恩赦
学園祭が終わり、普通の学校生活に戻った。
去年、真奈美や由衣と、部対抗リレーの件で自分たちが有名人になっているんじゃないかって感じるという話をしたが、2年連続で出た俺と由衣は、明らかにそう感じている。
おそらく部長もだろう。
廊下を歩いていても、明らかに視線を感じる。
去年のように「あっ!漫研だ!」と言って指さしてくる人はいないが。
漫研の活動は、まだ暑くて部室が使えないので、由衣と真奈美と綾は由衣の家でほぼ毎日、俺と研二は俺の家で2日おきに活動するのに戻った。
変わったのは、休憩のときに由衣の部屋でお茶を飲ませてもらえるようになったこと。
リレーでまた1位になって新記録も出せたので、真奈美と由衣から恩赦が行われたようだ。
久しぶりに、研二と一緒に由衣の部屋に入る。
話はやはり部対抗リレーのことになる。
「みんな、すごく早かったね。びっくりしたし、見てて気持ちよかったよ。」
と真奈美。
「ああ、そうだよな。部長と由衣のはわかってたけど、一年の3人がすごく速いって思ったよ。50メートル走のタイム以上に。綾ちゃんもだよ。」
「そうですか。」
綾が嬉しそうに微笑む。
「そうですよね。それにまわりの声援がすごくて、360度、漫研ファンって感じでした。」
と研二。
「だったよな。どう、研ちゃん、来年は走ってみないか?気持ちいいよ。」
「はい、走りたいです。来年は出たいです!」
目が輝いている。
今年走った一年生は快感を覚えただろうから、来年も走りたいはず。
そうなると、研二を加えてすでに4名が決定している。
残り2名か。
来年の新入部員のリレーへの競争率が高くなったな。
そうこうしているうちにシルバーウイークがやってきた。
今年のは、ゴールデンウイークと同じで土曜日からきれいに5連休だ。
由衣に言われる前に真奈美とのデートを初日にしたら、3日目はもう中日で、由衣の部屋でまた4人でゲームをして遊ぶことになった。
そして当日。
4人が揃うと
「じゃ~ん。」
由衣がドヤ顔で、手作り感満載のすごろくを広げる。
よくもまあ、こんなものを作ったものだ。
どれだけ時間を掛けたのだろうというほどの力作だが、少々呆れてしまう。
全部のコマにイベントがある。
マイルドなものでは「好きな教科を言う」とか「最近読んだ本や漫画を言う」とか「気になっているニュースを言う」とか。
ハードになると「腕立て伏せを10回する」とか「推しの名前を言ってそのまねをする」とか「中三でクラスの中でタイプだった子の名前を言う」とか。
同じコマが何回も出てくるが、他にも、止まってしまったら大変なのが目白押しだ。
みんながイベントに目を通していくうちに驚愕している中、「じゃ」と由衣の一言で容赦なくすごろくが始まった。
最初の俺がさいころを振ろうとすると
「ちょっと待って。せっかくだから2周してゴールしよう。いいよね。」
と由衣が言い出した。
1周でも十分におそろしいのに2周もか?
でも作った由衣の労力を考えると、だれも異を唱えられない。
すごろくが始まる。
覚悟はしていたが、やはり大変な展開になっていった。
俺が早くも2回目のさいころで「中三でクラスの中でタイプだった子」のマスに止まってしまった。
「そんなの名前を聞かされれもわからないよね、綾。」
「うん。」
確かに中学校が違う小林姉妹にとっては言われてもわからないな。
「そうだった。私が聞きたくって作ったんだけど、確かにそうよね。どうしよう。・・・だったらどんな子だったか、私が説明してあげるね。」
と由衣が。
自分が聞きたいから作ったって何だ?
自分も止まったら言わないといけないことをわかっているのか?
それに、由衣の主観で説明されてはたまらない。
でも
「うん。そうして。」
と姉妹は期待している。
「で、だれ?」
由衣がせかしてくる。
好きな子がいた。
とっても好きな子が。
ただそれだけだったけど。
「もーそんな前のこと、覚えてねーよ。」
困った顔で答える。
これでゆるしてくれないかな。
「真ちゃん、私を騙せると思ってるの?」
やっぱりそうか。
「目が、その頃を思い出してハート型になってるよ。」
そこまで言わなくても。
「で、だれ?」
言うまでその攻撃が続きそうだ。
仕方ない。
「三浦・・・由利。」
「え~。」
由衣が、それはそれは意外だと楽しそうだ。
「で、その子、どんな子?」
真奈美が、冷静を装いながらも心中穏やかでないのがわかる。
「そうね、一言で言って真面目な子。頭もよかったから高校は朝日高に行ったよ。」
「そう、他には?」
真奈美はそっちの方が気になっているのがわかる。
「小学校も同じだったからよく知ってるし、優しくって気さくに話せる子で女子に人気があったって思うな。・・・どちらかって言うと男子には・・・。」
「そう。」
と真奈美が答えるが、そんなのでその子のことがわかるはずがない。
何か後味が悪いが、ゲームが再開される。
綾が腕立て伏せをする。
真奈美が腹筋をする。
俺は、推しを聞かれて「マイちゃん」と言ったら3人に嫌な顔をされた。
何で綾にまで?
由衣は無難なコマばかりに止まっていた。
面白くない。
みんなが2周目のゴールに迫った頃、ついに真奈美が「中三でクラスの中でタイプだった子」のマスに止まってしまった。
「名前は?」
と由衣。
「言ってもわからないでしょ。」
と真奈美が抵抗する。
「言うことになってるだろ。俺も言ったし。」
真奈美が観念して
「中田達也君。」
「えっ!」
綾が驚く。
「綾ちゃん、知ってる人?」
俺が尋ねる。
「はい。卓球部の先輩です。」
そうか。
なら、よく知ってるな。
「で、どんな人?」
「綾、お願いだから、それ以上言わないで。」
真奈美が人目もはばからず綾に懇願している。
板挟みになって綾が困っている。
はっと、我に帰る俺。
聞いたところで、本当のところは何もわからない。
それよりも、こんなことで姉妹の仲が悪くなるなんてことがあっては大変だ。
「いいよ。由衣もいいよな。」
うなずく由衣。
真奈美も綾もホッとする。
「うん。真奈美が好きになった人ならきっといい人なんだろうな。」
言った後、何を言っているんだ、俺!
顔から火を噴きそうになる。
「あ、いや。そ、そう意味じゃなくて。」
はげしく動揺してしまう。
だれもその場を収集することができなくて、気まずい空気が流れ続ける。
綾が静かに
「とってもいい人でした。優しくって、卓球も強くて。私もいっぱい教えてもらいました。」
ありがとう、綾ちゃん。
これでこの場は収まりそうだ。
真奈美も伏目勝ちに嬉しそうにに微笑んだ。
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