初めての試み
神様は、不器用ながらも一生懸命に頑張っている漫研を、温かく見守って下さっているのだろう。
雨も続いていて、昨日の予定外の部会までは気温は25℃くらいで推移していたが、晴れたら今日から急に30℃超えになった。
これでは部室にいられない。
一日ずれていたら、昨日の貴重な部会は開けなかっただろう。
明日は35℃くらいまで上がるらしい。
残念だがもうエアコンのない部室での活動は無理だ。
夏休みに補習が始まって、冷房の効いた特別教室を活動場所にもらえるまでは、ずっと各自での活動になる。
去年はそうだった。
おそらく、去年まではそうだったのだろう。
だが、今年は部長と副部長の提案で、補習が始まるまでの間は、毎週月曜日の放課後に中央ホールに集まって部会をやることになった。
ただし、期末考査中はやらないし、終業式以降は午前中に行い、月曜日が祝日の場合は火曜日に行う。
これは本当にいい提案だ。
一年生をほったらかしにできないと思っていたが、一緒に活動できる場所がない。
この部会で何らかのケアができるかもしれない。
俺たちにできることがあるのなら、とことん付き合うつもりだ。
月曜日に初の試みの部会が開かれた。
連絡事項や確認事項、ちょっとした協議もあって部会が終わる。
部会が終わるや否や、イラストの一年生たちが急いで3人娘のもとに駆け寄る。
部誌に載せるイラストの原稿を見せて、アドバイスを求めている。
3人が一人一人に、それぞれ違う視点で細かなアドバイスをしている。
すごいな。
一年生たちが積極的だ。
来週もこうなるんだろうな。
こんな光景に嬉しくなる。
俺のところには、研二とのぞみが。
「のぞみちゃん、イラストのことを部長たちに聞かなくていいのか?二刀流でいくんだろ。」
「はい。そうですけど、今まで部室にいた時間はずっと絵のことを教えてもらってました。評論は家で書いていましたけど、見てもらって批評をしてもらったことがないんです。これでは何もわかりませんから、見ていただきたいんです。急ですみません。真先輩のご都合があると思いますから、持って帰ってもらって来週でも結構ですが。」
評論の一年生も負けていない。
去年のことを考えても、この時期に漫研がこんなことになるなんて考えてもいなかったので、本当に嬉しくなる。
「読ませてもらうよ。」
のぞみから原稿を受け取る。
研二が
「そうだ。真先輩がのぞみのを読み終わって批評をしてくれるまでの間、のぞみも僕のを読んで批評してよ。」
「え、私が批評って、そんな・・・。」
「批評はどうかって思うのなら、まずは、誤字や脱字、文のねじれなんかがあったら、赤で直して。で、ここは何を言いたいのかわかりにくいとか、ここをもっと深めたらいいんじゃないかとか、思ったことを書き込んで。俺のためって思ってくれるんだったら遠慮しないでどんどん入れてよ。これは評論組の相手への愛だから。俺も、この後のぞみのを読んだら、ガンガン愛を入れていくから。のぞみが立ち直れなくなるほどにいくよ~。」
研二がイタズラっぽく微笑みながら原稿を渡す。
「えー、そんなに厳しいのー。」
と半分悲鳴のようなのぞみ。
でも顔は楽しそうだ。
その後、のぞみのを研二が見て、研二のを俺が見て、原稿に赤を入れた。
そして、赤を入れた相手からその意図を聞いて、他に思ったことや感じたことなども聞く。
最後に、来週の部会に、直したり加筆したりしたものを持ち寄る約束をした。
由衣と真奈美の漫画組は、部室に入れなくなった日から由衣の家で活動している。
今までと違うのは、綾もいることだ。
綾は部室で活動していたときは、イラスト半分、漫画の修行半分といったところだったが、部室が使えなくなったから3人娘も来なくなってしまった。
そうなると、綾が活動できるのは唯一、由衣の家で漫画のアシスタントをさせてもらうことだけになる。
でも綾からはそんなこと言えそうにないと思って、由衣が誘ったとか。
ほんと、後輩には優しいな。
せめて、その数万分の一でも俺に優しくして欲しいものだ。
でも、そんなことを言ったら、私のどこが優しくないのよ、なんて言われそうだ。
真奈美は妹だから遠慮なく指導するので、綾はどちらかと言うと由衣の方に行きたいのは見ていてわかるが、背景の描き方なども教えて欲しいから、真奈美に教えを請うている。
そのあたりの微妙な関係も見ていておもしろい。
ふと思った。
それなら、もし研二とのぞみさえよければ、3人で俺の家で評論を書いたり批評をしたりするのもいんじゃないか。
毎日でなくてもいい。
1日置きでも2日置きでも。
さっそくLINEで2人に聞いてみる。
漫研のグループの方ではなく個人の方で。
研二からはすぐに返事が返ってきた。
「本当ですか。すごく嬉しいです。今まで毎日活動できていたのに、暑くなったからって一週間に一回しか活動できないのかって思っていましたから。よろしくい願いします」
のぞみからは、既読は付いたが返事がなかなか返って来ない。
なんでだろう。
しばらく考えて、鈍感な俺はやっとわかった。
そうだよな。
いくら漫研で同じ評論をしている先輩と言えども、その人の部屋に行くなんてな。
研二も誘っていると書いておいたが、俺も一応男だし。
波風立てず、なんと言って断ろうかと考えているのかもしれない。
俺としては、後輩はあくまでも後輩で男女なんて考えていなかった。
これって、去年の体育祭の部対抗リレーで1位を取ったときに、前部長から他の女子と変わらないハグをしてもらったのと同じだな。
今更ながら、あのときの部長の気持ちがわかった。
既読から10分程経って、のぞみからの返事が返ってきた。
「ありがとうございます。私はイラストも描いていますので、評論を書く時間とイラストを描く時間が必要で、どちらも毎日やりたいと思っています。宿題もたくさん出ますので、そのことも考えたら、せっかくのお誘いですが遠慮させて頂きたく思います。本当にすみません。」
そうか。
そうだよな。
正直言って、少しホッとしている自分がいる。
「俺、明日からは俺の部屋で活動するわ。」
真奈美と由衣に、先程あったことを話す。
真奈美から
「やるじゃない。研ちゃんのためにもなるし。由衣ちゃんの部屋で無駄な時間を過ごすよりよっぽどいいよ。」
何だそれ。
俺、由衣の部屋でもしっかりと活動していたんだがな。
俺が遊んでいるとでも思っていたのか?
綾は俺に背を向けて作業をしているのだが、声を出さずに笑っているのがわかる。
肩が揺れているから。
由衣からは
「後輩の面倒をしっかり見てるじゃない。真ちゃんも成長したね。なんなら、休憩の時間はうちに来ていっしょに話そうよ。お茶も淹れるし。のぞみちゃんもいてくれたらよかったけど、やっぱりね。」
言いたいことはわかる。
それにしても、由衣から成長したと褒められる日が来るとは。
研二と話して2日置きに俺の家で活動することになった。
お言葉に甘えて、休憩になったら由衣の部屋でお茶を飲ませてもらう。
評論のことも楽しみだが、マイちゃんの話を誰に遠慮することもなくできるのも楽しみだ。
研二の来る日にはポスターを2枚とも貼っておこう。
研二もテンションが上がるだろうし。
俺って後輩に心遣いができる先輩だな。




