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もうそろそろ中で住めそうだな


 休み最初の日。いつも通り朝食を食べる。昨日から本館住まいとなり一緒に食事をするようになった紅葉と楓はまだ慣れないようでギクシャクしながらご飯を食べていた。早く慣れてくれると嬉しいな。そうしてゆっくりした後でゲーム内が朝になるまで日課の巻藁を殴る。ゲームにログインするようになった門下生も自主的に集まって感覚の調整の為に休日でも道場にやってきて巻藁を殴るようになっていた。とても良い事だと思う。そして風呂に入ってゲームへログイン。天幕を出て道場の建設現場へと向かう。工事は着々と進み、既に建物の外壁は出来上っているように見える。


「もうそろそろ中で住めそうだな」


「そうだな、あと一週間って所か」


 俺の言葉に親方が同意する。そうか、もうそんなに進んでるのか。


「しかしそっからが大変だ。細かい修正に外壁を更に重ねる。屋根もちゃんとしたものを取り付けなけりゃならん」


「お手数おかけしますがよろしくお願いします」


「おう、任せておけ」


 親方が現場へ戻っていくと、入れ替わりにリフレ達がやってくる。


「もう結構出来てきてますね」


「あと一週間くらいでとりあえず中で生活できるそうだ」


「それは楽しみね」


「そうしたら天幕は撤収ですわね」


 3人で感想を言いながら現場を眺める。しばらく眺めてから、やるべき事をやりに行く事にした。


「『電脳遊戯倶楽部』へ行こう。毒消しを買わないと」


「そうですね、行きましょう」


 そうして連れ立って店へと行く。店の中に入るとカウンターにはいつも通りリットンがいた。リットンは手を振ると俺達を招く。


「いらっしゃ~い。お待ちしていましたよ」


「あぁ、毒消しを買いに来た」


「はいはい、ご用意してますよ。それと一緒にお渡しするものがあります~」


 そう言ってリットンが取り出したのは、陶器の瓶と、鞘から真っ黒な太刀。お、これは。


「混合鋼の太刀です。フタバさんの分が出来ましたので~」


「丁度いいな。フタバ、新しい武器だ。装備して確かめてみてくれ」


 早速フタバは太刀を手に取り鞘から抜き放つ。刀身も真っ黒だ。そうして構えを取り、素振りを一通りして感触を確かめてから鞘に戻す。


「素晴らしい出来ですね。バランスも問題ありません」


「良かったです~。新しい土地に行くなら強力な武器はあった方がいいですからね~」


 リットンはほっとしたように言うと、次に瓶の説明に入る。


「これはポイズントードの毒消しです。ポイズントードは鼻から毒を噴射するので、気をつけて下さいね~」


「鼻から噴射するのか。この毒消しは飲めばいいのか?」


「いえ、毒の付着した部分にかけてください。飲み込むことは少ないと思いますが、付着した肌から染み込むので、そこにぶっかけるんですよ~」


「分かった、ありがとう。いくらだ?」


「一本5000ロンですね~。毒消しが無くなったら退散する感じで立ち回った方がいいですよ~」


 用意された全員分の毒消しを買い取って各自のインベントリにしまう。これで毒に関してはある程度問題ないだろう。


「あ、それとポイズントードの内臓はあまり破壊しないようにして下さい。毒袋も破壊されると素材として使い物にならなくなるので~」


「なるほど。となると俺は勁での攻撃はしない方がいいな」


「ですね~。なるべく刃物で攻撃するのが良いと思います」


そうなると今回俺は普通の打撃で相手をする必要があるか。中々面倒そうだな。しかしそういう敵も出てくるか、仕方ない。


「分かった、色々教えてくれてありがとう」


「いえいえ。それでは頑張ってきて下さいね~」


「あぁ、行ってくる」


 『電脳遊戯倶楽部』を後にする。さてそれでは早速第4の街へ行くか。そうして転移門で第4の街へ転移して、街の西側にある湿地帯へと向かう。湿地帯に近づくにつれ、水の気がどんどんと強くなってきた。街から30分ほどかけて辿り着いた場所は文字通り湿地。背の高い草がいくつも生えた一帯だ。


「これは、大変そうだな」


「そうね。地形の難易度としては結構高いわ。だからあまり人気がないの」


 ネスの言う通り探索難易度は高いだろう。背の高い草の生えた地面のぬかるんだ一帯。好き好んで探索したいとは思えない。しかしそこを、俺達は今から探索する。


「それでは早速、水上歩行の練習がてら付近を探索しましょう。今日はあまり深い所までは潜らないようにしましょう」


 リフレの言葉に同意して、湿地帯へと足を踏み入れる。水上歩行の基本的な考え方としては風の精霊魔法と同じく、そこに床があると想定する事だ。だがこれが難しい。俺とフタバは早速足を泥に突っ込んでいた。


「これは、難しいですわ」


「あぁ、中々難しい。それに足が泥まみれだ」


 ぬかるんだ地面をべちょべちょ言いながら歩く。それと同時にここには地面がある、と想定しながら。むぅ、上手く行かないな。


「初めは足元を意識するのよ。地面を強く意識して」


「言ってることはわかるけど、難しいわ」


 ネスの指導にフタバが反応する。うん、言ってる事は分かるんだが、難しい。俺とフタバは足元を見ながらゆっくり歩く。ここには地面がある、泥や水じゃない。ちゃんとした地面だ。そう意識しながらゆっくり、ゆっくりと歩く。リフレとネスの足元は全く汚れていない。ちくしょう、ここで経験の差が出ているな。


「もう靴がぐちょぐちょよ」


「フタバ様、弱音を吐かないで下さい。フタバ様なら大丈夫ですよ」


 思わず弱音を吐いたフタバをリフレが励ます。普段弱音なんて吐かないフタバのそんな姿は珍しい。そうして俺達2人はゆっくりと湿地帯を歩いていると、俺の足元が少し硬くなってきたような気がしてきた。


「あれ、足元硬くなった?」


「地形は変わってないわ。水上歩行の成果よ」


 そうか、これが水上歩行の成果か。この感覚を忘れないように意識しながら、ゆっくりと前進しよう。そうして相変わらず少しずつ前へと進んでいくと、前から3つの気配が結構なスピードで近づいてくる。


「敵よ」


 ネスの短い言葉に戦闘態勢に入る。正面から来るのは、大きさ1メートルくらいの二足歩行のトカゲ。結構なスピードで走ってきている。そいつらは泥をバシャバシャと撒き散らしながらこちらへ向かってきた。


「行くわ」


 言うと同時にネスが突っ込む。その後に俺とフタバも続いて前に出てネスが首を刎ねると同時に俺とフタバが他のトカゲを殴り殺し、切り捨てる。ふむ、他愛ない奴だった。しかし俺とフタバの足はぐちゃぐちゃだ。


「あぁもう、泥の上なんて嫌になるわ」


 思わずプリプリとしながらフタバが足を上げる。その足の裾は泥だらけだ。俺も変わらない。ちょっと意識を戦闘に割いただけでこの有様になってしまう。


「まだお二人は水上歩行の練習に集中して下さい。敵は私とネスさんで対処しますから」


「そうね。2人は練習、敵は私達で排除。ここらへんの敵ならまだ2人だけでも何とでもなるわ」


「ちなみにそいつらはなんなんだ?」


「スワンプリザードよ。泥の上を走るトカゲ。一応肉は食べられるし皮も使えるわ、動物だけど」


 なんだ、魔獣じゃないのか。それではそのトカゲは2人に任せて俺達は水上歩行の練習に集中しよう。そうして再び水上歩行の練習に戻る。途中休憩を挟みながら湿地帯を歩き回り、水上歩行を練習。それでようやく、俺は意識を集中していれば泥の上にしっかりと立てるようになり、フタバも水上歩行の感覚が掴めたのか、足が完全に泥に沈むような事は無くなった。


「やっぱりソウの熟練度の上昇は早いわ」


「でもまだ練習が必要だ。午後も練習だな」


「わたくしもうここに来たくありませんわ」


「フタバ様、そう怒らないで」


 今だにプリプリと怒るフタバをリフレが諌める。フタバが怒りたくなるのも分かるが、もうちょっと練習しよう。それで今後も楽になるはずだから。ゲーム内時刻は結構いい時間だ。俺達は一度第4の街に戻り狩猟ギルドにスワンプリザードを納品、転移門で本拠地へ戻る事にした。帰っている間もフタバはプリプリとしている。


「フタバ、そう怒るな」


「このような無様な姿、宗吾さんに見られたくありませんわ」


 そんな事気にしなくていいのに、と言ってもこれは本人の気持ちの問題だからな。しばらくはフタバはプリプリしたままかな。本拠地に戻って一旦それぞれの天幕に戻り着替える。ズボンの裾と靴下、靴を替えないと気持ち悪くてしょうがない。そうして着替え終わって汚れたものを洗濯に出していると、そこにフタバもやってきた。経営陣に靴と靴下、ズボンの洗濯をお願いする。


「水上歩行を覚えるまで洗濯がいつもより増えそうですわ」


「なら早めに覚えないとな」


「それはそうですけれど。少なくとも午後も足は泥まみれになります」


 はぁ、と溜息をつきながらフタバが言う。確かに午後もそうなる可能性は高いんだよな。どうにかならんかな。


「午後は替えの靴と靴下を持っていくようにしよう。それだけでもいくらかマシだろう」


「そうですわね。そうしておきましょう」


 着替え終わって幾らか落ち着いたフタバと一緒に天幕付近に戻ってリフレ達と合流、着替えたばかりだが公衆浴場へと行ってゲーム内で夕食を食べることにした。その際にギルドバトルスレをチェックしておく。


「新しいギルドバトルの申し込みはないな」


「そうですね。今はどこのギルドなら勝てそうか検討会みたいなのが始まっています」


「やっぱりトップギルドに勝ったのが大きいみたいね」


「相場がこれで安定するならよろしいんですけれどね」


 うん、ネスの言う通りトップギルドに勝ったのが大きいみたいだな。諦めムードというか、どうすれば勝てるのかという話が中心になっている。もうアダマンタイトがどうとかいう話は横に置かれてしまっているな。だがまだ受付の締め切りは明日まである。それまでは申込期間なので気を抜かないようにしよう。こうしてスレの話題を話しながら夕食を終え、本拠地でログアウトを行うのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 水上歩行の練習するだけならたらいに水を汲んでそれで練習した方が洗濯楽そう
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