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あぁ、よろしく頼む


 朝食を食べてから日課の巻藁を殴る。今日がギルドバトル受付の最終日だ。今日申し込みが無かったらもうこれ以降のアダマンタイトの取引には応じない。前線組からすれば今日がラストチャンスだが、果たして申し込んでくるか。少し期待しながらゲーム内へとログインする。

 天幕から出て少しすると、経営陣の方が一人やってきた。俺に礼をしてから報告をくれる。


「宗吾様。調査を依頼されておりました相場につきまして現状のご報告をいたします」


「あぁ、よろしく頼む」


「現在アダマンタイトの取引相場は少しずつ落ち着いてきているとの事です。どうやら前線組が手を引いているとの事」


「なるほど、手を引き始めたか」


「はい、こちらの思惑通りではあります。また他鉱物に関しても改善の兆しが見えているとの事です」


「分かった、ありがとう」


 礼を言うと経営陣の方は再び頭を下げて下がっていく。ふむ、こちらの狙い通り事は運んでいるか。一連のギルドバトルにも効果はあったんだな。その結果報告に満足しているとリフレ達が合流してきた。


「お疲れ様です」


「あぁ、お疲れ。早速だが第4に行こうか」


「えぇ、行きましょう」


 全員で転移門を利用して早速第4へと移動する。到着してそのまま湿地帯へと直行。一帯へと突入して目当てのポイズントードを探索する。

 しかし、何かが変だった。なんだかおかしい。その感覚はどうやら俺だけが持つものではないようだった。


「何か、違う雰囲気を感じますわ」


「えぇそうね。なんだか普段とは違う気がする」


 フタバとネスがその直感を告げる。その言葉にリフレは少し不思議そうだ。まだリフレにはここらへんの感覚はわからないか。だが2人も言うなら俺の直感も間違っていないのだろう。


「どうする、引くか?」


「九堂の者が引きますか?」


「そんなつもりないんでしょ」


 とりあえず聞いてみた所そんな返事が返ってくる。その事に苦笑いを浮かべながら全員に告げた。


「覚悟しろ、何かある。何かはわからんが、何かある。周囲の警戒を怠らず、常在戦場を更に意識しろ。ここは敵地のど真ん中だ」


「私は現状を受け入れたのよ、その時点で覚悟はしてある」


「既に覚悟はしておりますわ、宗吾さんと共に歩むと決めた時から」


「私も覚悟します。何があっても宗吾様と一緒です」


 みんなそれぞれの覚悟の宣言に嬉しく思う。それでは共に歩もうか。そうして奥に進む事一時間程、それは急に来た。肌のヒリつく感覚。


「来た。この先だ」


「分かるの?」


「何かは分からんが、肌がヒリつく。ただ事じゃない」


「宗吾様が言うなら相当なんでしょうね」


 リフレの言葉に頷いてから更に前へと進む。少しして、リフレが気付いた。


「生き物の気配がまるでありません」


「あぁ。この先の何かを恐れてるんだ。きっと相当だぞ」


「楽しそうですわね、宗吾さん」


「これが楽しまないでか。これこそ戦場だ」


 フタバの言葉に笑みを浮かべながら答える。そう、この空気こそ戦場だ。人生で幾度もない本物の戦場に、こうして出会える事のなんという幸運な事か。

 その思いを抱えながら前へと進みしばらく、ネスとフタバが声をあげる。


「これですか」


「そうね、肌に感じるわ」


「だろう」


 感覚が共有できた事に嬉しくなる。また更に進んでリフレが呟く。


「これ、やばいんじゃ」


「九堂の者なら引く訳にはいくまいよ」


「分かってます。言ってみただけです」


 既に俺の肌にはビリビリとした感覚を受けている。相当なものだ。きっとあの、アダマンタイトゴーレム以上の何か。シャマールには怒られるかもしれんが、また防具を作り直す覚悟をしておいてもらおう。

 そうして草をかき分け進み、それは見えた。でっぷりとしたまるで小山のような白い腹。表皮は緑色で腹は白く。確かに6メートルはあろうかという巨大な小山。それはジャイアントと名付けられるに相応しい蛙だ。

 だがそれよりも、その腹に食らいつくものがあった。横に寝転がった小山にガツガツと食らいつく、5つの頭。その頭はまさしく、竜と呼ぶに相応しい何か。ジャイアントトードが小さく見えるそいつは確かに、5つの竜の頭をしていた。


「これは、想像以上のものが来たわね」


「八岐の大蛇でしょうか」


 額に冷や汗を浮かべながらネスとフタバが言う。確かにこの姿は空想上の八岐の大蛇と思えないでもない。

 その異様な姿は化け物以外の何物でも無かった。だがここまで来て、動揺しても仕方がない。


「覚悟は出来てます。こちらから仕掛けますか?」


 リフレの言葉に首を横に振る。


「向こうが気付いてる。頭が一つこちらを向いたぞ。そら、いくぞ!!」


 掛け声と共に一斉に飛び出した。全速力でその巨体へと駆け寄る。

 しかしそれにしても、でかい。首の高さは15メートルくらいの位置にあるし、それを支える胴体も相応にでかく、太い。四足で身体を支えるその姿。鱗を纏い全身を鈍く輝かせているその姿はまさに、竜と言って問題ないものだろう。

 俺達が駆け寄ると共に全ての頭がこちらを向く。さてこの巨体相手に何ができるだろうか。そう考えていると、向こうが吼えた。


『ギャオオオオオオオオッ!!』


 5つの頭全てでの咆哮は、大気を大きく揺さぶる。ビリビリと振動を受けながらもしかし、俺達は前進を続けた。

 やがてその足元に俺とネスが同時に辿り着く。ネスは右足、俺は左足。俺は足を浸透勁で殴りつけ、ネスはクナイを横一文字に振るった。俺の打撃は確かに効果があり、ネスの斬撃はその鱗を貫き肌に傷をつけた。出血がある。しかしまだ浅い。


「硬い!」


「だが通らない訳じゃない!」


 ネスと俺の同時の報告に、続けてフタバが右足に太刀を振るう。刀身の長さからネスより更に深く傷つけたそこからは、一気に血が噴出した。フタバの斬撃も有効、ならば。俺の背後からリフレが槍を突き込む。鱗による一瞬の抵抗の後、深々と槍が突き刺さった。これならいける!


「有効です!」


「効いてますわ!」


 報告と同時、瞬時に移動する。左右の頭が同時にこちらに向け、口から液体を放ってきた。

 俺達の前に降ってきた液体は地面に付くと異臭を放ちながら草を枯れ果てさせる。

 ネスとフタバの方からは、ジュワジュワと異音が鳴っていた。


「毒!」


「酸です!」


 互いに報告し合いながらなんて陰湿な奴だと感じる。毒と酸を吐き出す竜なんて、ただ事じゃない。一体何者かと考える暇も無く、更に2つの首がこちらを向いた。

 その瞳の怪しい輝きに嫌な予感を覚えさらに横に飛ぶ。瞬間ビッという音と共に閃光が走った。なんだ今のは。今のはまるで。


「レーザー!」


「光線ですわ!」


 そう、今の確実に光線だった。そんな攻撃まで備えているなんてどういう事だ!長い首を存分に利用して後ろにすら振り返りレーザーを放つなんて冗談じゃない。しかしこれは目の前の現実で起きている事だ。今はとにかく、相手にひたすら攻撃をしかける。

 毒の撒かれた地面を避けて再び左足を攻撃。浸透勁は通用している。更に上からリフレが槍を再び突き刺す。出血するなら通用している。だがこの巨体に対しては針の一刺しだ。もっともっと、もっと多くの打撃と刺突を。そう思っていると横から風切り音。


「上に飛べ!!」


 掛け声と同時にジャンプする。下をブオンと通過する尻尾。そんな事もできるのか、しかしこれはまだ序の口。今度はそいつは、尻尾を逆側へと振っていた。こちらに振った勢いを反動にして逆側に振る。そしてそのまま、身体を回転させる。通常であれば身体に衝突する!


「『風よ』!」


 精霊魔法による二段ジャンプで更に上昇して体当たりを避ける。そうしてそのまま、背中に着地した。ここなら更に、奥に届かせる事ができる!


「せぇいっ!!」


 真下への浸透勁。打撃の衝撃が身体に響く。返ってきた反動により体の内部を把握するが、こいつの身体はめちゃくちゃだ!まともな生物の構造をしていない。

 そうして更に一撃。鱗に打撃で衝撃を与え一枚割れる。そこへ今度は、真ん中の首が俺へと振り返った。その口が開き、俺へと向けられる。

 慌てて後ろにジャンプするが、そいつが吐き出したのは石の礫だった。勢いよく吐き出された石の礫に顔をガードしながらも吹き飛ばされる。そうして奴の背中から押し出された。


「ソウ!」


「大丈夫!!」


 顔はガードした。腕に礫が刺さっているが大した事ない。また額を切ってしまったが目に血は入っていない。十分戦える!

 再び地面に着地してから今度は腹に潜り込む。腹への攻撃はどうだ!ドン、という音と共に衝撃が伝播する。こいつの腹には鱗がない!


「リフレ!腹だ!」


「はい!」


 一緒にリフレと腹に潜り込み打撃を与え、槍を突き刺す。槍は足以上に、腹を深々と突き刺した。


『ギャオオオオッ!!』


 痛いか、そうか。ならばもっとくれてやる。


「フタバ!ネス!背中!!」


「いきます!」


 言った通りフタバとネスが背中に飛び乗る。そのままフタバとネスは背中に獲物を突き刺し、前へ進んだ。


「はあああああああっ!!」


 ギャリギャリギャリと鱗が音を立てながら削れ、それと同時に背中が縦に引き裂かれる。その走る勢いのまま2人は首元へとジャンプして、それぞれ左右の首に獲物を振るった。

 ネスの一撃は右の首を中程まで断ち切り、フタバの一太刀は左の首を完全に切断した。


『ギャアアアアッ!!』


 叫び声と同時に上から腹が降ってくる。このままでは押しつぶされる!


「離脱!」


 リフレと2人で腹の下から抜け出した瞬間背後にズドンと腹が地面にくっついた。ここが好機!

 横っ腹に浸透勁を叩きつけ、リフレが槍で薙ぎ払う。横一文字に傷が入り、内部に深々と衝撃を与えた。

 そうして見えた、恐らく一番弱い部分。しかしそれを伝える前に、ネスが叫ぶ。


「首が再生してる!!」


 声に首元を見るとネスの断ち切った部分にぶくぶくと肉が増殖しており、フタバの切断した断面も塞がっている。一体どんな再生能力だ!しかし胴体から完全に分離した首は再生していない。ならばまだ、方法はある。

 それを伝えようとした所で、4つの首が無茶苦茶に暴れまわった。口から毒を吐き散らし、目からレーザーをメチャクチャに飛ばし、石の礫を吐き出しながら首を振る。狙いなんて定めていない攻撃だ。

 慌てて攻撃範囲から離脱して遠回りしながら4人で集合する。


「ねぇあれじゃ近づけないわ」


「そうですわね、近づけさせないようにしているのでは」


「近づけないと攻撃できません」


「一瞬だけ、隙を作れると思う」


 俺の言葉に3人が振り返る。それを見ながら俺は言葉を続けた。


「恐らく司令塔はあの真ん中の頭だ。あいつの頭の頂点に俺が打撃を与える。ネスはその後にその首を縦に引き裂いてほしい。フタバとリフレは真ん中の首の根本だ。恐らくフタバの太刀を根本まで刺せば、奴の心臓に届く」


「そこが心臓ですのね」


「深く刺せばいいんですね、分かりました」


「縦に引き裂くならできるわ」


「よし、なら俺が先頭で突っ込む。いいな」


 俺の言葉に4人が頷いたのを見て隊列を組む。俺が先頭、次にネス。後ろにフタバとリフレが2人並んで前へと進む。そうして相手の攻撃範囲手前で、一気に駆け出した。


「いくぞ!!」


 最高速と突撃と同時、左右からレーザーが放たれる。それを更に踏み込んで避けて前へと進む。やはりこいつ、無茶苦茶に振りまいていたのはわざとだ。真ん中の首はしっかり俺を狙っている。

 真ん中の首が口を開く直前、俺は大きく前へとジャンプした。最大限の跳躍だが、奴の頭にはまだ届かない。しかし奴は頭を下げて、俺へと口を向ける。奴の口に見えるのは石の礫じゃない、輝く何か!


「『風よ』!」


 そこで更に上昇。奴の頭上を取った!そこでもう一度俺は試みる。


「『風よ』!」


 トン、と再び足場。身体を斜め下に構えての三角飛び。なんだできるじゃないか!その勢いのまま、俺は前へと前転し、右の踵を振り下ろす!


「おおおおおおっ!!」


 威力しか考えていない渾身の踵落とし。それは確実に、奴の頭の頂点に叩きつけられた。鱗の割れる音と同時に鈍い感触が広がる。頭蓋を割ったか。それが成功するのと同時に、下からネスが急速に跳んでくる。


「はあああああっ!」


 叫び声と共にクナイが喉を縦に引き裂く。ギャリギャリと音を立てながら首が裂かれる感覚に、真ん中の首がのたうつ。それと共に、下でリフレとフタバが渾身の突きを放った。


「せええええええっ!!」


「りゃああああああ!!」


 裂帛の声と同時に、突きが深々と突き刺さる。一瞬の間を置いて、2人は獲物を持ってその場から離れた。瞬間、大量に血が吹き出す。急速に血が溢れ、流れ出る。

 真ん中以外の3つの首がくたりとへたれるが、真ん中の首だけが、今だに動いている。その口には、輝く何か。

 こいつが何をするつもりか分からないが、もうこれで終わりだ。俺は割れた頭蓋の上に立ち、真下に向かい、突きを放つ。


「せいりゃぁっ!!」


 ズドン、という音と共に衝撃が突き抜け、脳を破壊する。そうして奴の口の輝きは、急速に消えていった。

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