ファーストキス
明日からゴールデンウィークが始まる。
今朝も由衣と登校しながら、昨年の話になる。
新年度になってから、昨年の今頃はこんなだったなという話になることが多い。
俺からは避けていたのだが、由衣から
「去年の今頃よね、真奈美ちゃんにデートに誘われたのって。」
その通りだ。
部活から帰って、明日からいよいよ連休だと思っていたら、真奈美からLINEが入った。
真奈美に押し切られるようにデートが決まって困っていたら、偶然とはいえ由衣がうちに来て、話して背中を押されたっけ。
「付き合って一周年だよ。絶対に誘いなよ。」
なかなか行動に移さない俺を心配しているのだろう。
由衣が強い口調で、釘を刺してくる。
「わかってるよ。」
もちろん、誘うのは決めている。
翌日、恒例の部会があったが、その間もその後も、真奈美はゴールデンウィークのことについては何も言わなかった。
その日の夜。
真奈美にLINEを送る。
「去年の今日だよな。真奈美からLINEをもらったの」
「うん。何だか恥ずかしいよ」
「今年もどこかに行こうよ。明日なんてどう?」
「明日?急ね」
「真奈美も去年、明日って言ったよ」
「そうだけど」
「俺は本当はいつでもいいよ。相変わらずずっとフリーだから」
「去年と同じじゃない。じゃあ、やっぱり明日にしよう」
「わかった。どこか行きたいところある?」
「映画じゃダメかな?すごく見たいのがあるの。前も映画だったけど。」
「全然いいよ。前のもすごくよかったし。」
「待ち合わせの場所は前と同じでいいかな?」
「うん」
「時間を調べてLINEするね」
「わかった」
翌日の朝。
待ち合わせのコンビニの入口近くで待つ。
俺は、基本的に女の子の待たせることはしたくない。
だから30分前には待ち合わせの場所に行くことにしている。
「お待たせ。」
と真奈美が来た。
一年前の今日と同じギンガムチェックのワンピース。
かわいい。
あのときもやられたが、なぜだか今年はもっとやられてしまった。
なんで同じワンピース?
ひょとして、前のときによっぽどアホな顔で見とれていたのだろうか。
でも今年の俺は、もっとアホげた顔で見とれてしまった自信がある。
「待った?」
「いや、さっき来たところ。」
ウソか本当かどうでもいい挨拶。
映画を見終わって映画館を出る。
この後は前と同じファミレスで昼食と決めている。
歩いてファミレスに向う途中、聞かない方がいいかなと思いながら、つい聞いてしまった。
「今日のこと、綾ちゃんは知ってるの?」
「うん。言ってる。」
「何か言ってた?」
「いいなって。私もデートでどこか行きたいなって。」
「そう。・・・綾ちゃんってもてるんじゃない?」
「うん。かわいいし。でもね・・・。」
「何かあるの?」
「男の人に厳しいんだよね。」
「どういうこと?」
「ちゃらい人とかもってのほかだし、他にも自分の中での基準があるらしいよ。見た目じゃなくて中身の。そんな話、ほとんどしないけど。」
「そう。」
「いいなって言われた。」
「何が?」
「真ちゃんみたいな人、いいなって。」
何て返事をしたらいいんだか。
答えようがなくて、しばらく黙って歩く。
「そうだ。」
真奈美が何かを思い出したようだ。
「去年、私が送ったLINE。」
なぜだか怒っているように見える。
「何?」
「一緒にどこかに行かないって送ったら、『何で』って返事が返って来たんですけど。あれにはさすがに心が折れそうになったよ。」
「ごめん。俺、女の子から誘われたことなんてなかったから、気が動転してたんだよ。何で俺なんかとっていう意味で。」
「そうだったの?何で私とデートしなきゃいけないのって意味だと思ったよ。」
「そんなことないって。」
と言ったあたりでファミレスに着いた。
案内されてテーブルに着く。
「ここは、俺たちの始まりの場所だな。」
恥ずかしいけど言わずににはいられない。
「うん、そうね。」
真奈美も恥ずかしそうに答える。
一年前の今日、ここで全てが始まった。
俺も真奈美も、そのときと同じ日替わりランチを敢えて頼んだ。
映画館から真奈美の家への帰り道の途中に俺の家があるといった感じなので、真奈美を家に誘った。
俺の部屋で話をする。
「そう言えば、研ちゃんもマイちゃんのファンだって言ってたよね。」
「またその話?」
俺にとってマイちゃんの話は黒歴史だ。
「やっぱ、人気あるよね。うちの部の男子の2分の2で100%だもんね。」
「そうなるか。」
この話は早く切り上げて別の話に移りたい。
「新しいクラスはどう?」
「うん。話しやすい人が多くて、女子はもうみんな友達って感じ。真ちゃんは?」
「少しずつ話せるやつが増えてるかなってとこかな。一年のときに知ってたやつってほとんどいないから。まぁ、これからってとこだよ。」
「そうなの。」
「それより漫研、いい感じだよな。」
「うん。私たちが入ったころとは全然違うよね。」
「みんなが毎日部室で活動してるよな。」
「そうよね。本当はそれって当たり前かもしれないけど、私、それっていいなって思うの。」
「やっぱり?俺も。」
「連休が明けて少したら、部長たち引退するのかな。」
「うん、おそらく。香月先輩が引退したのもそのころだったから。」
「寂しくなるな。部長たちがいなくなると。」
「そうよね。あっという間だったな。志保先輩が部長だった一年。」
「で、ついに俺たちの代になるんだな。俺、新体制になったら、部室が使える時期は必ず毎日全員で活動することを決まりにしようって部長に提案する気だったけど、もうその必要はないなって思ってる。」
「うん。一年生は初めからその気で毎日来てるから、私たちがサボってたら恥ずかしいしね。」
「ほー、真奈美も先輩の自覚が芽生えたか?」
「えっ、それ何?私はあの子たちが入ってきたときから自覚をもってやってるよ。」
「そうか、悪かったな。」
話が途切れる。
すこし沈黙が流れる。
「真奈美。」
また真奈美の前に立って見つめる。
「真ちゃん。」
真奈美も立って俺を見つめる。
真奈美が目を閉じた。




