それとなく
「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、それまでは毎日が暑くて参っていたが、9月の下旬から急に涼しくなった。
今年は台風がよく近付いてくるので、曇りや雨の日が多いのもあるが。
とは言え、まだまだ半袖がちょうどいい。
10月の初めが中間考査の一週間前で時間割も発表されたので、考査終了まで部活動は休みになる。
しっかりとテスト勉強をしないと。
と言っている間に、考査が始まり、そして終わった。
また、いつもの日常に戻る。
みんなで部室に集まっての活動が再開された。
制服もみんな合服になっている。
研二と綾の件は、本人たちからは言えないが、いつまでも隠しておくのも気が引けるとのことで、俺と由衣とでそれとなくみんなに伝えるということで話がまとまった。
真奈美は言い辛いだろうから。
今日は、俺と由衣とで、終礼が終わるや否や急いで部室に向った。
早く来た子を捕まえようと。
ちょうどいいことに、美和だけがいた。
頼むぞ、それとなくだぞ。
「ねぇ、美和ちゃん、研ちゃんと綾ちゃんが付き合ってるって知ってた?」
何の前振りもなく、由衣がいきなり剛速球を投げる。
もう少し、それとなく言えないものか。
やはり由衣には無理だったか。
「え!それ本当ですか!?」
目を丸くして驚く美和。
やはり、そうなるよな。
それとなくどころじゃない。
「うん、本当よ。それでね、美和ちゃん、お願い。一年のみんなにも、それとなく言っておいてもらえない。」
「はい。でも、いいんですか?」
「何が?」
「私が言っても。」
「いいよ。2人もそうして欲しいらしいから。」
「わかりました。じゃ、それとなく言っておきます。」
『それとなく』が今年の漫研の流行語大賞になりそうだ。
二年生には、俺たちでそれとなく話さないと。
かくして、このことは、その日のうちに皆の知るところとなった。
だからと言って、活動中の研二と綾に特別な変化は見られない。
まぁ、俺たちもそうだったし、今もそうだけど。
一年生も、腫れ物に触るように接することもなく、たまには軽くいじっている。
いい関係が築けている一年生どうしだから、それも自然でいい。
一年生たちが集まって一緒に休憩をとっていたら
「いいな。私も彼が欲しいな。」
とのぞみ。
「やられたな。私が先に告っといたらよかった。」
美和がおもしろく言う。
「でもね~。研ちゃんにも選ぶ権利があるから。」
と詩織がツッコむ。
「あんた、それ、どういう意味よ!」
口調はきついけど、目は笑っている。
「そのまんまだけど。ね、研ちゃん。」
突然振られて、一瞬慌てたが
「いや、美和のようなタイプもいいかもな。」
さすがだ研二。
「あっ、早くも研ちゃん、他の子を口説いてるよ。綾、いいの、これ?」
裕香もなかなかだ。
「研ちゃんは、そうゆう人だから。」
と諦め顔で綾が。
綾もやるな。
「へ~、意外に遊び人なんだ。」
とのぞみ。
「うん。ほんとそう。」
と綾。
「ひどいな、それ。」
研二が不満そうに言うが、こういうのを楽しんでいるのがわかる。
研二と綾の件は、漫研内ではちょっとした事件にはなったが、すぐにもとのままに戻った。
10月と言えば、24日が由衣の誕生日だ。
今年もやるだろうな。
俺としては、本当に気持ちはビミョウだ。
行くという以外の選択肢がないのはわかっているけど。
真奈美も呼ばれるだろうな。
真奈美に早く返事を聞いておかないと、と思いながら、何か聞きにくくてズルズルと先延ばしにしてしまった。
ちょっと前に、由衣にそういうのはダメだと説教されたばかりなのに。
「今年も来てくれるよね?」
朝、自転車をこぎながら由衣が。
ずっとこうだから慣れてるけど、だいたい由衣が俺に聞いてくることには主語や目的語がない。
述語がないときさえある。
「で、あのことだけど、どうかな?」
といきなり聞かれて、困るのも日常茶飯事だ。
こんなだから、いつも少しの間、何のことを聞いているんだ?って考えさせられる。
でも今日のは、聞かれた瞬間に少し先の由衣の誕生日会のことだってわかった。
「行くよ。俺はな。」
真奈美が行きたくないと言ったときのことを考えて、最低限の保障はしておく。
「真奈美ちゃんもよ。ね。」
と由衣がお願いモードで誘ってくるが、去年の食事会で真奈美がどう感じたかは聞いていないからわからない。
「それはわからない。真奈美に聞いとく。遠慮するって言ったら、それ以上は誘うなよ。真奈美の気持ちを察してくれよ。」
「わかってる。去年の真奈美ちゃん、ビミョウだったから。」
「だろ。それも全部、お前のせいだからな。」
「何で?何で私のせいなの?」
去年、言ったはずなのに、もう忘れてしまっている。
「前に言っただろ。俺と真奈美が付き合ってるっておじさんとおばさんに先に言ったからだよ。それがなかったら、漫研の仲良し三人組ってことでみんなが楽しめたのに。今年も。」
「あ、そうだった。」
由衣が申し訳なさそうに黙ってしまったから、俺も黙った。
自転車置き場に着く。
スタンドを起こして自転車を停める。
ずっと由衣は黙っている。
教室に向う。
やはり、由衣は何も話さない。
「じゃ。」
と教室の前で。
「うん。」
と答える由衣。
いつものルーティンだが、心がざわついた。
今日は真奈美に聞かないと。
放課後、漫研の活動中、由衣が真奈美を部室の外に連れ出した。
藤棚の下のベンチに2人で座る。
由衣は缶のおしるこを、真奈美はブラックの缶コーヒーを持って。
「真奈美ちゃん、真ちゃんから聞いてると思うけど、私の誕生日のこと。」
「えっ?真ちゃんからは何も聞いてないよ。」
「そうなの?やっぱり。ほんと、ダメだな。・・・で、今年も来てくれないかな・・・。」
断られる可能性が大きいから、遠慮気味に誘う。
「うん。呼んでもらえるんだったら、絶対に行くよ。」
嬉しそうに即答する真奈美。
聞いた瞬間に
「えっ!!ほんと!!」
由衣が飛び上がらんばかりだ。
「うん。由衣ちゃんのお父さんとお母さんと、また話がしたいな。2人ともいい人だし、話しててすっごく楽しかったよ。特に最後のお母さんの話、最高だったね。お母さんの料理も最高に美味しかった。あんな料理、絶対にうちじゃあ食べられないよ。」
「うんうん。」
由衣が嬉しくてたまらなそうだ。
2人が部室に戻ってきた。
いつものように、綾の漫画の指導とアシスタントに付く。
由衣の誕生日の件、解決したようだな。
由衣と真奈美のあの顔を見たら聞くまでもないけど、真奈美の返事、この後の帰りに由衣に一応聞いとくかな。
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