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065 会談の行方

 チュジュサ王国とナガツ国の会談は、2国の中間地点の荒野で行うことになった。見通しが良く、軍を潜ませることが出来ないからだ。今回の調停役を買わざるを得なくなったアマリアが、王族が使用する幕舎を設営した。


 今回の警護には、フラン、ジェームス、ケインの3人も参加している。

 ナガツ国への密書を届けた後、アマリアには戻らず、チュジュサにあるアマリア大使館で暫し待機していた3人に与えられた次の任務が、この会談の警護である。この地の選定をしたのも3人だった。

 

 「フラン・マーカシス、報告を」

 「は、異常はありません。双方共に所定の位置で待機しております、閣下」  

 

 「宜しい」

 「このまま、本国よりの飛空挺の到着まで待機します」


 今回の警護の責任者は、チュジュサに駐在している大使本人である。この場の警護もフラン達を含む準騎士20名で、フランは仮の隊長を仰せつかっていた。


 会談では、この幕舎に入れる2国の護衛は数名。アマリアがこの会談場所の警護をしなければならない。 フランは、本国より外務大臣とナガツ国の要人が到着次第、本国より派遣されている聖騎士に警護隊長の任を引き継ぐ予定となっている。


 今この地には、当然ながら準騎士だけがいるわけではない。文官や給仕など、フランが見覚えのない者が多い。一人ずつ検査されているとはいえ、安心は出来ない。外からの侵入よりも厄介なのは内側の手引きである。

どちらの陣営も一軍を率いている以上、場合によってはこのまま戦争になる可能性がある。


 ふと、食料を保管する幕舎から周囲を窺うようにに出てくるとケインと目が合った。ケインは、すぐに視線を外した。



 ――見回り中か、な?…ま、もう少しで引き継ぎ。でもまだ気を抜けないわ。


 そう思いながらも、フランはやってくる聖騎士に思いを馳せる。聖騎士に与えられる権限は大きい。一軍の指揮権はおろか、地方領主に対し、行政、司法への介入すら許されているのだ。正騎士も2名引き連れてくるという。


 ――剣の腕なら負けない自信はある。機会さえあれば……




 飛空挺団が到着した。飛空挺を有するのはアマリア王国のみ。それが十数挺も今回の会談のために使用されていた。大型飛空挺であれば1挺で済んだが、流石に今回は使用が見送られた。1挺よりも船団であることが国威を示せるとのルーサミーの判断である。実際にナガツ国側は、空を飛んで来る船団に到底叶わない力の差を感じていたし、チュジュサ王国側も盟主国の軍事力に改めて畏怖した。


 ガッソ・デギンス。“嵐双棍”という二つ名をもつアマリア王国の誇る聖騎士の一人だ。近衛ではなく、王国軍第2軍を率いる将軍でもある。


 ――デギンス卿は確か50代後半のはず。どう見ても30代にしか見えないわ。これも聖女との契約の恩恵かしら。


 フランがガッソに付き従うフードを被った小柄な人物に目を向ける。仮面を付けているため顔を見ることは叶わない。彼と契約するのは聖女レイニア。アマリアの準騎士であっても名前以外は知らない秘匿された存在。それが聖女というものだ。


 近づいてくるガッソの気配に押されそうになる。流石に聖騎士といったところか。フランはガッソの存在感に負けじと気合いを入れる。本来であれば、対等に会話できる立場ではない。が、警備の引き継ぎをするまではフランが責任者だ。ここで気後れする姿など見せられない。


 「ふむ、いい顔だ」


 ガッソはフランの前に立つと、顎髭を撫でながらニヤリと笑った。



 無事引き継ぎが終わり、フランはガッソの指揮下に入った。フラン達準騎士には幕舎の外側の警備に専念する指示が下された。もっとも幕舎の中でどんな話がされていようと、フランにはどうでもよいことだった。


 会談はアマリア王国大臣が調停を務め、まずは双方の協力のもと鉱脈の規模を調査することでまとまった。事前に決められていた通りだった。しかし、ナガツ国側の交渉役が帰ろうとした夕暮れ時に事件が起きた。


 アマリア王国の建てた幕舎の一つ、食料保管をしていた場所から抜刀した集団が飛び出し、ナガツ国側を襲ったのだ。


 今回、アマリア王国に訪れたナガツ国の使者はナガツ国の王太子。それくらいの立場でなければ超大国アマリアが相手にしないと考えたからの行動だった。


 王太子はアマリアの王都で襲撃を受けたため、帰国の延期を余儀なくされ、今回の会談にはアマリアの飛空挺に乗って参加した。そしてこれで2回目の襲撃だった。


 「お守りしろ!」


 フランはその声を自身の背後で聞いた。振り返った時に目に入ったのは、食材の保管用の幕舎から出てきた襲撃者達が仲間の準騎士達を斬り捨てながら王太子に向かっていく光景だった。フランは躊躇することなく襲撃者の方へ走り出す。


 剣士シシンは先陣をきって王太子を目指す。王太子を斬ってそのまま離脱するつもりだった。今回の襲撃メンバーには、剣聖の十傑の一人、ゲッカルトより召喚馬を呼び出す魔導具を授けられている。指令は王太子の殺害だったが、シシンは一太刀浴びせるだけでよいと思っていた。アマリア側は王太子を守ることを優先するに違いない。自分ほどの剣の腕があれば混乱に乗じて逃げることは不可能ではないはず。シシンは立ちふさがる敵を斬り伏せながら、自分一人だけでも逃げるつもりだった。


 シシンは、メアル誘拐から今に至る一連の件で、自身が使い捨ての駒であると思い知らされていた。だから、剣聖の力が及ばない地まで逃げきらねばならないのだ。


 ガッソは舌打ちしながら背後のレイニアにある指示を出し、自身は動こうとはしなかった。ナガツ国の王太子とパートナーたる聖女レイニアを天秤にかけた結果だが、これは当然ともいえる。いえるのだが……


 ガッソが率いてきた正騎士達も同様だった。自身のパートナーである巫女を置いては動けない。どこから襲撃者が襲って来るかわからない以上、聖女、巫女を守ろうとするのは当然だった。


 武を重んじる国柄であるナガツ国。当然王太子も腕に覚えがある。しかし今回は分が悪かった。会談の場で武器は持ち込めない。王太子は唯一の護身具である扇子を閉じて構えた。


 シシンは遂に王太子を間合いの内に捉えた。


 振り落としの一撃。


 シシンの剣は王太子の扇子を切断し、王太子を捉えた。しかし王太子はとっさに膝を落とすことでシシンの剣を肩の犠牲だけで止めることができた。鎖帷子を着ていたのだが、それでもそれらを裂き、剣は肩に食い込んだ。王太子は堪えきれずそのまま膝を地に付ける。絶体絶命の体勢だった。


 一瞬、シシンに欲が出た。アマリアの護衛に強者はいない。アマリアから来た聖騎士達は何故か動かない。ならば次の一撃で王太子の首を跳ねて離脱できれば、返り咲けるかもしれない。


 シシンは首を跳ねるべく剣を振るう。


 キン!


 首を飛ばすはずだった一撃は、王太子の首の手前で止まった。見えない何かがその一撃を止めていた。ラーファルの護符の加護だ。そう理解したシシンは更なる攻撃を繰り出す。護符ならば2撃目は防げない。


 キン!


 再び防がれた。シシンは思い違いをしていた。そもそもラーファルの護符を所持しているのなら、今王太子は膝をついてはいない。


 2撃目を防がれたのはシシンの理解の外だった。それはそうだろう。シシンは、聖女のいる戦場を知らないのだから。


 時間切れだ。シシンは王太子の殺害を諦め、逃げにかかる。振り返った時、仲間達がアマリアの準騎士2名に斬られ、地に伏せている光景が目に入る。そして自身に向かってくる女が一人。


 「邪魔だ!」


 シシンは剣を繰り出せなかった。それより疾い一閃がシシンに襲いかかったからだった。


 フランは剣を空振りし、纏わりついた血を飛ばす。信じられないとばかりに驚きの表情を浮かべたシシンの成れの果てを見ながら、ため息を吐いた。そして、ゆっくりと視線を巡らせる。


 襲撃者の出現位置。

 突破された警備。

 崩された配置。


 偶然ではない。

 食料保管幕舎の位置を決める時に口出ししてきたのは…


 視線が止まる。準騎士ケイン・マクレガー。ケインもまたフランに視線を向けていた。


 その目は、戦場にいる者のそれではなかった。


 ――裏切り者は恐らく……

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