テーマ決定
前の部会でテーマの方向性が決まって、部長が用意した箱にテーマの文言を書いた紙を入れることになっている。
部長は記名でも無記名でもいいと言ったが、これ、手書きだとだれのかわかってしまう。
俺の字はひどい癖字だし。
じゃあ、パソコンで打ってプリントアウトするか?
おそらくみんな手書きだろうから、そんなことをしたら、それこそはっきりと俺のだとわかってしまう。
部長はそんなことを見越して返答したのか?
そうだとしたら相当の策士だな。
締切日の翌日、全ての候補に番号が振られてプリントアウトされたものが張り出された。
『①日本に生まれてよかった。あのころにあんなアニメが見られて』『②あのときあの作品を見たから、私、今、漫研にいます』『③あのときこの漫画の話をした友達、今どうしてるかな』『④またあれを見て懐かしい私に会いに行こう』『⑤小さなころの私、これを見て笑いました、そして泣きました』、『⑥・・・。
全部で11、全員のだ。
よかった、少し心配していたから。
明日中に箱の横に置かれた小さな紙に、自分が推したいものの番号を書いて投票することになっている。
今日、すでにほとんどの部員が投票したみたいだ。
結果発表の日。
部長から票数が発表される。
一位はダントツの6票を獲得した「あのときあの作品を見たから、私、今、漫研にいます」だ。
他に2票が1つ、1票が1つ。
俺のに投票した人はいなかった。
「部長、それ、誰のか教えてもらえませんか?」
と由衣。
「無記名なんだけど言ってもいいのかな。」
独り言のように呟いて考えるふりをしながらチラッと裕香を見る。
目が合う。
「どうなんだろう。」
もう一度裕香をチラ見する。
誰にもわからないほど小さくうなずく裕香。
「本人の了承が得られたので公表します。」
え、今の間に?
やはり策士だ、やるー。
「これは堀裕香さんのです。」
みんなが裕香を見る。
そして大きな拍手が。
恥ずかしそうに顔を赤くする裕香。
部長がみんなに
「今年のテーマが決まりました。今日から各自で紹介したい作品や発表の内容を考えていってください。」
去年もそう言われたはず。
やはり耳が痛い。
その後、一年生が集まってきて裕香に声を掛ける。
「やったね、裕香。」
美和が裕香の手を取って、自分のことのように嬉しそうだ。
「ほんと、すごいよ。」
と研二。
「そう。見た瞬間にこれしかないってビビッときたもんね。」
詩織が頭からビビッを両手の指で出す。
「漫研にって書いてここにっていうの、すごくいい。」
と綾。
「ありがとう。」
裕香が照れながら礼を言う。
いいな、今年の一年生はもうまとまっている。
俺たちはこのころは、部会でもないと顔を合わせることさえなかったような。
また、各自での活動に戻る。
詩織がイラストの描き方で、3人娘にアドバイスを求める。
研二も俺に批評を求めてきた。
他のみんなも漫画やイラストに励んでいる。
そんな中、部室の扉がノックされて顧問の先生が入ってきた。
もうこの時期に新入部員は入らないだろう。
何かな?
その予想に反して
「一年が1人、入部したいってな。」
入部届のコピーを部長に渡す。
「えっ!」
みんなの目が、丸くなっている。
信じられない。
また新入部員が入ってくる。
「他の部を辞めたらしい。明日来るように言ってあるから。」
先生が帰っていった。
「また入ってくるな、部長。」
「うん、嬉しい。」
みんなが集まって入部届を見る。
「えっ、同じクラスの子だ。」
と詩織が驚いている。
「この子、バスケ部だけど。」
「バスケ辞めたのか。」
と言ってしまった。
「明日、あんまりそこには触れないようにしようね。本人が話すのはいいけど。」
と部長が気を遣ってみんなに確認する。
みんながそうだねとうなずく。
ここにいるみんなは中学校でやっていた部とは違う部に入ったが、途中で辞めて漫研に入ったわけではない。
経験したことはないが、退部するって大変なことだろう。
よほどの理由があってのことかもしれない。
そんなことを思い始めたら、素直に喜べなくなった。
やめよう、こんなことを思うのは。
また1人仲間が増えるんじゃないか。
そのことを喜ぼう。
明日は明るく温かく迎えよう。




