原稿の締め切り日
一年生に活動を託し、俺たち二年生は修学旅行へと旅立った。
あれを見たい、これもしたいと思ってワクワクして始まったのだが、3泊4日なんて、あっという間に過ぎ去っていった。
さすがに北海道はスケールが違っていた。
普通に地平線が見える。
デッカイどー、北海道と言うだけのことはある。
札幌、小樽を班であらかじめ作った計画に沿って観光したり、ラフティングも楽しんだ。
ホテルは3人で1部屋で、やはり夜は恋バナで盛り上がった。
あとは、カラスのことで驚いたくらいかな。
日本にはハシボソカラスとハシブトガラスの2種のカラスがいるのだが、俺たちの周りにはハシボソカラスしかいない。
だから、カラスと言えばそいつらと思っていた。
愛嬌のある顔をしたかわいいカラスだ。
ところがだ。
北海道で見かけたカラスは、そいつらより一回り大きくて、くちばしが大きく獰猛そうで、人相も悪い。
鳥だから人相ではなくて鳥相と言うべきかもしれないが。
それがハシブトガラスだった。
初めて見た。
これが、かのハシブトカラスか。
これを見られただけでも北海道にしてよかった。
最終日に漫研へのお土産に「白い恋人」を買った。
修学旅行から帰って最初の登校の月曜日、二年生が各々、買って帰ったお土産を持って部室に集まる。
ちんすこう、東京バナナ、東京たまご、スカイツリークッキー、キャラメルサンドそして俺の白い恋人。
積み重ねると、なかなか見応えがある。
もちろん自由に食べていい。
放課後にはいつも腹ペコの俺は、しばらくはこれで食いつなげそうだ。
ただし、食べ過ぎてひんしゅくを買わないように、1日1個か2個で我慢だ。
今日は特別ということにして、二年生が1人ずつ修学旅行の話をする。
一年生も他の二年生も楽しそうに聞いてくれて、ここぞというところではツッコんだりしていた。
話が終わると、みんなが自分の活動を始める。
ふと、部室の壁に掛けておいたカレンダーが目に留まった。
そういえば、まだ使っていない。
今年の文化祭はたしか9月8日だったな。
カレンダーのその日のマスに文化祭と書き入れた。
その隣のマスに体育祭も。
この日も同じくらいに楽しみだ。
終業式、補習の開始日、始業式も書き入れた。
始業式の前の週は補習がなく、その週のどこかで部誌の印刷と綴じ合わせが行われる。
「部長、先を見越して、原稿の締切日を今のうちに、だいたいでも決めておいてもいいと思うんだけど。」
部長の考えもあろうから、遠慮気味に言ってみる。
「そうね。ありがとう。だいぶ余裕を持って決めておかないとね。その方がみんなもそのつもりでやれるから。」
部長はもう考えていたみたいだ。
部長がカレンダーをめくって8月のを見せながら話す。
「2学期の始業式は8月24日の月曜日です。なので、その前の週のどこかで部誌の印刷と綴じ合わせをすることになります。その前の週はお盆休みで学校に入れません。」
「学校閉庁日」とカレンダーに一週間分矢印を引っ張って書き入れていく。
「そうなると、昨年と同じやり方でやると、現在部員が12人いますので、みんなが原稿を見終わるまで12日、その後直すのに1日と私と副部長とで最終チェックをするのに1日として14日掛かります。でもギリギリの予定は立てられないのでもう1日は取る必要があると考えています。」
去年は、俺のせいで2日遅延が生じた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そうなると、原稿の締切日は7月17の終業式の日になります。」
えっ、と驚くのは漫画を書いている2人。
今日から数えて1か月と少ししかかない。
まだ先のことと思って、修学旅行のことや部員が増えたことなんて考えていなかったから。
2人とも焦って何か言おうとしているが、考えがまとまらないのもあるけど、自分たちの都合ばかりを言えないから何も言えない。
部長が空気を察して先に提案する。
「これは、去年に比べて、かなり締切日が早くなっています。ですので、私からの提案ですが、一年生には申し訳ないのですが、今年は原稿のチェックは2年生だけでするというのはどうでしょうか。そうすると、6日間締切日を遅くすることができます。」
俺が部長にお伺いを立てたのが発端だったのだが、部会になってしまった。
「今の部長の案に賛成の人。」
と副部長が。
全員が手を挙げる。
そうだろう。
何が起こるかわからないから、締め切りは遅いに越したことはない。
「ありがとうございます。ですが、このスケジュールは、印刷をする日を、その週の月曜日を想定してのものです。印刷は、顧問の先生の立ち合いがないとできませんので、明日にでも先生とお話して、なるべくその週の遅い日に、できれば木曜日にしていただけるようにお願いしてみます。木、金で印刷と綴じ合わせができれば、さらに締切日を3日延ばせます。先生とのお話の結果は、決まり次第報告します。」
そこまで考えてくれていたのか。
俺たちの知らないところで、部長と副部長でスケジュールを考えてくれていたんだ。
ほんと、2人には頭が上がらない。
あっ、とそのとき思いついたので手を挙げた。
「僕が原稿を預かるのを金曜日にしてもらえませんか。そうなったら、土曜日の朝に由衣の、いや白川さんの家に持っていけます。」
それを聞いた真奈美も
「私も土曜日に白川さんの家で見てもいいです。白川さんがよければですけど。」
「いいに決まってるじゃない。一緒に見よう。」
それを聞いて部長も
「じゃあ、私も金曜日にしてもらえたら、土曜日に副部長の家に持っていきます。」
「6人で回すのに、金曜日は1回しかないです。」
と、わざと俺が冷静を装って言うと
「あっ、そっか。」
恥ずかしそうな部長。
みんなもクスっと。
でも、気持ちはとても嬉しい。
それにしても、由衣のことを白川さんなんて言ったの、いつぶりだろう。
高校に入学してからは絶対にないのは自信を持って言える。
何でだか 、恥ずかしいな。
これで2日稼げた。
あとは、印刷をする日がいつになるかだ。
翌日、いつも通りに活動していたら、先生との話を終えた部長と副部長が部室に戻ってきた。
とても嬉しそうだ。
「先生から提案されちゃった。みんなで決めてくれって。」
先生から?何だろう。
「事情を話したら、そんなにスケジュールが厳しいんだったら、始業式前の土日で印刷と綴じ合わせをやるのはどうかって。」
「休みの日の活動って顧問が付いてないとできないんじゃないの?」
と萌。
「そう。だから、そう決まったら、先生が土日に出てきてくれるって。日ごろ漫研のために何もできていないから、それくらいはしてやるって。」
えー!
みんなが歓喜の声を上げる。
またもや感動して目頭が熱くなる。
副部長が
「では、決を採ります。先生の提案に賛成の人。」
全員が手を挙げる。
俺は両手を挙げたいくらいだ。
「じゃ、みんなで先生にお礼に行こうか。」
と部長。
「はい。」
嬉しそうな大きな声が重なる。
漫研は義理堅いな。
職員室にぞろぞろと入っていくわけにはいかないので、部長が先生にお願いして廊下に出てもらうことにした。
廊下で待つ俺たち11人。
廊下を歩いている生徒が、何なんだろうと言う目で俺たちを見ながら通り過ぎる。
たまに「漫研よね?」とか「去年のリレーの子たちがいる」といった声も聞こえる。
うんうん、知名度が上がっているようだ。
先生が廊下に出てくると、ドッとみんなで駆け寄る。
「な、何だ?」
驚く先生。
部長は何も言っていなかったんだな。
先生にとってはサプライズか。
部長が
「先生、土日に来てくださることに部員一同感謝しています。ありがとうございます。」
続いて残りの11人で、いつもの部会の返事のように張りのある大きな声で
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げる。
「いや、それくらいは。」
照れる先生。
これで予定が決まった。
部誌の原稿の締め切りは8月6日だ。
そして部誌の印刷と綴じ合わせは8月22日と23日。
部長がカレンダーに書き込む。
最初の予定から、土日も含めて20日延ばすことができた。
漫画を描く2人にとっては、これはとても大きいだろう。
やっと俺のホワイトボードの出番が来た。
カレンダーの締切日のマスの右上にを0と書き、1,2,3と逆にたどりながら数字を入れていく。
7月をまたいで今月に入って、やっと今日になった。
51と書き入れる。
小さなホワイトボードに大きく数字を書く。
背が低い方のロッカーの上に壁にもたれさせて置く。
みんながそれいい、という目で見てくれる。
「気が付いた人で毎日書き換えような。」
ホワイトボードには
『原稿の締め切り日まであと51日』




