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水着のポスター

研二が来た。

というより、俺の家を知らないから待ち合わせをして一緒に帰った。

次からは1人で来てもらう。


「で、ここが由衣んち。」

「へー。隣だって聞いてましたけど、本当に隣なんですね。」

隣にウソの隣と本当の隣があるのかな?

「休憩のときは、由衣の部屋で一緒にお茶飲ませてもらうから。」

「え!由衣先輩の部屋でですか?」

「うん。・・・どうかした?」

「いや、でも・・・。」

「何が?」

「えっと、僕、女子の部屋に入ったことなんかないですし、緊張してきました。」

「そうか。まぁ、女子って言っても漫研の先輩だし、気にしなくていいよ。」

「真先輩は、由衣先輩以外の女子の部屋に入ったことってあるんですか?」

「ん~、そう言われるとないな。」

「真奈美先輩の部屋にもですか?」

「うん。家に行ったこともない。部屋は綾ちゃんと二人で使ってるらしいし。」

「そうなんですか。今日の僕って、真先輩からだと、前の部長や副部長に家に呼ばれて部屋に入るみたいな感じですよ。緊張しませんか?」

言われたままに想像してみた。

その瞬間に心臓がバクバクしてきた。

そうか、今の研二はこんな感じなんだな。

それに想像ではなくリアルだし。


研二を部屋に通す。

「あっ、マイちゃん。」

入るなりマイちゃんのポスターに目が釘付けになっている。

やはり水着の方に。

ファンならこれが自然だよな。

「やっぱかわいいですよね。僕も1枚買おうかな。」

「うんうん、そうしたら。買ったら一度は見せて。」

「はい、わかってます。」


研二には俺の机を使ってもらう。

かなり遠慮して床でいいと言ったが、そうはいかない。

俺にしたら、たかだか2時間ほどだし、ベストコンディションで活動して欲しい。


俺も研二も、一昨日の中央ホールでの部会のときに批評し合ったものを直すところから始める。

直すと言っても文法的に直すのではないから、じっくりといろいろと思いを巡らせながら考える。

これには完璧な答えなどないし、本当は終わりもない。

前の文章とは大きく変わることも普通だ。

いくら長い時間をかけたからといって、それが必ずしもよくなっているとは限らないのが辛いところでもある。


イラストや漫画と違って、手が止まっている時間の方が圧倒的に長い。

そのときは、頭がフル回転しているのだけど。

そうなると「ん~」と無意識に唸ってしまう。

やはり研二もよく唸っていた。

唸りながらもマイちゃんのポスターをよくガン見していた。

正直でよろしい。

今日ででき上がるはずもなく、そろそろ休憩したい。

ずっと考えていると結構疲れる。


由衣にLINEを送る。

「いつから休憩になりそう?」

「私たちもそろそろどうって言ってたところ。じゃあ、おいでよ」

「わかった」


「研ちゃん、由衣先輩の部屋に突入だ。」

わざとらしい言い方をしてやる。

「はい、気合が入ります。」

顔がこわばっている。


由衣の部屋に入ると、由衣と真奈美と綾がもうテーブルに着いていた。

四角いテーブルの一辺に俺と研二と由衣は1人ずつ、真奈美と綾の姉妹が気を利かせてくれて2人で並んで一辺を使ってくれた。


「どう、研ちゃん、はかどってる?」

と由衣。

「は、はい。」

それだけか?

「どうしたの研ちゃん?真ちゃんにいじめられたとか?」

真奈美が笑いながら言う。

「何だよそれ。俺がそんなことするわけないだろ。研ちゃんな、今まで女子の部屋に入ったことがないから緊張してるんだよ。」

「え~、そーなんだ。研ちゃんかわいい。」

真奈美がからかう。

「やめてくださいよ、真奈美先輩。」

研二が顔を赤くしている。

綾もそんな研二を面白そうに見ている。


「真奈美先輩だって、真先輩の部屋に初めて入ったときって緊張したでしょ?」

「そのときは由衣ちゃんと一緒だったけど、別に何も気にしなかったな。」

「そ、そうですか。すごいですね。」

「何もすごくないよ。あ、言っとくけど、男子の部屋に入り慣れてるなんてことはないからね。ほんとに初めてだったから。」

「わかってます。由衣先輩も、真先輩以外の男子の部屋に入るとなると緊張するでしょ?」

「ん~、それ絶対にないから想像もできないな。」

研二はどういう意味だろうという顔をしたが、それ以上何も聞かなかった。


「もともとは、部室が暑くて使えなくなったら、私んちと真ちゃんっちで交代で活動しようってことになってたのよ。」

と由衣。

何でその話になる?

て言うか、これはとんでもなくマズい展開だ。

それに、何てことだ。

今気付いた。

研二にマイちゃんのポスターのことを口止めしていない。

研二にしたら、いつも貼っていて、真奈美も由衣も知っていると思っているだろうな、きっと。


どうしよう。

今さら部屋の外に連れ出して口止めなんてできないし。

ほんと、どうしよう。

心臓の鼓動がやたら早くなってきた。


「で、何で今は由衣先輩の部屋だけで活動しているんですか?」

またもや何も知らないで無邪気にむごいことを聞く研二。

「それはね。」

と言った瞬間に

「その話、辞めよう。」

と遮る。


真奈美と由衣がしばらくアイコンタクトで心での話をして

「そうね。このことは言わない方がいいね。後輩の前でカッコ付かないし。」

真奈美もウンウンとうなずく。

最後のはいらないが、あっさりと言うことを聞いてくれて助かった。

このときは由衣が如来に、真奈美が菩薩に見えた。


フーと大きく安堵の息を吐いて、別の話を振ろうとしたとき

「ねえ、研ちゃんもマイちゃんのファンよね。」

全然終わっていない。

真奈美が今日一番危ない話を始めた。

ヤバい。

この話はすぐに切り上げないと。

「でもポスターは持ってないって入部したときに言ってたよね。」

と由衣。

何とも楽しそうな二人。

反対に視界が暗くなっていく俺。

「買わないの?」

「買います。今日真先輩のを見てすごく欲しくなりました。」

終わった。

研二の少し恥ずかしそうな笑顔が悪魔の微笑みに見える。

「そう、貼ってたの。」

真奈美の顔から笑顔が消えた。

「どっちのポスター?」

由衣の目もマジだ。

2人の急な変貌に戸惑いながら

「どっちって。2枚です。」

「水着のも?」

「はい。」

元気に答える。

完全に終わった。

二人が同時に俺を睨む。

口の端がピクピクしている。

「あ、いや、それはな・・・そう、研ちゃんのテンションが上がっていい評論が書けるんじゃないかって思って。」

「ふーん、そう。もういいわ、ここでは。この後、そっちでの活動が終わったらここに一人で来てよ。」

と由衣。

どうしよう、返事ができない。

「絶対よ!」

真奈美がきつく言い放つ。

何がどうなったのかわからない研二と綾は顔を見合わせている。


本当にもう終わりだ。

どうしよう。

でも、もう貼らないなんて約束させられた覚えはないのに。


俺の部屋に戻って活動を再開したが、そのことで頭がいっぱいだ。

研二が来るからって、つい調子に乗ってしまった。


いつもだ。

後悔先に立たず。

漫研に入ってから、その前までの人生の100倍ほどこの言葉を使っている。

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