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詩織

部長と副部長には言えるはずないし、3人娘にも押しつけがましくって言っていないが、なぜか、みんなが毎日部室に来て活動している。

もちろん、一年生も何の疑いもなく毎日来て活動している。


美和は初めからイラストをやりたいと言っていた通りにイラストに励んでいる。

研二は評論が楽しいようだ。

漫画を描けるようになりたいと言っていた裕香だったが、過去数年分の部誌の作品を見て、漫画を描くことの大変さを目の当たりにして、漫画は断念してイラストに専念することになった。

綾は希望は捨てていないが、今年の文化祭までには無理と悟り、イラストを描きながら、来年に向けて由衣や真奈美の手伝いをさせてもらって修行をすることにしたらしい。

俺は、同じく評論をする研二に、今までで学んだことをアドバイスしている。

と言うより、俺はこんなことをしていると伝えている。

自信をもって言えることはほんの少ししかないんだけど。

研二はとても素直に俺の話を聞いてくれて、「そうなんですね」とか「次からやってみます」といった返事をくれる。

研二は文章が上手い。

すぐに追い越されそうだ。

部長が言っていた切磋琢磨しながら、互いに高め合いたい。


ふと、研二のことを何て呼んだらいいんだと思った。

いつまでもみんなと違って「風早君」ではな。

女子は綾ちゃんと美和ちゃんと裕香ちゃんでいいのだが、研二を研二ちゃんなんて呼ぶわけにはいかないし、研二君もよそよそしい。

「なぁ、風早君は友達から何て呼ばれれてるの?」

「そうですね。だいたいい研二か研ちゃんです。」

そうか、研ちゃんか。

それいいな。

かくして、その日から、研二は先輩からも同級生からも研ちゃんと呼ばれることとなった。


そんな感じで一週間ほど活動していたある日、顧問の先生が部室に来た。

ひょっとして?

みんなが期待するのがわかる。

「さっき、1人入部届を出しに来たぞ。」

また、新しく部員が入る。

「ワー!」

部室が沸く。

嬉しい。

このままどんどん新入生に入部して欲しい。


翌日。

新入部員を待つ俺たち。

女子だということはわかっている。

「どんな子かな?」

おそらく部長も落ち着かなくて、独り言がつい口をついて出たのだろう。

わかるはずがないから、だれも答えない。

みんなもこころなしか緊張しているようで、静かに待っている。

仕方がないな。

ここは真ちゃん研ちゃんの評論コンビで場を繋ぐか。

「ほんと、どんな子だろう。まあ、研ちゃんみたいな問題児じゃなければ、全然OKだな。」

突然だが研二に振る。

「え、僕、問題児ですか。こんなにかわいい後輩いないですよ。ひどいですよー、真先輩。」

研二が口を尖らせてすねたふりをする。

みんなが笑う。

研二、グッジョブだ。

みんなの笑いが収まったころに、扉が叩かれた。

その瞬間にみんなが扉に正対する。

しばらくしてもう一度ノックが。

部長が

「どうぞ。」

扉が開いて、一人の女子が入ってきた。

色が白くて長い髪のみるからに清楚で綺麗な子。

スカートもきっちりひざ丈。

全校の女子生徒のほとんどが紺ソックスの中、白ソックスも目を引く。


みんなが少し見入ってしまった。

俺も。

俺は見とれてしまったの方が正しいかも。

真奈美には見られてないよな。


「近藤詩織と申します。よろしくお願いいたします。」


いつもの流れが終ったら、質問の時間になる。

中学校では何かしてたの?

「はい、柔道をしていました。」

えっ!

ギャップに驚くみんな。

「小学生のころから学区のスポーツ少年団でやってました。」

「髪は?」

「中学で引退してから伸ばしました。でも、やっているときも結構長かったです。長い髪でもくくったらいいですから。」

得意技は?

他のみんなにとってはどうでもいいことを俺が聞いてしまった。

体育の武道の時間で柔道を選択しているから気になって。

「体落としです。あと大内刈りも。」

俺は新入生のことを思って質問は一つと決めているので、これでそのカードを使ってしまった。

なぜ漫研に?

「同じ中学の柔道部の先輩に勧誘されて迷っていたんですけど、やるとなると本気でやらないとですし。私、柔道は好きなんですけど強くないんで、高校では通用しないかなって思っていたんです。なので他の部も考えていました。」

そこで詩織が切った。

少し考えるように間を開けて

「私、小さいころから漫画が好きでしたし、絵が上手になれたらなってずっと思っていました。で、この前のオリエンテーションでパンフレットを見て漫研のことを知って、入りたいなって思ったんです。でもゆるゆるでいい加減そうだったら入るのをやめてましたけど、そうじゃない、『やるときはやる漫研の伝統』っていう言葉が心に残って。何日か迷いましたけど、入らないと絶対に後悔するって思って入ろうって決めました。」

この子もオリエンテーションで決めてくれたのか。

またもや嬉しくて泣きそうになる。

だが、他の上級生ははそんなことどうでもいいかのように、普通に質問を続ける。

漫画を描いたことはあるの?

「ありません。教えていただいて、描けるようになりたいです。」

次々に質問が飛ぶ。

何の迷いもなく答え続ける詩織。

みんなに、他に質問がないことを確認した部長が詩織に

「じゃあ、最後の質問ね。」

「はい。」

詩織が少し警戒するのがわかる。

「得意な教科は?」

ホッとした顔で

「英語です。」

すみません、部長、お気遣い頂いて。

でもやっぱりこれって、何かの意味があるのかな?


これで5人もの新入部員を迎えることができた。

現実的に、同好会から部への昇格が見えてきた。

入部してもすぐに辞めるのもいるので、部員数の査定は5月1日現在での部員数だ。

その時点で2年間、部員が10人いたら同好会から部への昇格が決まる。

現在の漫研は総勢13人。

もし、このままでいければ来年は最低でも11人。

念願の漫画研究部になれる。

いや、そんなのに甘んじてはいけない。

その先のことも見据えて、来年の新入部員をまたたくさん確保しないと.。

それは、今の一年生次第だな。

こいつらはやってくれそうだ。

部長たちは俺たちのことをパワフルだと言ってくれるが、入部してすぐの彼らもすでにその片鱗をみせていて、これからもどんどん成長してくれそうだ。

期待が膨らむ。


その後、一年生は一年生どうしで集まって話す。

やっぱり美和が仕切っている。

詩織に

「さっき自己紹介したけど、次々に言われたら覚えられないよね。私は3組の前田美和。美和でいいよ。そんで、こっちがって、それより今だけの名札つけない。」

美和がみんなに呼びかける。 

「うん。まだみんなのクラスも怪しいもんな。」

と研二。 

A4のコピー用紙を半分に切って、それにクラスと名前を書いた特大の名札をクリップて胸ポケットにとめる。


「詩織って、柔道してたんだよね。私は剣道。」

と裕香が。

もう詩織だ。

「へー、剣道してたんだ。」

話が弾んでいく。

自然に中学のときの部活の話で盛り上がっていく。

俺はそれに興味が湧いて、一年生にわからないように気を付けながら、チラ見しては聞き耳を立てる。

研二が、科学部で「サイエンスチャレンジのジュニア部門」であと一歩というところで「科学の甲子園ジュニア全国大会」の県の代表を逃したことを悔しそうに語る。

美和が吹奏楽部の練習の体力的と精神的なきつさと人間関係の複雑さを吐露する。

裕香が剣道部の痛さを、詩織も絞められたときの苦しさを訴える。

「ほんと苦しいのよ。ていうかフワッとなるのが怖いんだよね。」

詩織が薄目になって、死ぬ一歩手前みたいな顔で実演している。

「早くまいったしないと落ちちゃうし。」

「落ちるって?」

いかにも初めて聞いたとばかりに研二が。

「気を失うことよ。」

「へー、そんなことあるんだ。でもそればかりは経験しないとわからないな。」

と美和。

「じゃあ今から絞めてあげようか?体験したらよくわかるよ。」

ニヤッとして詩織が立ち上がる。

「やめてよ、怖いな。え、詩織ってそんななの?」


聞いているだけでもいろいろと興味深い。

特に詩織が第一印象からどんどんかけ離れていくのが面白い。

きっと一年生たちもそう感じているだろう。

ほんと、最初はどんな上品なお嬢様かと思ったから。

本人たちにはとっては中学の部活のグチり合いみたいだが、これで一気に一年生たちの距離が縮まりそうだ。

俺たちも入ったときに、こんなだったらなと羨ましくさえなる。


あっ、と咲良が何かを思い出したように、一年生の方に行く。

「ごめんね少しだけ。みんなに聞き忘れてたことがあって。」

「何ですか?」

と美和。

「みんなは走るの、速いの?」

研二は「こう見えて、まあまあ速いです。」

美和は「私は遅いです。」

裕香は「遅くはないとは思いますけど・・・。」

最後に詩織が

「走るのには自信があります。柔道では負けてばかりでしたけど、走るのだったら負けません。オリエンテーションで、体育祭のリレーで新記録を出したって聞いて、私も出たいって思いました。でもこれ、漫研に入った理由じゃないです。」

「そう。リレー、出たいの。」

またもや咲良が満面の笑みで微笑んだ。


これで今年の体育祭の部対抗リレーでは一位どころか記録更新が確実だな。

由衣が言っていた何年も破られない新記録が出せそうだ。

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