大将首が……大将首が欲しいんだよ……
夕食前のちょっとしたお茶の時間。いつものように俺と涼子、智香子、二葉で茶の間でお茶を飲む。俺は思わずちゃぶ台にぐでっとしていた。
「宗吾さん、だらしないですわよ」
「大将首が……大将首が欲しいんだよ……」
「あなたそればっかりね」
呆れたように二葉と智香子から言われるがこればっかりはしょうがない。折角の戦争なんだ、大将首を取りたい。俺が先頭に出れば突貫してそのまま大将首を取れるかと思ったがそうはならなかった。まぁ向こうの狙いも大将首の俺なのだから仕方なかったんだが。しかしこうも当てが外れるとな。次こそ大将首を取りたい。
「あっ、申込みありましたよ!」
「本当か!?」
ガジェットを見ていた涼子の声に激しく反応する。俺もスレを見て相手を確認。うん、なるほど。
「【アブソリュートゼロ】ね。どんなギルドなんだろうか」
「どのようなギルドでも、我々の敵では無さそうですが」
俺の言葉に二葉がそんな事を言う。今までの二戦がとにかく圧勝だったのでそう思うのも仕方ないかもしれない。両方とも前線組トップランクと呼ばれていたそうだし。しかしあれでトップランクなのかとも思う。俺達に太刀打ちできていなかったしな。やはり素人は素人か。
「マリッサ情報来たわ。魔法使いだけのギルドね。意外だって言ってるわ」
「魔法使いか。確かに意外だな、アダマンタイトに用無さそうなのに」
智香子の言葉に頷く。魔法使いがアダマンタイトを装備するだろうか。ミスリルの方が的確なのじゃなかろうかと思う。あれ魔力の増幅効果あるらしいし。
「どこかに売るんじゃないですかね。確実に儲けになりますから」
「その線はあるか。しかし魔法使いか、遠距離戦をご希望なのかな」
涼子の言う通りどこか売るアテがあって申し込んできた可能性はあるか。そして近距離戦オンリーの俺達に対して、遠距離であれば勝算があると考えているとか。確かに遠距離主体で戦えば近距離相手には有利だろうけれどな。
「ちょっと浅はかだな。まぁいいや、早速予定を詰めよう」
「そうですわね。今夜でよろしいのではないでしょうか」
うん、そうだな。今夜でいいか。スレに早速書き込んで予定を詰める。相手も今夜は都合が良いらしいので、今夜戦争となった。早速その事をマリッサ達に連絡してもらう。
「一日二戦か。楽しいじゃないか」
「そうですね、魔法使いと直接対決するのは初めてです」
楽しそうな俺の言葉に涼子も楽しそうに言う。今までの魔獣でも魔法主体で戦う奴とかは出てこなかったもんな、新しい体験ができそうだ。そうしてギルドチャットで全員に通知して準備を終える。夕食を食べてからゲーム内へとログインして、その時を待った。本拠地周辺で相変わらず戦闘準備を行っていると、その集団がやってくる。みんな黒を主体としたローブを羽織った団体だ。いいんだけどね、黒。全員同じだとやっぱり目立つね。その中から一人の優男が前に出る。なんかギルドマスターはみんな優男な決まりでもあるのだろうか。しかもこいつ、眼鏡かけてる。この世界じゃ必要ないはずなのに。そいつは眼鏡をクイッとさせながら俺に話しかけてきた。
「ソウさんですね。ギルド【アブソリュートゼロ】のマスター、ドクターマリスです。どうぞよろしく」
「あ、はいソウです。よろしくお願いします」
言ってることは普通だが言葉を発する度に眼鏡をクイックイするのはなんなんだ。そんなに眼鏡好きか。キャラ濃いな。
「早速ですが、ギルドバトルと参りましょう。さぁ、いざ戦場へ」
「分かりました、いきましょう」
集団でバトルフィールドへと移動して、両陣営距離を取る。そうしてお互いに事前の約束通りに取り決めを交わし、自陣へと戻った。
「あの、次期師範。なぜ今度は中央に?」
「前に出過ぎると狙われすぎるから」
前回ので学習したのだ。先頭に立つと囮になってしまう。その間に大将首を掻っ攫われるのはもう勘弁なのだ。なので今回は程々の距離で前に進む。味方に前を切り開いてもらい大将首まで道を作ってもらってから俺が大将首を頂く。これで行く。そうしていつも通り号令をかけて戦意を高揚させ、いざカウント0。
「総員突撃ぃぃぃぃっ!!」
『おおおおおおおおおおっ!!』
号令と共に全員でやはり最高速で突っ込む。うむ、九堂武術道場らしい戦術だ。だが相手は我々を研究していた。今までの二戦で学習したのだろう、彼らは遠距離主体で攻撃を仕掛けてきた。
「《ライトニング》!」
「《ファイヤーボール》!」
「《ストーンバレット》!」
様々な魔法を中央目掛け放ってくる。こちらが毎回中央突破を狙っているのが分かっている。しかも弾幕の密度が高い。やはり魔法使いだけのギルド、その密度はさすがだ。しかし甘い!
「魔力制御!!」
『応っ!!』
全員で魔力制御で魔力を纏い強引に魔法の弾幕を突破する。そう、魔法に対抗する方法はこちらにだってあるのだ。こちらが魔力制御を使えない訳がない。そうして突破した俺達の前に再び魔法が襲ってくる。
「《エクスプロージョン》!」
範囲爆発。俺達の前方で爆発が発生する。しかし直撃ではない。その爆発も強引に突破して突き抜けると、相手は次の手を打ってきた。
「《ストーンウォール》!」
広範囲に石の壁。なるほどこんな魔法もあるのか。しかし高さは3メートル程度。俺達の足止めをするには足りない!全員で壁を駆け上がり跳躍し直接乗り越える。それこそ意外だったのか、相手は壁の向こうでいまだにまごまごしていた。恐らく壁を回り込んでくると思っていたのだろうが、そんな常識俺達に通用する訳がない。壁の上から直接降下して相手を斬り伏せ、槍で刺し貫く。
「そんなバカなっ!」
「ありえないだろ!!」
たかが3メートルの壁で足止めできると思われていたとは片腹痛い。そうして壁の内側に入ってしまえば相手は遠距離主体、鎧も着ていない奴らはあっさりと沈んでいく。次々やられていく仲間を見て焦った奴らは、次の手に出た。慌てて空中に浮遊していく。そうだ、この世界の魔法使いは飛べる奴もいる。こいつらの中に飛べる奴がいても不思議ではないのだ。
「ハハハハッ!飛んでしまえばこちらのものだ!!」
一番奥で浮遊していたギルドマスターが高笑いをしているが、ちょっと甘く見すぎじゃないのか。
「魔法!!」
『《エクスプロージョン》!!』
途端、空中で複数の爆発が起きる。九堂武術道場の中で魔法を習得している者が一斉に空中に魔法を炸裂させた。空中に浮遊した奴はそれが意外だったのかあっさり直撃して地面に叩き落される。
「魔法が使えるなんて聞いてない!」
「この世界じゃ魔法が使えるのが当たり前だろうが!」
その思い込みを叩き潰す。リフレとネスだって魔法使ってアダマンタイトゴーレムと戦ってただろ、なんで他の奴らも使えると思わなかったのか。そうして魔法が使える門下生が空中で魔法を炸裂させ、魔法をまだ習得していない他の門下生は、2人一組となって行動する。片方が足場となり両手を前に構え、もう片方が片足をかけると足場の方が一気に腕を振り上げる。その勢いで上昇した門下生が、空中の敵を切り伏せる。
「こんなバカなっ!」
「ふざけんなぁっ!!」
同じ高さまで打ち上げられた門下生を見て悲鳴を上げながら叩き潰される。なんで空中なら安全だと思いこんでいたんだこいつらは。対抗できないと思っているのが愚かしい。そうして俺も次々に足場として門下生を空中へ打ち上げていき、敵の数がどんどんと減少していく。俺を持ち上げられる奴はさすがにいないから俺が足場になるしかないのだ。さっきまで高笑いしていたギルドマスターもさすがにまずいと思ったのかより一層高度を上げようとしていた。そんな真下で、フタバが声をかける。
「ネスティフ!!」
「えぇ!!」
フタバが足場となり、ネスが勢いよく飛び上がる。おい、ちょっと待て!それはちょっと待て!そう思ってももう遅い。高く打ち上げられたネスはさらに上空で精霊魔法を使用して二段ジャンプ。高高度にいたギルドマスターに追いついた。
「ば、バカなぁっ!!」
「愚か者、さようなら」
アダマンタイトのクナイでざっくりと切り裂かれ、ギルドマスターは光となって消えた。宙でクルクルと回転しながら綺麗に着地をして見せたネスが宣言する。
「敵大将、九堂武術道場のネスティフが討ち取ったわ!!」
《ギルドマスターの敗北により、勝敗が決しました。勝者【九堂武術道場】》
「ネスティィィィィフッッ!!」
勝利宣言をしたネスに思いっきり駆け寄ると、その両肩を鷲掴みする。
「おま、お前っ!俺の大将首ぃっ!!」
「あなたじゃあの高度にいけないでしょ。しょうがないじゃない」
俺にそう言いながらもネスは嬉しそうに微笑んでいる。ちくしょうこいつ、喜んでるじゃないか!俺が大将首欲しいの知ってるくせに!!そう思ってももう遅い。決着はついてしまったのだ。生き残りの相手ギルドも次々と消えていく。もうしょうがない。これで決着だ。
「それでは皆のもの、勝ち鬨だ!!」
『エイ、エイ、オーッ!!』
本日二度目の勝ち鬨をあげる俺達にリットンとナリンセンが駆け寄ってくる。
「いや~今回は違う意味で見応えありましたね!」
「アクロバティックな空中戦、かっこいい」
「ありがとうな、早速動画を見せてくれ」
そうして共有された動画を見る。緒戦の魔法の弾幕を突っ切る姿から壁を乗り越え敵陣へ。そこから空中戦となりこちらの魔法もしっかり映っている。最後のネスの一撃は悔しいが見事だった。再びこの動画を添付してスレに投稿して本拠地へと帰還だ。
「いやー対魔法戦というのもいいものですな!」
「流石に服が汚れてしまいましたがな!ハハハ!」
今回の師範代の会話に文句はない。この世界独特の魔法戦もそれは楽しいものだった。確かに服は汚れたがな。本拠地へ戻ると居残り組とマリッサがまたいつものように出迎えてくれた。
「それではまた簡単ではございますが戦勝の宴を」
「うむ、それでは皆のもの、戦勝の宴だ!」
始まった本日二度目の戦勝の宴にマリッサがいつものように話しかけてくる。
「これで三度目ね。そろそろ終わりかしら」
「そうだな、もうそろそろ終わりな気がする」
「どれも圧勝だものね。対抗する気になるギルドは中々いないと思うわ」
マリッサの言う通り結局どれも圧勝だ。こちらに犠牲者がない以上、圧勝と言ってしまって問題ない。今後も戦争を仕掛けられたらまた圧勝してしまえばいいだけの話だしな。
「スレはもう諦めムード」
スレを監視していたナリンセンがやはりウィンドウを可視化して見せてくる。『当たり前だけど魔法使えるよな、当たり前だけど』『思い込みって恐ろしい』『正統派も駄目、防御主体も駄目、魔法も駄目。どうやって勝てと?』『もうトップギルドの面子はボロボロだよ』『空中戦かっこいい』と悲観一色。うん、流石に今回のような勝ち方をすると勝ち筋が見えてこないか。スレは完全に諦めムードだ。
「今までの3つのギルドは本当にトップクラスだったからね。それを圧倒したあなた達に対抗するのはもう難しいわよ」
「そういうものかね」
「それに下手に仕掛けて負けてもね。トップギルドはプライドも高いわ。負けたら簡単にその地位を転げ落ちるから、手を出したくないでしょう」
「プライドがあるなら仕掛けてくればいいと思うんだが」
「でも仕掛けた【キングスロード】はもう悲惨な事になってるもの。同じ目には合いたくないわよ」
【キングスロード】そんな事になっていたのか。自業自得だがそれも可哀想だな。だが勝負というものは非情なものなのだ。
「じゃあしばらくは様子見だな。スレを見ながら第4を探索するか」
「その余裕はあるでしょうね。締め切りも近いし、第4を楽しむといいわ」
「明日店に来ればポイズントードの毒消し売る」
「それがあったか。じゃあ明日また店にお邪魔するよ。毒消しは必要だからな」
とりあえず明日から休日だ。じっくり第4を楽しむとするか。




