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064 公爵邸孤児院ドレスショー

 アマリア王国主導によるチュジュサ王国とナガツ国の会談の日が数日後に迫っていた。会談の目的は鉱山の所有権について、まずは協議会発足の合意をすることである。

 全権を委ねられた外務大臣と、ナガツ国のゲストは飛空挺の船団にて東の地へと旅立った。


 見送りに来ていた女王ルーサミーは飛空挺群が小さくなったのを見届けてから飛空挺発着場を後にした。

 ルーサミーは振り返った瞬間から東の情勢のことは頭の中から追い払った。それはもう完全に。為政者には必須のスキルだ。今頭の中にあるのは明日行われるメアルのドレスショー……いや公爵邸孤児院ドレスショーのこと。メアルの晴れ姿を見られるとあって内心は浮き上がっていた。


 護衛の騎士達に守られて移動する最中、ルーサミーは女王としての表情は崩さない。しかし威厳ある立ち振る舞いからは全く想像できないがウッキウキなのだ。


  明日はもちろん公務はなし。完全にオフだ。但し、そうなるよう執事のクロードが大変に頑張ったという事実は忘れてはならない。


☆☆☆☆☆


 「明日はどうするんだ?ミラン」


 そうミランに話しかけたのはザッケン。準騎士になったザッケンだったが、アマリアの騎士としての知識や作法を学ぶため、カーライルを含め従騎士達と一緒に講義を受けていた。 


 ザッケンは帝国の剣聖によって送り込まれた間者なのだが、今は未だ指令待ちの状態だった。とはいえ、指示が来るまでもなく情報収集のために人脈を作らなければならない。そこでザッケンは不自然にならない程度に周囲とコミュニケーションを取っていた。準騎士と従騎士では身分が違うが、公式の場以外では同期として気軽にタメで会話をしていたのである。


 「折角の休日だから、孤児院の皆に顔を出そうと思ってるんだ。ザッケンさんはどうするの?」

 「俺はそうだなあ。旨い飯屋探しだな。ここの飯も旨いは旨いが酒を飲めないのがな。カーライル、お前さんは」

 「俺は出掛けず休養だ」

 「なんだ、つまらん休日だな」

 「大きなお世話だ」


 彼らはアマリア騎士団に入団したといっても未だ配属も決まっていない教習中の新人なので、休日も同じである。休日の過ごし方など日常の些細な会話。ザッケンも自身が浮かないようにとの意図以外に意味はなかった。だから二人の回答を気にも止めなかった。少なくともこの時は。


☆☆☆☆☆


 翌朝ミランは公爵邸孤児院にやってきた。


「お、ミランじゃん」

「おかえりー」

「きたか」


 訓練場にしている裏庭に行けば、今日もリカレイとヨロイが稽古中だった。もちろんカーライルもいる。


 「出てったばかりで顔出すのも出戻ったみたいで恥ずかしいんだけど。今日ばかりはね。で、二人とも相変わらずだね」

 「おうよ」

 「ったり前だぜ」


 「折角だし、ミラン手合わせしようぜ」

 「だな、どれだけ強くなったか見せてみろよ」

 「そんなすぐ強くはならないよ。ま、いいけど」 


 ミランの言葉通り、ここを巣立ってまだ一月も経ってない。それでも関係性が変わってしまったかもと思っていた。だから相変わらずな二人の態度がミランは嬉しかった。

 稽古に熱が入りすぎて、遅くなった朝食をとりながらミランは寮暮らしの話を二人に聞かせた。


☆☆☆☆☆


 「ようこそおいで下さいました御姉様」

 「堅苦しい挨拶は不要よフィー。今日は私人として来たのよ。どこぞのご婦人って感じでしょ」


 どう贔屓目に見ても高位貴族以下には見えないルーサミーは、どうやらお忍びの一般観客のつもりのようだった。

 孤児達にデザイナーの部下として知られている為、気を遣っての変装したのだが、生粋の王族であるルーサミーには無理な話だった。


 「叔母様、今日はよろしくお願いします」


 サーラン王女もジェイコフの護衛で公爵邸にやってきた。ミシンダ王女はドレスショーには興味を示さず今日は不参加だ。


 公爵邸のダンスホールには舞台とランウェイまで作られていた。もちろん仮設なのだが、公爵たるフィセルナがそこでケチる筈もなく、とても本格的だ。ランウェイもこの世界初の試みで、メアルの歩き姿をより長く見たいフィセルナが発案したものである。


 男の子達にも役割が与えられている。今回のドレスショーのコンセプトは”騎士とお姫様”。ということで男の子達にも騎士の正装風の意匠が用意された。舞台袖からランウェイまでエスコートし、戻ってきたお姫様を再びエスコートして退場するのが役目である。


 こうなると当然の流れだが、誰がメアルのエスコートをするのかで揉めた。今回ミランは完全に観客である。揉めたのはリカレイとヨロイで、他の男の子はメアルをエスコートしたいけど二人に気を遣って辞退した。カーライルの一言で第1部がリカレイ、第2部をヨロイのエスコートに分けることになり無事収まった。


 そしてついにルーサミーとフィセルナが待ちに待ったドレスショーが始まった。


  最初にエスコートされてきたのはニース。もちろんエスコートはアルジ……ではなく、孤児の男の子だ。


 ニースのドレスは体のラインを強調したもので、上品で艶やか。ハイヒールを履きこなし、上品に歩くその姿はエルフの美貌と相まって神秘的ですらあった。


 ーーさすが大聖女“水精のニー”ね。王族もかくやという気品だわ。我が国の聖女でここまでの品格を見せつけられる者はフィセルナくらいかしら。


 ルーサミーですら感嘆するニースのドレス姿に、アルジも驚いていた。かつてここまで磨き上げられた姿を見たことがなかった。過去ニースのドレス姿は何度も見てきたというのに。さすがに六強国一に経済力を誇るアマリア王国と言ったところか。


 「綺麗だ」


 一言。その一言を告げるのが精一杯だった。視線はニースから離すことが出来ない。

 ランウェイ上から自分に見入っているアルジを確認して満足そうに微笑むニース。その微笑みはアルジをさらに魅了したのは言うまでもない。


 ニースを皮切りに次々に小さな令嬢達がエスコートされてきた。こちらは大変に可愛らしくて微笑ましい。慣れないドレスによるぎこちない動き。貴族令嬢の歩き方を学びはしたがそうそう身に付くものではない。もちろん緊張もあるだろう。それらがなんとも初々しい。

 ランウェイの先端でくるりとターンし、帰りのエスコートを受ける前に観客に淑女の礼をするのだが、そこで拍手をもらってホッとして帰っていく。


 そしてついに最後、待ちにまったその時がやってきた。メアルの番だ。メアルが最後なのは今回のメインイベントというのもあるが、メアルがいつも通り寝坊助だったからという必然でもある。


 リカレイにエスコートされてメアルが姿を現した。


 白を基調にした銀糸の刺繍が入ったドレスに銀のティアラ、胸元を飾るのは大粒のブルーサファイアだった。


 ーーあのティアラとネックレスは!


 フィセルナは思わず姉を見た。このドレスと装飾品はルーサミーが贈ったもの。あの銀のティアラとネックレスは最初の聖女の所有だったとされる王家の秘宝で、王女のお披露目の時のみ身に付ける事が許される。つまりルーサミーはメアルを王族と認めていることを示していた。


 メアルは恥ずかしそうに伏し目がちに歩いてくる。気品があり、優雅だ。とても孤児の付け焼き刃で出せる品格ではない。


 「素敵」


 そう呟いたのはサーラン。目をキラキラ輝かせている。ルーサミーも満面の笑顔だ。


 ランウェイの先端に来たとき、メアルは少しだけ視線を上げた。真っ正面にカーライルがいた。カーライルもまた驚いたように目を見開いていた。それが可笑しくてメアルはクスッと笑う。メアルは意図した訳ではなかったが、8歳の笑顔にしてはあまりに妖艶だった。


 カーライルは言葉を出せずにいた。そこにいたのは可愛らしい孤児ではなく、美しく優雅なお姫様だった。


 カーライルの隣にいたミランも同様だ。ポカーンと口を開けたまま見入っている。


 エスコート役のリカレイもランウェイを引き返して来るメアルがあまりに可憐で顔を真っ赤にしていた。


 メアルが膝折礼をした時、割れんばかりの大きな拍手が起こった。こうしてドレスショー第1部は大成功。少し休憩をはさみフィセルナが贈ったドレスの第2部が行われたが、こちらも大成功で終わった。


 ドレスショーはこの世界で初の試みだった。次が有るかは不明だが、この日一番の功労者は大成功を納め安堵の余りへたり込んだデザイナーだったに違いない。

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