部誌の印刷と・・・
学校閉庁日が終わり、補習も再開され、俺たちの活動もまた始まった。
月曜日に真奈美から副部長に原稿が渡され、翌火曜日に部長に渡された。
そうして原稿チェックが終わり、各自に赤が入った原稿が返された。
俺のにはもちろん赤は入っているが、去年のように真っ赤ではない。
むしろ、寂しいくらいに少ない。
これなら、今日直して明日提出したら通るだろう。
去年は2度直したっけ。
2度目は、由衣と真奈美で・・・やめよう。
本当に黒歴史だ。
その後、みんなが直した原稿に、無事に部長と副部長からOKがでた。
ということは、去年の俺っていったい何だったんだろうな?
考えても仕方がないから考えないことにした。
予備日にとっていた1日が不要になってしまったが、それはむしろいいことだ。
のんびりと宿題でもしたらいい。
明けて今日は印刷と綴じ合わせの一日目。
土曜部に部活動で登校なんて、入学以来初めてだ。
集合時間をかなり早くしたのに、すでにみんなが昇降口に集まっている。
少しして先生が来た。
「悪い悪い、遅れてしまったな。」
お願いしていた時間より5分ほど早いから全然悪くない。
先生が職員専用の入り口から入って間もなく、ウインウインと昇降口のシャッターが上がっていく。
俺達は、視聴覚教室へ。
先生から鍵を受け取ってきた部長が教室を開けてみんなで入る。
暑い。
エアコンが動いている音は聞こえるが、冷えるまではしばらく蒸し風呂だ。
原稿が入った箱をもって、今年の印刷担当の俺と美和で印刷室に向かう。
去年に比べて、あきらかに原稿が多い。
去年は部員が8人だったが、今年は12人だ。
3人娘もイラストを2ページ分描いているし、俺も評論を2作書いている。
由衣と真奈美の漫画も去年よりページ数が多い。
これは折るのが大変そうだ。
印刷室には先生がいないと入れないことになっているので、先生に立ち合いをお願いする。
原稿をセットして、製版をして、印刷を始める。
裏面の印刷が終りかけたので
「美和ちゃん、俺、取りに来るように言ってくる。」
と言って印刷室を出ようとすると
「飯島、ケータイ使っていいぞ。ただし、こっそりとな。」
と先生が片目をつむる。
こっそりも何も、職員室にも印刷室にも俺たちと先生しかいない。
でも言われた通りに、こっそりとLINEを送る。
ほどなく、段ボール箱をもって副部長と裕香がやってきた。
手際よく詰め込んで戻っていく。
ここから視聴覚教室では無限の折り作業だな。
俺たちは次の原稿をセットする。
俺達についているのが仕事で、やることがない先生は、印刷が終わった原稿を見ている。
たまに「ほー、上手いじゃないか」とか「さすが毎日やってるだけのことはあるな」とか、独り言のように言っている。
「かわいいな。いいいな、こんな子。」
なんて言ってもいたが、聞こえないふりをしてあげる。
やがて、全ての印刷が終わる。
「先生、ありがとうございました。」
お礼を言って、美和と視聴覚教室に戻る。
戻ると、部長が
「真ちゃん、美和ちゃん、印刷お疲れ様。今年のは上巻下巻だからすごい量ね。」
一冊では巨大ホチキスでも針が通らないから、今年は二分冊になってしまった。
本当に明日で綴じ合わせまで終わるのだろうか?
いや、何が何でも終わらせないと。
折り作業に加わる。
折り続けるうちに、また、気持ちが昂ってくる。
去年のこのときを思い出す。
二年生を見るとみんなそうみたいで、萌はもう目が潤んでいる。
やはり、去年みたいに口火を切るのは部長だろ。
みんなもそれを待っている。
いいころあいに部長が
「去年、志保先輩が言ったの、今、本当の意味がわかったよ。ほんと、私、好きなんだな、漫研が、漫研の活動が、漫研のみんなが。うれしいな。漫研に入ってみんなと出合えて、一緒に漫研やれて。」
続いて二年生が思いを伝える。
萌は去年と同じで、話しながら泣き始めた。
全員が言わなければいけないわけではないが、前の者が話し終えたらすぐに次の者が話し始める。
だれもがみんなに伝えたい思いがある。
最後に俺が話して二年生が話し終えた。
しばらくして、美和が
「私、入って最初の日に言いましたけど、漫研に入りたかったんですけど、部の雰囲気が心配で。もう、吹奏のようなギスギスした関係で毎日部活するのっていやだって思ってたんです。でも、先輩たちが話してくれた漫研の活動が楽しそうで、私たちが入るのを待ってくれているのが嬉しくて・・・入って本当によかったです。」
あの美和が泣きだすなんて。
綾が続く。
「私、中学のときからお姉ちゃんから、漫研のことや先輩たちのことを聞くことがあって、でもそのころは卓球に一生懸命で、へーそうなのって感じでした。でも、部を引退して、これからのことを考えるようになったら、そういう高校生活もいいかなって思い始めて。そうなったら、どんどん先輩たちに教えてもらいながら漫研で活動する毎日が妄想のように膨らんでいって、そんな日々にあこがれるようになったんです。本当に楽しそうで、でも楽しいだけじゃないってことも、漫画を描いてるお姉ちゃんを見て知ってました。半泣きになってたこともよくありましたから。だからこそいいなって。本気でやれそうって思いました。お姉ちゃんには言ったことはないけど、本当は、受験する前から、受かったら漫研に入るんだって決めてました。」
「えっ!そんな前から!」
と驚く真奈美。
「うん。だから、受験勉強も頑張りました。何が何でも絶対に合格してここの漫研に入るんだって。だから、そうなって、今、私・・・とっても幸せです。」
次に研二が。
「僕、高校でも科学部でアカデミックな活動をしたいなって思っていたんです。でも、生物部しかなくって、他の部は考えてなかったんで、もう、部には入らなくてくていいかなって思っていたんです。でも、今になって思ってもなんでだかわからないんですけど、すごく惹かれて漫研に入りました。これって絶対に運命だと思っています。生まれる前からの。毎日が熱くって・・・。」
次の言葉を探しているようだが、がなかなか出てこない。
だいぶ間が空いて
「たまりません!」
そうか。
研二の熱い思い、しっかりと受け止めたよ。
その後に詩織が、そして裕香が続く。
最後にのぞみが
「こんな話をしても仕方がないんですけど、少し聞いてください。私がバスケ部を辞めたのは、自分に実力がないことがわかったからです。中学ではレギュラーでしたけど、高校ではみんな上手くて、とてもかなわないし、来年もすごい一年生が入ってくるんだろうなって思ったら、もう試合に出ることはないんだろうなって思って。バスケが好きならそれでも続けるんでしょうけど、モチベーションが下がった中で、試合で使ってもらえないのに厳しくて長い練習をすることができなくなってやめたんです。」
そうか。
そんな理由があったあのか。
部活動なんてやりたいやつがやればいいんだから、もう続けられないなと思ったら、遠慮なくやめたらいい。
俺も中学でレギュラーになれないままに三年生になったが、なんか、惰性で続けたような気がする。
向上心もないままに。
それなら、早く決断したことはむしろいいことじゃないか。
そして、新しいやりがいのあることを見つけて頑張っているじゃないか。
のぞみが続ける。
「私、欲張りなんで、イラストも評論もやりたいんです。でもどっちもぜんぜん上手くならなくって。それでも、先輩たちが少しでもいいところがあったら褒めてくれて、すごく時間をとって教えてくれて。今までそんな先輩いなかったから。なんで、そんなに・・・。」
のぞみが感極まって、言葉に詰まる。
涙が止めどなく頬を伝う。
言いたいことはわかっている。
何で?と聞かれたら、それは、俺たちが漫研の先輩だからとしか答えようがない。
そして、君たちが上級生になって後輩にそう聞かれたら、「私たちもそうしてもらったから」というのも添えてもらえたら嬉しいな。
それが漫研の新しい伝統になっていったらな。
「他に言いたいことがある人、いるかな。」
部長が明るくみんなに。
みんながさわやかな笑顔で部長を見る。
「じゃ、作業再開だ。」
7割ほど折り上がったくらいで、いい時間になった。
先生にもこれ以上付き合ってもらうのは申し訳ないなと思っていたら、部長から今日はここまでにしようという指示が出た。
明日は長い一日になるんだろうな。
ひたすら折り続けて、それが終ったら綴じ合わせでグルグル取って回って。
おそらく完成は夕方になるだろうな。
俺たちに二年生にとっては、この作業も明日が最後だ。
折るのも綴じるのも、明日は思いっきり楽しもう。




