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068 何故それは成ったのか

 アマリア王国軍の電撃的行動を帝国側は事前に察知できなかった。


 通常ならば軍を動かすには、王権が強いアマリアといえど女王の一存とはいかない。しかるべき手順というものがある。手順を踏めば女王の号令がかかってから最短で7日、貴族議会が紛糾すれば場合によっては否決すらあり得る。それが大国というものだ。最短7日であっても、その間に帝国の知るところとなる。


 では何故、帝国は事前に察知できなかったのか。


 最大の理由、それは唯一女王が独断で動かせる軍があるからに他ならない。

 女王の護衛を担う近衛騎士からなる近衛軍である。実は近衛軍は王家直属の組織であり、王家の資産によって運営されている。それが初代聖女アリーシャ女王の跡を継いだ双子の妹ナリータ女王より続く伝統であり、不可侵の領域だった。


 近衛騎士は全員が聖騎士である。つまりパートナーは皆聖女である。その全員へ莫大な給金を王家が支払っている。

 とはいっても近衛騎士はアマリア王国軍の指揮権を持ち、アマリア王国軍にも席を持つ者が多い。だからこの線引きは金銭面だけでの話である。

 ちなみに飛空挺やアーマ・ドル、巨兵も全て王家の所有である。それらの維持費、運営費も全て王家がまかなっているのだから、アマリア王家の財力が桁外れであることは間違いない。


 アマリアの近衛軍は3軍あり、今回はその内の2軍を連れてきている。残り1軍は王宮にいる王女達の護衛として残してきた。


 気付いただろうか。そう、近衛軍を連れてきているのだ。近衛の役目は王族の護衛。つまり女王ルーサミーの護衛である。

 今回の電撃作戦は女王ルーサミー直率だからこそ成り立つ荒業だった。

 そしてこの作戦を裏で仕切ったのは、言うまでもなく妹のフィセルナだ。フィセルナは公爵であるが王妹でもある。女王に万が一のことがあれば、次の女王の後見として政務を一手に引き受けなければならない。よって姉妹は行動を共にできないのだ。夫のジェイコフは近衛騎士団長として行軍しているが、フィセルナは王都に残り、尋常ならざる量の書類に追われる羽目になった。


 さて、公爵邸には立て込んでいて数日は帰れないとだけ連絡がされていた。年に何回かはあることなので、使用人達も慌てることなく平常運転で過ごしていた。


 そんな中、メアルはご機嫌斜めだった。


 「騎士さまって帰ってこれないこともあるのかしら」

 「ま、あるじゃろうな。国と民を守るのが騎士じゃて。遠征せねばならぬこともあろうの」


 唇をきゅっと突き出し、あからさまに不満顔のメアルだが、それすら可愛らしく、ニースはほっこりしながらメアルを宥めていた。

 メアルが不機嫌なのはカーライルがここ数日帰ってきていないからだ。スタにてカーライルと再会して以降、ここまでカーライルと会えないことは初めてだった。


 メアルは気付いていない。帰って来ないのが不満なのではなく、帰ってこなくなるのではないかと不安なのだと。


 「メアルよ。カール坊が帰ってきたときは笑って出迎えてやるのじゃ。それがいい女ってものじゃぞ」


 「いい女……そうね。カールさまが帰ってきたら笑顔で出迎えるわ」


 メアルは無理矢理に笑顔を作った。


☆☆☆☆☆


 カーライルもまた不機嫌の極みにいた。最低でも数日はメアルに会うことが叶わないからだ。


 新人研修が終わった直後、カーライルに指示書が渡された。指示書に従って着いた部屋にはジェイコフとフィセルナがいた。そして読み上げられた辞令によって、カーライルはジェイコフ直属の部下にされてしまった。カーライルは近衛騎士でないまま近衛騎士団に配属されたのだ。


 新人騎士研修中の訓練にて、正騎士と試合をしたカーライルは正騎士を軽くあしらった。それが指導役の正騎士のプライドを刺激してしまった。正騎士は試合を止めずに何度もカーライルに挑み、ついには一撃も与えられず、そればかりか逆指導を受けてしまった。


 問題なのは、その正騎士がアマリア王国軍に数ある通常騎士団の団長の一人だった点である。

 ジェイコフから余計な摩擦を生まないための苦肉の策だと聞かされた。


 辞令を受けたカーライルにとっての悲劇は、ジェイコフの部下となったその日の内にルーサミーが電撃出陣を発令したことだった。

 そして今、カーライルは無表情の内に不機嫌を隠し、乱立する光の柱を見ていた。少し前方には近衛騎士団長たるジェイコフが立っており、その少し前方に女王ルーサミーがいる。


 「なかなか壮観ですね」

 「そうですな。ここまで大規模な軍事演習は初めてです」


 「明日には遠方にいた者達が順次飛空挺で来るでしょうから、まだまだ増えます」

 「帝国はさぞかし肝を冷やすでしょうな」

 「ルグンセル卿、この演習はあくまで()()に有事があった際の備えです」

 「そうでした。失礼いたしました」


 ルーサミーは帝国の首都があるであろう方角に視線を向け、クスリと笑う。もちろんこの演習で戦力を測られる愚を犯すつもりはない。過小に見られるようフィセルナが苦心して計画した演習である。

 今回、聖騎士達が動かしているのはアーマ・ドル“ディフェンダー”。開発最終段階に入った最新鋭機ではなく、現在の正式採用型である。

 帝国に釘を刺すのに機密情報を開示する必要はない。

 正騎士の演習だと思わせておけばよい。


 同時にルーサミーは聖騎士1隊を差し向け、東の戦争を一気に片付けることも視野に入れている。ナガツ軍を蹂躙し、チュジュサや同盟各国に改めて六強国の恐ろしさを教えるべきだと。

 さすがにそれは最後の手段と決めてはいるが、いざその時になって動けないでは話にならない。この演習には聖騎士や聖女達に、今は戦時だと意識させる意図もあった。


 女王と近衛騎士団長、二人の会話が聞こえ、ひょっとしたら今日中には帰れるのではと思った淡い期待がかき消され、この地での宿泊が確定したカーライルは、内心の不機嫌さが一段上がったのを感じた。同時に、先ほどまでの不機嫌は最上段ではなかったのかと驚きもした。

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