俺たちの代の文化祭〈前編〉
今日は2学期の始業式。
例年通りに来週の火曜日が文化祭でその翌日が体育祭だ。
漫研は活動場所はないし、前日の準備の時間まで特にやることがないので、この一週間は自由活動になる。
昨日、一昨日と土日にもかかわらず活動したので休養にちょうどいい。
その分、クラスの準備のラストスパートに全力投球だ。
あっという間に文化祭の前日になった。
クラスの準備が終わり、漫研の準備に向かう。
漫研の展示会場は今年も多目的教室。
「漫研マニュアル」に基づいて、部長の指示の下、準備が始まる。
多目的教室は、去年に初めてあてがわれたと聞いていたが、前部長が設営の記録をマニュアルに追加してくれていたから、スムーズに準備が進められそうだ。
俺達も行事があるごとにきちんと記録に残して、引退の前までに、今年変えて評価できる点や反省点、さらなる改善点などを提案できるようにしておかないと。
まずは、各自で作った発表の模造紙を壁に貼る。
みんなが貼り終わったら、部長が
「みんなの発表が見たいな。私は、今見たくてたまらない。みんなはどう思う?」
部長らしくないわがままっぽさだが、みんなの気持ちを察してのことだろう。
俺もその気持ちでいっぱいだったが、みんながどう思っているのがかわからないから我慢していた。
部長がお望みなら、遠慮なく
「この後のことは去年と変わらないから、終わるまでにそんなに時間は掛からないだろ。人数も多いし、去年よりもっと早く終わるよ。なら俺も今、見たいな。」
「私もです。すごく見たくてたまりません。」
と裕香が気持ちがはやっているのが見ていてわかる。
他の部員もそうみたいだ。
発表のものと部員の数が同じだから、適当に散らばって見ることになると、見ていないものが重なったりして効率が悪い。
副部長の提案で、一旦、みんながどれかの発表の前に立って、その後は時間を区切って、ベルトコンベア式に流れることにした。
発表を味わうのに十分な時間がとられて、時間がきたら一斉に次にズレる。
楽しい、とっても。
来年、今の一年生の代になってこれがされたら、新しい伝統になるかも。
その後は、当たり前のことだが、上級生も下級生もなく、みんなですべての準備をした。
明日への準備が滞りなく終わった。
そして、ついに来た。
俺たちの代の文化祭当日が。
期待が膨らみ気合が入る。
朝、一緒に登校しながら、由衣もいつもとは違っていた。
いつも聞かされる、昨日の自分の家であったことなどは一切言わない。
今日までの漫研の活動での苦しかったことや、それ以上に嬉しかったことを話し続ける。
俺はいつもと同じで聞き続ける。
由衣は、しきりに、たくさんの人に漫研の発表を見に来て欲しいな、たくさんの人に部誌を読んでもらいたいなと言っていた。
俺ももちろんそう思っている。
全部の部誌がハケるくらいに、お客に来て欲しい。
今年は、クラスの当番は一番後ろにさせて欲しいと頼んだら、あっさりとそうしてもらえた。
まあ、普通はだれもが早く終わらせて自由の身になりたいだろうから。
漫研では、ジャンケンの強い俺は、最初の受け付けの当番を勝ち取っている。
香月先輩がOGとしていつ来てくれてもいいように。
まさか、朝一に来ることはないだろう。
おそらくは、昼食前の時間か、昼食後の時間じゃないかな。
それまでに真奈美とひと通り他の展示を見て回らないと。
いつもはジャンケンが弱い真奈美だが、今回は異常に強く、俺の後の当番を勝ち取っている。
これで、真奈美の当番が終わったら、ゆっくりと2人で見て回れる。
げに愛の力はすごい。
恥ずかしいが。
朝の早い時間はあまりお客は来ない。
まだ10人もに来てくれていない。
退屈であくびをしていたら、暑苦しい男4人組が入ってきた。
「よ~真ちゃん、漫研、見に来たよ。」
崎本、薬師寺、村田に宮迫。
みんなきれいに別のクラスになったはずだから、途中で偶然会ったってことはないはず。
あーわかった。
これは計画的犯行だ。
その目的のために集まったな。
「本当に漫研を見に来たのか?」
ちょとからかってみる。
「そ、そうに決まってるだろ。」
慌てる薬師寺。
やっぱ、こいつが一番わかりやすい。
「ホントのこと言えよ。見に来たのは別のものだろ?」
もっとツッコんでやる。
「わかったって。」
わかってるんならもうそれ以上言うなよとばかりに、片目をつむる村田。
ほとんどの部員が何かやっている中、タイミングバッチリ、前の客が去った後、由衣が教室の中央に配置した机にいすを入れて回っているところだった。
その机の上のいくつかに芳名帳がある。
こいつらとは気心知れた仲だ。
特別サービスをしてやろう。
「由衣。」
びくっとなるやつら。
「何?真ちゃん。」
由衣が近づいてくる。
「えっ。」
そんなことありなのと言わんばかりの村田。
「こいつらを芳名帳の方に案内してくれないか。」
「うん。いらっしゃいませ。」
微笑む由衣に
「あ、い、いらっしゃいました。」
真っ赤になって訳がわからなくなっている宮迫。
由衣がクスっと笑う。
その笑顔にデレ~となる3人。
わかりやすすぎる。
「こちらにどうぞ。芳名帳にご記入いただけますか?」
由衣が芳名帳への記入を促すが、誰から書くか互いに様子を伺っている。
「じゃあ、崎本君から書いて。」
と由衣が。
「由衣、崎本を知ってるのか?」
「うん。去年、同じ委員会だったから。学年ごとに集まっていろいろ企画を考えたりして、何度も話し合ったりしてたからみんな知ってるよ。」
「そ、そうなの!」
崎本が嬉しいのを隠さない。
周りの3人の目がきつくなっているのなんてまるで気が付いていない。
4人が書き終わると
「ごゆっくりご覧ください。」
と、また営業用スマイルになる由衣。
4人が散って、発表を見始めるが、やはりだれもが由衣のを見る時間はあきらかに長い。
俺のなんて、立ち止まるかどうかというレベルだ。
腹が立ってきた。
もう、絶対に来年は便宜なんてはかってやらないからな。
来年の文化祭では俺たちはとっくに引退しているが、ここに入り浸る気まんまんの俺。
おそらく二年生のみんなもそうなるんじゃないのかな。
教室の中央にある机といすは休憩のスペースでもある。
少し大人になって
「休んでいけよ。」
と俺が気を利かせる。
「いいのか?」
とか言いながらもうみんなが座りかけている。
「ああ、そのために来たんだろ。」
4人でとりとめのない話をしたり、部誌をペラペラと捲ったり、教室を見回すふりをしながら、みんなが由衣をチラ見している。
真奈美が寄ってきて、俺の耳元で囁く。
「あれ、絶対由衣ちゃんにバレてるよ。」
「だよな。」
俺も呆れながら返事をする。
結局その後も20分ほどねばって、名残り惜しそうにやつらは出て行った。
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