研二と綾
長い間着ていたTシャツがだいぶヨレヨレになって、色も落ちてきた。
俺は、ファッションにはあまり関心がない。
Tシャツなんて、着れれば何でもいい、本当は。
でも、これはな、と感じるくらいになっている。
もちろん、これ一枚しか持っていないわけではないし、もう2枚ある。
でもこれがおシャカニになると、夏に2枚で回すのは厳しい。
どうせなら2枚ほど買っとくか。
今もっているのは綿素材で生地が厚いし、ぜひとも速乾吸汗のものが欲しいし。
ちょうどいい。
真奈美に選んでもらいたいな。
デートも兼ねて、真奈美を誘う。
シルバーウイークの最終日にショッピングモールへ行く約束をした。
当日。
ショッピングモールは、真奈美の家の方向なので、よくわかる場所で待ち合わせしようということになって、駅の前で落ち合うことにした。
自転車で駅に向かう。
駅には、先に真奈美が来ていた。
せっかくだから、真奈美が自分の家の前を通って行こうと言う。
確かに、付き合って一年以上経っているのに、真奈美の家を知らない。
いい機会か、でも・・・。
家族に会ってしまうかもと少し緊張するのがわかったのか
「大丈夫よ。今日は家にはだれもいないから。」
「そう、よかった。ってことは、綾ちゃんも出かけてるんだ。」
「うん。なんか、珍しくワンピなんか着ちゃって、早くに出て行った。」
「へー。デートだったりして。」
「まさか。」
そのときは俺も真奈美もおもしろく言ったつもりだったのだが・・・。
「ここが私んち。」
自転車を停めて、真奈美が指さす。
大きくてモダンな家だな。
いつかは挨拶に行くことになるかな、なんて思う。
真奈美の家からショッピングモールまでは、10分ほど。
エスカレーターで2階へ。
真奈美と話しながら登っていると、エスカレーターで降りてくる人が目に入る。
えっ!となる。
研二と綾だ。
楽しそうに話している。
俺の変化に気づいて真奈美も俺の視線の先に目をやる。
「えっ!」
真奈美が大きな声を上げる。
それを聞いて二人が俺たちに気づく。
「えっ!!」
2人の大きな声が重なる。
慌てる俺たち4人。
そのまますれ違う。
2階に着いてエスカレーターを降りるまで、あまりの衝撃で何も言えなかった。
並んでフロアを歩いているうちに、少し落ち着いてきた。
「なぁ、真奈美。あれ、どう思う?」
「そうなのかな。でも、そんなの聞いたことないよ。さっきはびっくりして、心臓が止まるかと思ったよ。」
「だよな。俺も。」
もうTシャツどころではなくなってしまったが、とりあえず、目的は果たさないと。
ササッと無難な2枚を選んで、ショッピングモールを出る。
また2人と会っては気まずいので、自転車をこいで、だいぶ離れたカフェに入る。
「ほんと、びっくりしたな。2人は付き合っている、でいいよな。」
「おそらく。日曜日に2人で買い物なんて、付き合ってる意外にないよね。」
「いつからだろう。全然わからなかったよ。」
「私も。綾ってそんなの今までもなかったし。でも、私もだから、そんなのわからないよね。」
「うん。俺もだし。でも、明日に部室で会うの気まずいな。俺からは触れないっていうか、触れられないよ。普通にしゃべれるかな。」
「真ちゃんはいいよ。明日まで2人に会うことはないんだから。私は家に帰ったら綾と顔を合わせることになるのよ。どうしよう。」
真奈美が悩ましげだ。
「そうか。何か情報が入ってら、LINEして。」
「もう。本気で悩んでるのに。」
真奈美が恨めしそうに言う。
当り前だが、その後、真奈美からLINEが入ることはなかった。
翌日。
朝早くに真奈美からLINEが入る。
そんなこと、今までなかったのに。
「付き合ってるって」
いきなりかよ。
「そう。昨日綾ちゃんにい聞いたの?」
「聞けるわけないじゃない」
「じゃ、何で?」
「私が黙ってたら、綾の方から言ってきた」
「そうか。いつからとかは?」
「綾が言わないから、私も聞いていない」
「そうなるよな」
「うん」
「あ~今日、部活に行きにくいな。何か用事があるって休もうかな」
「私もだよ。綾だけならいいけど、研ちゃんもいるだろうし」
「綾ちゃんは、研ちゃんに付き合ってるのが俺たちにバレたって言ってるのかな?」
「さあ、どうだろ。おそらく言ってると思うけど。」
インターホンが鳴ったので、この話はこれで終わった。
登校しながら、由衣に昨日のことを話した。
由衣もびっくり。
「綾ちゃんと研ちゃんが!全然わからなかったよ。」
やっぱ、そうだよな。
「今日は部活行きたくないな。」
「だめよ。今日行かなかったら、もっと嫌な雰囲気になるよ。」
由衣に叱られた。
それにしても、その後はソワソワして、全く身が入らない。
授業も何もかも。
そして、終礼が終わり、部活の時間になる。
あー、行きたくない。
漫研に入って以来、こんな気持ちになるの、初めてだ。
今日だけは逃げて帰りたい。
終礼が終わるや否やカバンを持って教室を出ようとする俺を、やっぱり先に終礼が終わった由衣が待ち構えていた。
いつもはこんなことしないのに。
残念だが、さすが、俺のことよくわかってる。
「今日は帰っちゃダメかな?」
「じゃ、明日は?」
由衣が厳しい。
返事ができない。
でも、返事するまで、由衣が黙って俺を見つめる。
「だよな。」
「そうだよ。真ちゃん、いつも面倒なことは先延ばしにするでしょ。それ、もう辞めにしないといけないよ。」
この件と俺の今までの生き方をひとくくりにして説教された。
まるで保護者みたいに。
カッコ悪いが、由衣に叱られて、何か気持ちが前向きになってきた。
そうだな。
いい機会だ。
俺もそうなりたいとずっと思っていた。
俺も変わらないと。
由衣と部室に入る。
研二と綾と真奈美が俺たちを見る。
目が合った瞬間、研二と綾が目をそらした。
気まずい。
とっても。
いつものように、カバンをロッカーの中に入れたら、いつものように評論組での活動に入る。
いつものように研二に尋ねる。
「研ちゃん、読むのある?」
「はい、これお願いします。」
「うん。じゃ、研ちゃん、俺のも読んで。」
「はい。」
研二に評論の原稿を渡して、研二からも受け取る。
読み始めるが、まるで頭に入ってこない。
目で追っているだけ。
これじゃだめだ。
研二もそうみたいだ。
原稿を読みながらも、無意識だろうが、俺をチラ見している。
「研ちゃん、ちょっと出ないか。」
研二を外に誘う。
「はい。」
とだけ答えて研二が立ち上がる。
そんな俺たちを、綾と真奈美と由衣が心配そうに見ている。
黙ったまま、武道場の前の自動販売機に向かう。
研二が後を付いて歩く。
販売機にお金を入れる。
「研ちゃん、押して。」
「あっ、ありがとうございます。」
研二がコーラのボタンをを押す。
俺はコーヒーを。
武道場の前に広がる藤棚の下のベンチに座る。
「それにしても、ビックリしたよな、昨日は。」
その話で連れ出されたとわかっているから、研二は驚かない。
「はい。まさか、先輩たちに合うなんて。」
「だよな。・・・で、いつから?言いたくなければ全然いいけど。」
「いえ。終業式の日からです。」
その日に告ったってことか。
「そうなんだ。じゃ、もう2か月くらいになるのか。全然わからなかったな。」
「はぁ。」
研二が返事に困っているような。
「部ではオープンにするの?」
「綾と相談します。」
部内では、美和や詩織と同じ感じで綾だったが、さっきの研二の口からの綾は特別感があった。
俺の方が意識してどうする。
「そうだな。でも、いずれわかるから、先に言っておくのもいいかもな。俺と真奈美はそうしたけど、それは研ちゃんたちの自由だしな。」
「はい。」
「それにしても、いいだろ、可愛い彼女がいるって。」
「はい。真先輩にやっと追いつきました。評論はまだまだですが。」
研二が冗談めかして笑う。
「いや、評論はとっくに研ちゃんに抜かれてるよ。彼女との関係ももう抜かれてたりして。」
つい悪乗りしてしまった。
「えっ!僕たちまだ何もしてませんよ。」
と真顔で答える研二。
悪かった。
冗談が過ぎたな。
「じゃ、そっちも早く追いつけよ。」
「は?」
俺も大したことはしていないのに。
もういいだろう、こんなバカ話。
「戻ろうか。」
「はい。」
部室に向って歩き出す俺たち。
戻ったら、評論組の活動を再開する。
いつも通りの俺たちを見て、3人が安心していた。
今日の研二との話は、真奈美に聞かれても由衣に聞かれても絶対に言わない。
女子がいたらできない男子トークだから。
この逆バージョンが前にあったな。
結局、何を話したか教えてくれなかったし。
今まで、あいつらに聞いてもごまかされてきたことがいっぱいある。
じゃあ、これくらいいいよな。
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