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大人げない

由衣の誕生日会も無事に楽しく終わり、いつもの日常に戻った。


少し前まで暑い暑いと言っていたのに、もう肌寒く感じる。

特に女子はもう上着を着ている子も少なくない。

本格的に寒くなると、また部室が使えなくなるから、今のうちにやれることを頑張っておかないと。


次の漫研の発表の場は書華美展だ。

一年生たちは、来年の文化祭への準備をいったんやめて、そっちに力を入れなければならなくなった。

二年生も出品する以上、本気で取り組んでいる。

俺と研二を除いて。


去年は、描ける部員が7名いたので、一人が2枚描いて14枚。

4掛ける4が見栄えがいいだろうと、部長と副部長がもう1枚ずつ描いてくれた。


今年は描ける部員が10名。

一人が2枚書いて20枚。

やはり、5掛ける5が見栄えがいいだろうということになって、2年生の5人でもう1枚ずつ書くことになった。


ということは、来年は6掛ける6になるのか?

ぜひ、そうなって欲しいな。


「真先輩、みんな書華美展のイラストの下絵を書いてますよね。僕、評論してるの、何か悪いことしてるような気になります。」

研二がいかにも申し訳なさそうに言う。

「だよな。去年はみんなが部室に集まって活動するどころか、俺と真奈美と由衣以外はほとんど部室に来てなかったから、俺はそんなこと思わなかったけど、今年は確かにな。肩身が狭いな。」

「はい。ほんとそうです。」

それは事実だが、どうすることもできない。

「研ちゃん。俺たち、絵が描けないんだから仕方がないよ。その分、評論に全力を注いでいい作品を作ろう。それが俺たちににできる全てのことだから。」

「はい!そうですよね。」

研二の顔が明るくなった。

俺の気持ちも強くなる。


文化祭が終わって以来特に、自分で言っていた通りに、部長がウザいほど一年生にからんでいる。

後8か月ほどしたら引退になるから、思い残すことがないようにしないと、と俺たちにしきりに言うようになった。

書華美展の準備に入ると、なおさらになっている。

イラストの指導が主だが、プライベートにまで。

特に恋バナになると、少しでもかすると捕まえて離さない。

ほどほどにしないと、本当にウザがられるぞ、なんて心配になるほどだ。

でも、一年生たちも、まんざらでもなさそうだが。


10月も下旬に入っての朝、いつものように由衣と登校していると

「もうすぐ球技大会ね。」

珍しく、昨日あったことや家でのこと以外のネタを振ってきた。

そうだ、来週の金曜日は球技大会だ。

男子はソフトボールかサッカー、女子はバレーボールか卓球のどちらかに参加することになっている。

卓球も団体戦で行われる。


「真ちゃんはソフトボールよね。」

「ああ。野球してたしな。それにサッカーなんてできないし。由衣は今年もバレーだよな。」

「うん。久しぶりにバレーができるから楽しみ。真奈美ちゃんは卓球に決まってるし、何か、私たちに合わせてくれてるみたいよね。」

「ほんとそう。」

しばらく笑った。


部室でも、休憩しているときには、その話で持ち切りだ。

休憩の時間が決まっているわけではないので、疲れたら各自で適当に休憩している。


裕香と詩織が話しているのが聞こえる。

「裕香は何に出るの?」

「バレー。どっちも上手くないけど、バレーの方がボールが大きいから当たりそうだし。」

ボールが大きいからとか当たりそうだからだとか、つい吹き出してしまいそうになった。

由衣も咲良も笑いをこらえているのがわかる。

そんなことに気付いていない裕香が

「詩織は?」

「私は卓球。バレーってサーブ受けたらバチンって手が痛くなるもん。卓球って、球が軽いから当たっても痛くなさそうだし。」

これまた、そんな理由か?

「あ~あ、なんで柔道がないんだろう。」

と詩織。

「ほんと。剣道があったらな。」

と裕香。

それは球技じゃないからだろ!

おそらく心の中で、みんが一斉にツッコんだはずだ。


そうこうしている間に、球技大会の当日を迎えた。


自分のクラスの試合は男女問わず応援に行くことにしている。

それがないときには、時間が合えば、真奈美や由衣のチームの応援に行くつもりだ。


朝一で、俺のチームの試合があった。

レギュラーになれなかったとは言え、もと野球部員だ。

それにピッチャーの球は速くないし、裕香ではないがボールも大きい。

俺のクラスは、なぜか小学校のスポーツ少年団でのソフトボール経験者や中学校での野球経験者が多い。

圧倒的な力の差を見せつけて一回戦の相手チームをボコボコにしてやった。


試合の後、体育委員に対戦表が載っている冊子を見せてもらうと、ちょうど由衣のチームがこの後に試合がある。

しばらく俺には試合がなく、俺のクラスのチームも次の試合はない。

応援に行ってやろう。


体育館に入って由衣のチームの応援に加わる。

このクラスには、去年、同じクラスだった子が男女ともに結構いるから、いても違和感がない。

「真ちゃん、由衣ちゃんの応援に来てくれたのよね。」

なんて嬉しい声を掛けてくれる女子もいる。

すでにアイツら4人は来ていた。

本当にみんながみんな、試合がないのか?

心配してしまう。

すぐに、真奈美もやって来た。


試合が始まる。

点を取れば次は取られるといったシーソーゲーム。


そんな中で、やはり由衣の動きは違う。

普通ならこのレベルの試合では球が落ちるところを、飛び込んで拾う。

由衣がいいプレーをするたびに、応援の生徒たちから

「由衣ちゃん、ナイス!」

といった声援が飛ぶ。

嬉しそうにうなずく由衣。

どさくさに紛れて

「由衣ちゃん、いいぞ!」

なんて、アイツらも、由衣ちゃん呼びで応援している。


由衣にサーブが回ってきた。

バンバンと床に2度打ち付けて、キリっと締まった顔になる。

サーブを打つ。

低い弾道で鋭い球が飛ぶ。

バーンと大きな音を響かせて、後衛のセンターとライトの間に落ちる。

どちらも一歩も動けない。

え、マジ?という顔で2人ともがボールが落ちたところをじっと見ている。

こっちも向こうも応援が静かになった。

「すごいな。」

などと言った声が漏れている。

はっと、我に返る由衣。

やっちゃった、とばかりに慌てている。


「元バレー部が本気でサーブするか。ほんとに大人げないな。」

ついおかしくなって真奈美に言ってしまった。

『大人げない』か。

どの口が言ってるんだか。

「そうね。」

と真奈美も笑うが、それは、少し前のことを思い出したから。


俺はそんなこと知らないで、次の由衣のサーブを楽しみに待つ。

次はだいぶ山なりの球が飛んでいって、ラリーになった。

由衣もだいぶ大人になったようだな。


俺は試合が重なって真奈美の試合を見られなかったが、応援に行った由衣によると、しろうと相手にビシバシと容赦なくスマッシュを決めていたらしい。

真奈美も本当に大人げないな。

大人なのは俺くらいか。


結局、俺のクラスは準決勝で敗れた末に、三位決定戦で勝ったので、閉会式で表彰状が貰えた。

俺のクラスの女子のバレーのチームも三位に入った。

バレーの優勝は由衣のクラスだった。

1位が好きな由衣のことだから、決勝戦ではあの大人げないサーブを連発したんじゃないのか?

大人げなく、きついスパイクなんかもしたかも。

知らないけど。


放課後の部室でも、今日の球技大会の話でずっと盛り上がっていた。

特に由衣のサーブが大きな話題になっている。

「私、見ました。由衣先輩の本気サーブ。すごいって言うより怖かったです。あんなのが当たったら痛いどころじゃないですよ。」

詩織がいかにも怖そうにみんなに向かってしゃべる。

「私も見たけどほんとそう。やっぱ、経験者は違うよね。卓球にしといてよかったよ。私、由衣ちゃんに狙い撃ちされそうだもの。」

と副部長。

「私も見たかったな、その暴力サーブ。」

と部長もおもしろく言う。

「暴力って。」

困り顔の由衣。

そこに美和が

「そうだ。由衣先輩、一回だけアタックしましたよね。あれ、みんな引いてましたよ。」

やっぱり本気で打ったのか。


「この中で由衣ちゃん以外に優勝した人?」

と萌がみんなに聞く。

綾が手を挙げる。


おそらく綾も、マジで決めに行ったな。

市の大会のベスト4が、本気出して。

ほんと、姉妹揃って大人げない。

ご覧いただきまして、ありがとうございます。


毎週日曜日に新しいエピソードを加えさせていただいています。よろしければ、またおいでください。

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