かしこまりました。取引のある商人に確認いたします
夕食が終わり、寝るまでの時間のログイン。本拠地の天幕を出てすぐに、俺は経営陣の方を捕まえて確認した。
「現在スレではもう諦めムードが出ている。これ以降の戦争の申し込みはないかもしれない。相場について、調べておいてほしい」
「かしこまりました。取引のある商人に確認いたします」
頭を下げる経営陣に礼を言ってその場を後にする。天幕の方でリフレ達3人が待っていたので、合流して転移門で第4の街へと移動した。
「さて、それじゃ行くか」
「そうね、今日もポイズントードを――」
街を歩きながらネスとそんなを会話をしている途中。
「あっ」
「えっ?」
向かいからの声に、思わずネスが反応して足を止めた。正面に立つのは小綺麗なローブを纏った魔術師風の男。そいつは明らかにネスの事を見て立ち止まっていた。そいつの姿を見て、ネスが驚愕の表情を浮かべる。その驚愕を感じ取った男は、その表情を苦笑に変えて、こちらに近づいてきた。
「久しぶりだな、ネ……いや、ネスティフ、か」
男の言葉にネスは一瞬身体を揺らし、一度深呼吸してから男と同じように苦笑を浮かべる。
「……そうね。久しぶりね、ボリマン」
ネスはそう返した。ネスが名前を呼ぶと、男は少し安堵する。今までのやり取りで思い当たる。マリッサからの情報であった仲間だった魔術師が第4に滞在している、と。こいつがそいつか。とりあえずネスは、男に対応するつもりだ。ネスがそのつもりならいい。すると男は再びネスに声をかけた。
「少し、話ができないか?いい喫茶店を知っているんだ」
「……仲間と一緒で良かったら」
ネスの言葉にボリマンは俺達に視線を向ける。
「知ってるのか?」
「知ってるわ」
「……お前がいいなら、それでいいよ」
そう言うと男は俺達の先導を始めた。ネスは男についていく。その後ろに俺達もついていくが、途中で声をかける。
「おい、ネス。いいのか?」
「いいわよ。2人で話してもあなた達に心配をかけるだけでしょ」
ネスがそう言うならしょうがない。俺は無言を返してネス達の後ろを歩いた。辿り着いたのは小洒落た喫茶店。そのテラス席に俺達は座り、ハーブティーを人数分頼んだ。しばらく待ってからハーブティーがやってきて、それまで無言だったボリマンが一口飲んでから口を開く。
「……あの時の事を、謝りたくてな。本当にすまなかった」
「別に、もういいわよ。終わった事だわ」
「でも名前が変わったって事は、そういう事だ。それは、俺達のせいだ」
「……そう思うなら、それでいいわ。謝罪は受け入れる」
ハーブティーを口にしながら言うネスの返事に、男はほっとする。次いで、ネスに問いかけた。
「エルフレアから、何かされてないか?」
「知ってるの?」
「先日、あいつから連絡が来た。お前が大量にアダマンタイトを手に入れたから、俺達で分け前を貰おうって。ハリンツにも声をかけたみたいだ」
ボリマンの言葉に、ネスが深い溜息をつく。あの女、そんな事してやがったのか。全くどこまでも頭空っぽの女だ。
「あいつはお前が俺達に借りがあると思っているみたいだが、俺は逆だ。むしろお前に借りがある。だからそう言ったらあいつ、勝手に切れてフレンド解除してきた」
「エルフレアなら、もう接触があったわ。私があなた達に借りがあるから、アダマンタイトを寄越せって」
「あのバカ、本当にそんな事したのか……」
ネスのその言葉にボリマンは頭を抱える。本当にバカな言い分だと思う。それはボリマンも同じ事を思っているのだろう。そんなボリマンに、ネスが教える。
「勿論、何も渡してないわ。あいつに借りなんて無いし、私にギルドで喧嘩を売ってきた。だから喧嘩を売りたいなら私もギルドで買うわって言っておいたわ」
「【九堂武術道場】だろ。今一番この世界じゃ有名なギルドだ。お前がそのメンバーっていう事にも驚いたけどな。でもまぁ、安心した。お前にも今はちゃんとした仲間がいるんだなって」
ウチの道場の名声は今そんな事になっていたのか。それはちょっと誇らしい。それにしてもボリマンは『今は』と言った。昔は違ったと言いたいのだろうか。
「……あの頃の俺達は何だったんだろうな。ハリンツとは今でもフレンドだが、バーキンとエルフレアとはもうフレンドじゃない。お前がいなくなっただけで空中分解するような軟な集まりだったんだなって思ったよ」
「私はあの頃は、ちゃんと仲間だと思っていたわ。みんな優しくしてくれたし、色々教えてくれた。ボリマンにも感謝しているのよ、魔法の事を色々教えてくれて。今もあの頃教えてもらった事が役に立っているわ」
「それは良かった。そうだな、確かにあの頃は仲間だったはずなんだ。あの夜までは。バーキンがバカな事やって、許せなかった。それは俺の勝手な感情だったが、あの時はそれで頭が一杯で、お前の事を考える余裕も無かった。だからその事を悪いと思っている」
「そうね……あの後は少し、人間不信になったわ。でも周りにフォローしてくれる人がいた。『電脳遊戯倶楽部』のみんなが」
「あぁ、そうなんだな。あの人達には感謝しないといけないな」
そう言ってボリマンは胸をなでおろす。そうだな、『電脳遊戯倶楽部』のみんなが居なければ、ネスは今こうしてここに居なかっただろう。その事には俺も、感謝している。
「エルフレアの事だが、あいつは執念深いから気をつけた方が良い。特にお前に対しては、嫉妬心みたいなものが凝り固まってる。いくらギルドが強くても、お前を精神的に攻撃するとかしそうだ」
「そうなのね、気をつけるわ。ありがとう」
「ま、気をつけるだけでいいと思う。お前には頼れる仲間もいるんだしな」
ボリマンは俺達を見て言う。何かネスにあったなら、その時は全力で相手をするつもりだ。それは当たり前の事だ。
「それじゃ、俺は――」
ボリマンがそう言って伝票を持って席を立とうとした時。
「いたっ!おいボリマンこの野郎っ!」
そう言って慌てた様子で剣士風の男が駆け寄ってくる。その男の姿にボリマンは心底驚いたようだ。
「どうしたこんな所で、ていうかなんだよ。少し遅れるって言ってただろ」
「少し遅れるじゃねぇよ!ふざけんな!お前がいないとクレイジーバッファローの足止めできねぇだろうが!」
「だから遅れるって言っただろうが!ちゃんとこれから行くつもりだったよ!」
「お前がいないと『にゃんころクラブ』の揚げ代が稼げねぇんだよぉっ!早く来てくれよぉっ!」
そう言って駆け寄ってきた男は泣き出す。あまりにも必死なその姿にボリマンが慌てる。
「バカこんな往来でその名前を出すんじゃない!分かった!分かった今から行くから!」
「頼むよぉっ!同じ獣人スキー同士仲良くしようよぉっ!」
「わーこのバカ!そんな事言わないでいいんだよ!!」
なるほど獣人スキー、にゃんころクラブ、揚げ代。どうやらマリッサ情報は本当に正確だったようだ。いやこの場合変態紳士の情報網か。そんな2人の姿にネスがクスリと笑うと、伝票を受け取った。
「行ってあげなさいボリマン、私達はもう少しいるから。ここの払いはしておくわ」
「いやしかしな」
「いいから。仲間は大事にしなさいよ、ボリマン」
「……すまん。この礼はいつか必ず」
「気にしないで」
ネスの言葉に頷いて、ボリマンは必死な男を引きずって去っていった。その姿を見送ってから、ネスは肩の力を抜く。
「良かったわ、ボリマンはまともで」
ハーブティーを一口含んでからネスは続ける。
「バーキンもエルフレアもロクなものじゃなかったけれど、ボリマンはまともだった。別に心配をかけるような事もなかったし、本当によかった」
「あぁ、そうだな」
「少なくともボリマンに関しては、過去のことは水に流せるくらいにはなったわ。過去仲間だった人にも、まともな人はいるんだって分かった」
心底安心したように言うネスに頷く。ネスの過去の仲間全てがあいつらみたいなロクでもない奴ばかりでもなかった。それが分かっただけでもネスとしては安心だろう。
「あぁでも。獣人スキーににゃんころクラブね。そちらの方が衝撃かしら。マリッサ情報は本当だったのね」
「そうみたいだな。変態紳士の情報網は侮れないな」
「ソウが娼館に通ったらすぐマリッサ達にバレそうね」
「通わねぇよ!」
「冗談よ」
ふふっとネスが笑う。全く、俺は娼館なんかに用はないんだ。別に通う奴を否定するつもりはないけど、少なくとも俺には用のない場所だ。
「さてと。それじゃ私達も行きましょうか。付き合わせて悪かったわね」
「気にしないで下さい。大事な事ですから」
ネスの言葉にリフレが快く言う。それに笑顔で頷いて、俺達は席を立った。
「とりあえずポイズントード一匹は欲しいわね」
「うまく見つかるといいわね」
フタバの言葉に同意しながら喫茶店の代金を払って街を出る。この後の探索ではうまい事ポイズントードをまた二匹狩る事ができたのだった。




