↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
69/73

部対抗リレー

今日は体育祭だ。

そして、もうすぐ部対抗リレーだ。

俺は、今日はこれのためだけに学校に来ているようなものだ。

おそらくチームマンケンで走るのは今回が最後になるだろう。

もしも来年も走るってことになったら・・・。

いや、そんなことは絶対にないはずだ。

来年もたくさんの新入部員が入って、部から引退している俺たちを、無事にリレーからも引退させてくれているはずだ。


時間が近付いてきたので入場門の方へ向かうと、詩織と綾とのぞみの3人が、楽しそうに話しながら歩いて来るのが目に入った。

えっ、マジか?

あれほど嫌そうにしていたのに、すでにハチマキを巻いている。

「漫研」の二文字が入ったハチマキを。


俺でも、みんなで集まったら巻こうと思ってたのに。

いつからどこから巻いていたのかは知らないけど、漫研のいい宣伝になったはずだ。

どこか誇らしげで、みんなよく似合っている。


入場門近くで俺に気付いて3人が寄ってくる。


「緊張してない?」

と聞くと

「はい。全然してないです。」

と微笑む綾。

「早く走りたいです。」

のぞみも楽しそうだ。

「絶対に新記録出したいです。いえ、出します。」

と詩織が自信たっぷりに言い切る。

去年は緊張したり嫌がってたりしていたのが半分ほどいたが、今年は大違いだ。


ほどなく部長と由衣がやってきた。

「早いね。気合入ってるね。」

と部長がハチマキを巻きながら一年生に声を掛ける。

「そうだろ。この子達な、ここにハチマキ巻いて来たんだぜ。気合入ってるだろ。」

と、俺もハチマキを巻きながら、見たままをおもしろく言うと

「えっ!」

「巻いて来たの?」

と驚く二人。

何が?と、不思議そうな顔をする一年生たち。


「どう?ハチマキは。」

由衣が尋ねると

「いいです。すごくいいです。私、漫研です。」

詩織が興奮気味に答える。

他の2人も大きくうなずいている。

だから言っただろ、巻いたらわかるって。


指示が出され、整列する。

隣には、去年は参加していなかった生物部が全員が白衣を着て並んでいる。

好きにしてくれ。

そして入場。


運動部の前に文化部の戦いがある。

入場して一走以外が座る。

各部の一走がスタートラインに向って歩き出すや否や周りから声が飛んできた。

「マンケン、今年も新記録出せよ!」

「赤い弾丸、期待してるぞ!」

他にもたくさんの元気をもらった。


一走がラインの前に並ぶ。

我がチームマンケンの不動の一走は部長。

俺の近くからも

「あの子、去年、遅れてスタートして、みんなを抜いていったよね。」

「そう。めちゃくちゃに速かったね。」

やっぱりあれはすごかったんだな。


各部から放送部に渡されていた紹介文が読み上げられる。

「・・・しています。一瞬を永遠に残しませんか。写真部はあなたを待っています』。続いて第5レーンは漫画研究同好会です。『皆様のご期待に応えるべく、すごい新戦力を加えて、赤い弾丸ことチームマンケンが帰って参りました。漫画に懸けるこの熱い思いをパワーに変えて走りぬきます。ズバリ、新記録、狙います。』

放送部が俺たちの気持ちを汲み取って上手く読んでくれる。

ワーとまたもや歓声が上がる。

由衣と萌が楽しそうにこれを作るのが思い浮かんでほっこりした。

力みなく走れそうだ。


前部長や副部長、そして走らない部員が集まっての応援団が、バトンゾーンの近くに陣取って、大きな声援を送ってくれる。

その声援が背中を押してくれる。


位置について、用意、ピストルが鳴る。

わかっていたことだが、始めから全力で走る部長についていける者なんているはずがない。

「今年もすげーな、あの子。」

「ほんと、速いね。」

2,3年の多くは、わかってていたことなのだろう。

驚きがない分、物足りない。


バトンゾーンに近づいたころには、すでに後ろの集団を大きく引き離していた。

バトンを待つ二走の詩織を見て

「あの子、かわいいな。」

「うん。一年だよな。何組だろ。」

なんて声が聞こえる。

かわいいだけじゃないぞ。

走りの方を見て腰を抜かすなよ。


バトンを受け取った詩織が走り出す。

速い!

これって、由衣より速いんじゃね。

「速っ!あの子速いな。」

「うん。速い。」

だろ。


続いて三走ののぞみにバトンが

「え!この子も速い。」

「漫研、漫画がどうとかってより脚の速い子を集めてるんじゃない?」

冗談だろうけど、このメンバーはそう思われても仕方がないな。


そしてバトンは四走の綾に。

綾がトップスピードに乗る。

「漫研、すげーぞ、無敵だな。」

「行けるとこまで行ってくれ!」

もう驚く声は聞こえない。

応援に変わっている。


一番遅い部の背中が見えている。

いくらみんなが本気で走っているとはいえ、これっていいのか?

でも、ここで手加減をしたら他の部のみんなに申し訳ない。

もちろん、俺はそんな気などない。

始めは気持ちを静めていたのに、バトンが近付いてきたら気持ちが昂ってきた。

バトンを受け取る。

「ウオー!」

興奮のあまり叫びながら走り出してしまった。

そのまま全力で走り続ける。


応援する真奈美の後ろで

「飯島さんが文化部で走るなんて反則だよ。」

「知ってる人?」

「うん。中学の野球部の先輩。部でも走るの一番か二番だったもんな。ほんと、大人げないな。」

チラッと振り向くと、坊主頭の一年生らしい子が2人で話している。

『おとなげない』か。

言われてみたらそうかな。

あんなに一生懸命になっちゃって。

真奈美がクスっと笑った。


そんなこと露知らず、さらにターボが掛かる俺。

バトンゾーンで由衣が待っている。

去年のリレーでもそうだったな。

「いっけー由衣!」

またもや無言でコクリと由衣がうなずく。

最後のバトンを由衣に渡す。

まさに、最後のバトンを。

俺からのバトンを受け取った由衣が走り出す。


苦しいけど顔を上げて由衣の走りを見る。

何年も由衣のきれいなフォームを見てきたが、これが最後になるから。


一周遅れの選手を追い越して、由衣がゴールする。

右手でバトンを高々と上げて、テープを切る。

その瞬間、オー!と大歓声に包まれる。

まだ他の部が走っているのに。

俺たちの方が気を遣ってしまう。

今年は、隠し玉のESSが2位に、珠算・電卓同好会が3位に入った。


その後の運動部の男子の部では、昨年同様、陸上部と野球部の一騎打ちとなったが、今年も何とか陸上部が勝利を収めた。

柔道部の参加はなかった。

続いて行われた女子の部では、やはり陸上部の独壇場になったが、2位争いは途中まで頭一つ抜けて、バレー部とソフトボール部の闘いとなった。

最後は大きく差をつけてバレー部が2位に入った。

懲りもせずに、今年も剣道部が参加していた。


運動部女子の部が終わって、全体がザワザワし始めた。

応援団のそばでも

「今年もよね。漫研。」

「ああ、間違いないな。去年よりずっと速いもん。」

と言った囁きが聞こえる。


「あー、ドキドキする。」

と前副部長。

「ほんと、そうですよね。」

と咲良。

「咲良ちゃん、走らなくてよかったの?」

と前部長がイタズラっぽく聞くと

「はい。私も年ですので、後進に道を譲りました。」


校内のみんなが次の放送を待っている。

『お待たせしました。ここで新記録のお知らせをします。』

お待たせしましたか。

放送部も楽しんでいるようだな。

去年は、ここでシーンと静まり返ったが、今年は違う。

「キター!」

「待ってましたー!」

しばらく収まらない。

少し静かになるのを待って

『先程の文化部の部対抗リレーでの漫画研究同好会のタイムは〇分○秒で、過去の最高記録を12秒更新しました。新記録です。」


その瞬間にまたもや大歓声に包まれる。

「やってくれたな!」

「やっぱスゲーや、漫研!」

「期待以上の走りだったぞ!」

俺達も立ち上がって声援に応える。

手を振ったり、両手でVサインやガッツポーズなど、みんなが好きに応えている。


真奈美の後ろからまた声が聞こえる。

「それにしても漫研、かわいい子ばっかじゃね?」

「絶対に顔採用してるよな。」

「うん、俺も思った。絶対そうだな。」

『顔採用』って何?

会社の採用じゃあるまいし。

入部にそもそも採用も不採用もありません。


退場の指示に従って、立ち上がる。

退場門を出て解散になったので、一年生に聞いてみた。

「どうだった?」

顔を上気させて、のぞみが

「すっごく楽しかったです。本当に出てよかったです。」

興奮冷めやらぬと言った感じだ。

続いて、綾が

「本気で走って気持ちよかったです。」

爽やかに答える。

「狙ってましたけど、本当に新記録出したんですよね、私たち。」

あんなに自信たっぷりだった詩織が、まだ信じられないみたいだ。


応援団のみんながやって来た。

前部長が

「すごいね、2年連続で新記録なんて。ほんと、ほんとにすごい!」

一番興奮している。

「やると思ってたけど、ほんとにやるなんて。それにしてもみんながみんな、あんなに早いなんて、ビックリしたよ。」

と前副部長が。

残りの一年生も二年生も、口々に声をかけてくれる。

その後、しばらく話をするが、あの約束の話が前部長から一向に出る気配がない。

引退式の日に自分から言い出したのに。

だから俺、あんなに頑張ったのに。


しびれを切らして、言ってしまった。

「志保先輩。新記録出したんですけど、約束のハグはないんですか?」

「えっ。」

と前部長が驚く。

その瞬間に、真奈美と由衣に思いっきり足を踏まれた。


反省だけならサルでもできるはずなのに。

サル以下か?

じゃ、俺は何なんだ?

ご覧いただきまして、ありがとうございます。


毎週、日曜日に新しいエピソードを加えさせていただいています。よろしければ、また、おいでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。