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顧問

昨日は土曜日だったので最終下校時刻はなかったのだが、先生に長く付き合ってもらうのが悪くて、ほどほどで切り上げた。

今日で完成までいかないといけないので、遅くなるかもしれない。

でもやはりそうならないようにしないと。


昨日、由衣と話して、今朝は集合時間よりだいぶ早く登校した。

部活でたくさんの生徒が来るから、昇降口は早くから開いているだろうから。

視聴覚教室の鍵を借りに職員室に入る。

顧問の先生がまだ来ていなかったので、他の先生にエアコンのお願いをして、鍵を受け取ったらすぐに視聴覚教室に向かう。


入ったらすぐに昨日の続きから折り始める。

少しして部長と副部長が入ってきた。

「あー涼しい。真ちゃんと由衣ちゃんは早く来たの?」

と副部長。

「ん~15分前くらいかな。」

と俺。

「へー、そうなの。ここを開けて冷やしてくれてたんだ。」

「うん。みんながすぐに始められるようにね。」

と由衣。

「私たちもそう思って早く来たんだけど。ありがとう。」

嬉しそうに部長が言った。


一人、また一人と加わって、集合時間の前には全員が揃った。

長い一日が始まった。


誰も何も言葉を発することなく、黙々と折る。

一時間以上経ったがだれも休もうとしない。


「適当に休憩をとってよ。水分もね。」

と部長がみんな言うが、だれもいっこうに休憩を取ろうとしない。

こんな雰囲気の中では休めないな。


見かねた部長が

「じゃ、今から少し休憩しよう。」

みんなに呼びかける。

手を止めて、フーと深い息を吐いた。


「お姉ちゃん、私、指紋が無くなりそう。」

と綾が真奈美に。

「そうね。悪いことするのなら今よね。」

なんておもしろく返す真奈美。

「それにしても、これ、体力いるわ。これ終ったら体力ついてそう。腕、太くなってないかな?」

と萌が。

やめておけばいいのに、ちょっと萌をからかいたくなって

「それ以上は太くなりようがないよ。」

と俺が返すと

「それ、どういう意味!」

萌が睨んできた。

やばい。

萌だけは怒らせてはいけなかったのに。

部長が割って入って

「まあまあ。でもそれってまさに厳しい練習に耐え抜いたチームマンケンならではよね。」

言いながら笑い出す部長。

「あ、それって去年のリレーのときの。面白かったね、あれ。」

と一変して楽しそうに笑う萌。

「最高だったな、赤いハチマキ渡されてな。で、赤い弾丸って。」

俺もつい吹き出してしまった。

一年生は、紹介分のことを知らないから、俺が簡単に説明した。

「今年はだれが紹介文書くの?」

と部長。

「書きたい人。」

すかさず副部長が尋ねる。

すっかり副部長職が板についている。

萌と由衣が手を挙げた。

一応、みんなの拍手承認を得て決まりだ。

「今年のも期待してよ。」

自信たっぷりの萌。

「赤い弾丸は絶対に入れないとね。」

と由衣。


作業が再開される。

やがて昼になり、昼食休憩に。


ワイワイとしゃべりながら昼食を食べていると、コンコンと扉がノックされ、先生が入ってきた。

手には何か入ったレジ袋が。

「どうだ?はかどっているか?」

「はい。あと1時間くらいで折り上がると思います。その後の綴じは2時間くらいで終わると思います。」

部長が答える。

「そうか。いい感じだな。これ、食後のデザートに食べてくれ。」

カップのアイスを差し入れてくれた。

先生には土日と休日出勤をしてもらって、俺たちの方がお礼をしないといけないのに。

「先生、ありがとうございます。」

部長がきりっとした態度でお礼を言うと、みんなもさっと姿勢を正し

「ありがとうございます。」

11人の声が重なる。

これって、もう習慣になっている。


高校は中学と違って、先生との距離がかなり遠い。

進学校では、先生は勉強のことだけで俺たち接している感じが否めない。

学校としては進学の実績が必要なのはわかる。

どの先生も学力を上げようと煽ってくるばかりだ。

この学年は今までの中でかなりレベルが低いなんて言う先生さえいる。

俺たちの方も先生に望んでいることは何もないかもしれない。

10年、20年、30年と経ったら、高校の先生のことなんてことさら忘れてしまうだろうな。

でも思う。

この先生だけは忘れないだろうと。

先生たちは忙しいからなかなか部活に関わるのは難しいだろう。

特に経験がなくて指導できない部の顧問になってしまったら。

俺たちはそんなこと、全然恨んでいないし、むしろ顧問をしてくれていることに感謝している。

以前に友達が「顧問はこんもん」なんて言っていた。

確かに日ごろはこんもんだ。

でも、勝手な思い込みだけど、この先生は漫研をかわいいと思ってくれているんじゃないかな。


午後の作業が再開され、部長が言っていた通りに2時間半ほどで折り上がった。

この後は綴じ合せだ。

折るのも大変だったが、今年は二分冊だから、単純に考えても綴じるのも去年の2倍の量がある。

気合を入れ直して作業に入る。


上巻が綴じ上がり、下巻に入る。

取っていく紙を重ねながら、ふと、この作業もこれで最後になるんだな。

柄にもなくセンチメンタルな気分になった。


「このページ、これが最後でもうないです。」

と詩織が。

ということは詩織のが最後の一冊だ。

去年と同じく、それを部長が受け取り、揃えて巨大ホチキスで留めていく。

そして、最後の一押しはみんなで。

部長の手の上にみんなの手が重なり

「それではみなさん、お疲れ様でした。」

「お疲れ様でした~。」

ガチャ。


ワーと歓喜の声が上がる。

自分の代の部誌が完成した。

去年よりも感動する。

一年生たちも目を潤ませ、喜びを分かち合っている。


部長が部誌の右隅にナンバーを書き入れる。

今年は部員用のは12までが入れられた。

去年は8までだった。

二桁のナンバーが振れるなんて。


去年、前部長がしてくれたように、一年生からクラス順に渡す。

ナンバー1を詩織が受け取る。

ナンバー6までの部誌が一年生に手渡された。

続いて二年生にもクラス順に。

そして最後に副部長から部長にナンバー12が。


今日の締めに部長からの話があり、活動が終わったら、最後に、先生に終わったことを報告に行かないと。

「ちょっと待って。」

部長が部誌にナンバーを書き入れる。

先生への部誌のナンバーはもちろん13。

このナンバーの意味をわかってもらえることはないだろうが、俺たちの気持ちと一緒に、それを受け取ってもらいたい。


紙袋に上下巻を入れて、その下にお礼の缶コーヒーを1本忍ばせる。

すぐにバレて先生に気を遣わせてはいけないので、部誌とコーヒーの間に紙をはさんで隠す。

またもや先生に廊下に出てもらって、報告とお礼を言う。


「先生、ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

いつもの声でお礼を言う。

「ご苦労さん。前々から思ってたけど、今年は今までと違うな。何か、部活っぽいな。いや、前から部活だけど。なんか、張りがあるっていうか、締まってるって言うか。そういうの、俺好きだから。何ができるかわからないけど、何かあったら言ってくれよな。」

「はい。先生、できあがったばかりの部誌です。よろしかったら、読んでください。」

「いいのか?ありがとう。家でゆっくりと読ませてもらうよ。」

先生と漫研の距離がぐっと近付いた。


明日が始業式だから、今日で視聴覚教室は明け渡さなくてはいけない。

暑さに弱い漫研を優しく見守ってくれた視聴覚教室に、ありがとうの感謝を込めて念入りに掃除をする。

隅々まで掃いて、机も拭く。

ゴミ箱も空にする。

掃除が終わると解散になった。


帰る前に、部誌をカバンから出して、もう一度表紙を見る。

俺が受け取った部誌のナンバーは10。

二桁のナンバーを貰えるなんてとても感慨深い。

来年も二桁のナンバーの部誌が今の一年生のだれかに渡るように願う。

そのときには漫研は漫画研究同好会から漫画研究部になっているはずだ。

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