補の護衛任務ですら、ある程度の実績がなければ与えられることはないのだ。


 だからカーライルは踊らされているのを承知でこの地に来た。


 ここで手柄を挙げてパートナー候補の準騎士に昇格しなければならない。それができなければメアルとの約束を守ることが出来なくなるから。

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