みんな、お疲れ
全ての首が地面に伸びる。胴体も地面にくっつき倒れている。しばらく待ってみても、その頭は動かない。完全に、終わったか。
「みんな、お疲れ」
振り返って言うと同時にネスがジャンプして俺の額に呪符を貼る。
「治癒。今回も出血してるのはあなただけよ」
「ありがとう。あぁ腕もちょっと傷ついてるんだが」
そう言って両腕を見せるとそちらにもペタリと呪符が貼られる。
「治癒。もう、あなただけ毎回こんなに怪我をして」
「好きで怪我してるんじゃないぞ」
「分かってるわよ。怪我だけで済んで良かったわ」
はぁ、と溜息をつきながらネスが言う。それに苦笑を浮かべながら、俺は今だに出血を続ける死体に近づいた。そいつに手を触れ、インベントリにしまう。
「うおっ!」
「どうかしましたの?」
「インベントリが満杯になった」
フタバの疑問に答えると、リフレとネスが呆れた表情をする。
「あれだけの大きさですもんね」
「他のものは私達で回収しましょう」
そう言ってリフレがフタバの切り飛ばした首を回収すると同時に、ネスが聞いてくる。
「ねぇ、このでかい蛙の死体も回収していいわよね」
「勿体ないから回収してしまえ」
腹が食い破られたグロい死体だが、背中の皮とか使えるだろう。そうしてネスが蛙の死体を回収して振り返った時に、俺は気付いた。
「ネス、腹が見えてる」
「えっ?うそっ!?」
俺の言葉に慌てて自分の腹部を触り、そこに鎧がない事に気付いて後ろに振り返る。
「ちょっとこっち見ないで!」
「分かってるよ」
くるりと後ろを振り返ると背中でごそごそとネスが動く。リフレとフタバは周辺の警戒をしてくれていた。やがて着替えたネスが声をかけてくる。
「もういいわよ。酸の飛沫が飛んでたみたい。肌は無事だった」
「飛沫だけでそれかよ」
全く呆れた威力だ。ネスの鎧を抜けて服まで溶かすとは。それにしても。
「みんな血まみれで泥まみれだな」
「思い切り血を浴びましたから」
「お風呂に入りたいですわ」
リフレの言う通り確かにみんな血を浴びた。風呂にも入りたいのも分かる。しかし、だ。
「まだ解体が残ってるからな。それが終わってからの方がいいと思うぞ」
「仕方ありませんわね」
はぁ、とフタバが肩を落とすがこればっかりは仕方ない。まだやる事が残っているのだ。さて、とにかくだ。
「ドゥヴァリエに戻ろう。マリッサ達にも手伝ってもらわないと流石に無理だろうこれは」
「そうね、早く戻りましょう」
そうして一路、ドゥヴァリエへと向かう。第4の街ティトゥリに入ろうとした時に衛兵さん達にギョっとされ、街中では思い切り避けられる。まぁ血まみれだし仕方ない。そうして転移門まで辿り着きドゥヴァリエへと転移。そこでも道を開けられながら『電脳遊戯倶楽部』へと入った。カウンターにはいつも通りリットンが居てくれたが、俺達を見ると慌ててメニューを操作してから鬼の形相で迫ってきた。
「ちょっとちょっとまってください!!そんな血まみれ泥まみれで今度はなにしたんですか!?」
「いやぁ、また大変な目にあってしまってな」
「ちょっとまってください!!店を閉めます!!」
リットンは慌てて一旦表に出て店の看板を『本日閉店』に切り替えて戻ってくる。それと同時に、マリッサ、シャマール、ベルカス、ナリンセンがやってきた。また全員集合か。そこにリットンも加わって5人揃った所で、リットンが俺達に問いかける。
「それで、今度は何と遭遇したんですか?どうせまたまともなものじゃないんでしょ?」
「そうだな、まともじゃない。頭が5つある、多分竜だ」
そう言った瞬間ヒュッと誰かが息を呑む。少し時間を置いてから、ナリンセンが次の問いをしてきた。
「それ、毒吐いた?首は、傷は再生した?」
「あぁ毒を撒き散らしてきた。傷もめちゃくちゃ早く再生していたな。さすがにすぐ切り飛ばした首が再生するような事は無かったが、傷はすぐ塞がっていた」
俺の答えに、ナリンセンはその瞳を取れんばかりに見開きながらキラキラとさせて迫ってきた。
「間違いない、ヒュドラ!すごい!新発見!初討伐!!」
「え、新発見なのか。それにまた初討伐かよ」
「それで、他には?どんな攻撃?」
「酸も吐いてきたな。あと目からレーザー撃ってきた。口から石の礫と最後に輝く何かを撃とうとしてた。撃たれる前に殺したが」
「酸!!レーザー!?とんでもない事になってる!!」
ナリンセンがキャッキャと騒いでいる。こんなナリンセンの姿を見るのは初めてだ。そうして次に、マリッサが聞いてくる。
「それで、討伐したって事は素材があるって事よね」
「というかその場で解体なんてできないから丸ごと持ってきた。お陰で俺のインベントリは一杯だ」
「なるほど。ちなみに大きさは?」
「多分、15メートルから20メートルくらい」
「あなた達、ビルと戦ってきたのと同じじゃない」
そうだな、小さな雑居ビルくらいの高さはあったしその例えは的確だろう。
「ていうか、よくほぼ無傷で倒しましたね」
「いや今回に関しては当たれば即死だから無傷で勝つ以外方法が無かったというか。まぁ俺は多少石の礫でダメージを受けたが」
「後で鎧見せてくださいね」
「シャマールにはネスの鎧の修復も頼みたいんだ。酸の飛沫で溶けてしまってな」
「あの鎧が溶けるんですか!?」
俺の言葉にシャマールが心底驚いた表情をする。うん、申し訳ないんだが溶けてしまったんだ。修復を頼む。そうして一連の事情を説明し終えると、マリッサが即座に判断した。
「ベルカス、特殊解体装備一式用意できるわね」
「はい、準備できます。さすがに混合鋼じゃなくてミスリルになりますが。混合鋼のナイフなら3本あります」
「リットン、ガミンガ達にも連絡とって。どうせ後で素材融通する必要あるし今から手伝って貰いましょう」
「了解です、すぐ連絡します」
「ナリンセン、特殊容量タンクとシートを持ってきて。最大容量の奴を可能な限りよ」
「分かった。すぐ取ってくる」
「シャマールは内臓解体用の特殊防御装備の用意。内臓解体はナリンセンとシャマールに任せるわ」
「分かりました、準備します」
「解体場所は九堂武術道場の仮拠点付近!準備が済んだ者からすぐ来るように!それでは行動開始!」
マリッサの号令で全員がわーっと散っていく。そうして残された俺達にマリッサが言ってきた。
「それじゃ、あなた達の仮拠点近くに行きましょう。あと可能なら門下生の方にも手伝ってもらいたいわ」
「あぁ、近くにいる奴には声をかけるよ」
「じゃあ早速行きましょう」
そうして俺達は本拠地へ行く道すがら、気になった事をマリッサに聞いてみる。
「それで、そのヒュドラってのはどんな奴なんだ?」
「作品によっては竜だったり亜竜だったりする奴ね。基本的に多頭の竜で、口から毒を吐くわ」
「それって強いんですか?」
「基本的に強いわ。再生能力が高くて攻略難易度は激高よ」
「ワイバーンと比べると?」
「ワイバーンなんか目じゃないくらいね」
「とんでもない奴を相手しましたわね」
「そのとんでもない奴を倒しちゃったんだけどねあなた達4人で」
話しながら本拠地に戻ると、俺達に気付いた門下生と経営陣が慌ててこちらにやってくる。
「宗吾様!一体なにが!?」
「あぁ、ちょっと大変な魔獣を相手してな。すまないが周辺にいる門下生を集めてくれ。解体を手伝ってもらいたい。遠くにいる奴らは別に来なくていいぞ」
「分かりました、すぐに呼びかけます」
経営陣が周辺にいた門下生達に呼びかけるとすぐ20人程が集まってくる。それと同時に急いだ様子でリットン達『電脳遊戯倶楽部』の面々とガミンガ、レイコップ、シャーサ、イレイザがやってきた。
「これで全員集合ね」
「あぁそういえばジャイアントトードもあるんだが。ヒュドラの食いかけの奴なんだがな」
「まずは順番にいきましょう。ナリンセン、準備して」
マリッサが指示を出すと本拠地付近の広場に大きなビニールシートのようなものが広げられる。30メートルくらいの大きさだ。
「これは?」
「ロックワームの皮で作った特製シートよ。これで血や毒が地面を汚す事はないでしょ。それに血も大事な素材だから、特に竜の場合は」
「なるほど」
「それで、これで足りるかしら。なるべく中心に出してほしいわ」
「あ、まだ出血が続いているからその準備も頼む」
「ナリンセン!タンクの準備!」
マリッサが慌てて指示を出すとナリンセンが大きなタンクをインベントリから取り出す。長いホースのついたものだ。
「吸引機能のついた特殊容量タンクよ。これで多分大丈夫だと思う」
「よし、それじゃあ出すぞ」
そう言って、シートの真ん中にインベントリからヒュドラを取り出す。周囲にいた全員が思い切り息を飲んだのが分かった。




