部活動オリエンテーション
入学式から2日後の今日、生徒会執行部主催の新入生対象の部活動オリエンテーションが開催される。
時間は普通授業での6時間目に当たる時間。
2,3年生はクラスの委員長や係、各種委員を決めるのに当てられている時間だ。
部活動オリエンテーションであらかじめ決められた自分たちの部紹介の時間に間に合うように抜けさせてもらう。
だが、与えられた時間より早く終わる部や持ち時間をオーバーする部もあって時間は流動的なので、かなり余裕をもって体育館の裏に集まることになっている。
そのような事情があるので、途中で抜ける者は、先にやりたい係や委員会を言わせてもらって、他に希望者がいなければ、それをやらせてもらう。
もしも、だれかと被ってしまったら、ジャンケンになる。
負ければ、次の希望を言わせてもらう。
俺も真奈美も希望通りに、それぞれ文化委員とクラスの庶務係に収まることができた。
時間がきたので、先生に伝えて教室を出る。
俺と真奈美が行ったときには、すでに他の4人は集まっていた。
「何か、緊張してきた。」
咲良がソワソワしている。
「知ってる子、一年にいるの?」
と由衣。
「ほとんどいない。中学の書道部の後輩が2人くらいかな。今の私を見て驚くかも。書道一筋だったから、絶対に書道してるって思ってるだろうし。それがよりにもよって漫研だから。」
自虐的に笑う。
「俺もだ。野球部の後輩が3人入ったって聞いてる。そいつらも見てるって思うと恥ずかしいな。」
「私も同じだよ。中学じゃ陸上に懸けてたから。」
と美鈴も。
舞台袖は狭いので、自分たちの紹介の2つ前からしか入れない。
「漫画研究同好会、入って下さい。」
生徒会役員から声が掛かり、舞台袖の入口から入る。
2つ前の文芸部が、暗い雰囲気満載でぼそぼそとしゃべっている。
こんなだから、部でいられるぎりぎりの部員しかいないんだよ。
もっとシャキシャキやらないと新入部員が入ってこなくて同好会になってしまうぞ、などといらない心配をしてやる。
文芸部がはけて、生物部が白衣姿で登場する。
何かよくわからない、自分たちが現在している研究について難しいことを言っている。
自己満だな。
ここはそういうのを新入生に聞かせる場じゃないだろうに。
空気読めよ、お前ら。
生物部がはける。
「次は漫画研究同好会です。」
いよいよ俺たち漫研の出番だ。
文字通り、新年度最初の大舞台だ。
俺と美鈴が袖から話しながら出て行く。
「ねえねえ、部活、もう決めた?」
「いや、悩んでるんだよな。もう野球は続ける気ないし、どうしようかな。何か楽しい部活ないかな。」
「私も、もう陸上はいいかな。楽しい高校生活を過ごしたいし。」
かなりリアルだがそれくらいいかないと。
そこに咲良が登場。
「あっ、咲良、久しぶり。部活、やっぱり書道部?」
「ううん。私、すごいのに入っちゃった。」
腰に両手を当ててドヤ顔する咲良。
「えっ、何に入ったの。」
「聞いて腰抜かさないでよ。」
「もったいぶらずに早く教えてよ。」
「そうだ、当ててみて。マで始まる同好会。ほんと、すごいよ。」
「マで始まる?何だろう。すごいのよね。あ、わかった。魔術研究同好会。それ、白の方?黒の方?」
新入生側から少し笑いが起こるが、明らかに滑っている。
わかる人にしかわからないのもあるし。
ここで俺が入る。
「そんな同好会うちにはねえよ。それに黒なんて怖いしマニアックすぎだろ。マで始まる同好会って言えば誰もが知ってるマヤ文明研究同好会しかねえだろ。」
ここで、さっきよりは大きな笑いが起こる。
いい感じになってきた。
咲良が
「もう、そんなのに誰が入るのよ。そっちの方がよっぽどマニアックじゃない。」
ここから俺と美鈴の交互の連打が始まる。
「じゃあ、マラドーナ同好会?それしかないよな。」
「訳わからないよ。それ、何やるのよ。マリアナ海溝同好会しかないよね?」
「それこそ何やるんだよ。ウナギの研究でもするのか?絶対にマッドサイエンティスト同好会だよな。」
「違うよ。マクドナルド同好会よ。」
「それ、ただ集まってマック食べてるだけの人たちだろ。」
新入生の方から
「訳がわからない。」
といった声と大きな笑いが聞こえる。
予想以上の反応。
ここで俺たちは舞台の一番前に3人横に並んで新入生に呼びかける。
「実は、私たちは漫画研究同好会、略して漫研の部員です。練習がキツイ部活は不安だなと思っている人、ぜひとも漫研で一緒に活動しましょう。」
と美鈴。
俺が続く。
「漫画が描けなくても大丈夫です。僕は描けないので評論をやっています。でもただユルいのではなく、やるときはやる漫研の伝統の元、各自で目標を立てて毎日活動しています。」
最後に咲良が。
「私たちチームマンケンは、昨年の体育祭の部対抗リレーで、十数年ぶりに新記録を出しました。脚に自信がある人、一緒に走って今年も新記録を出しませんか。漫画に興味がある人、それだけで大歓迎です。ぜひとも、漫研の部室の扉を叩いてください。」
咲良はもう走らないと決めてるから、ちょっとウソが混じっているがそれもお愛嬌だ。
3人で深々と頭を下げる。
大きな拍手に包まれる。
大成功と言っていいだろう。
やってよかった。
結果は天に任せて待つだけだ。
放課後、みんなが部室に集まる。
綾が入ってくるや否や、綾を囲むようにして上級生がオリエンテーションの反響を尋ねる。
「すごく面白かったって、みんな言ってました。」
「そう。漫研に入りたいて言ってる子、いなかった?」
と副部長。
「それは、まだ・・・。」
まあ、そうだろうな。
部員の獲得はそんなに甘いもんじゃない。
俺たちは現実に戻った。
そのとき、顧問の先生が部室に入って来た。
「一年生が3人、入部届を出しにきたぞ。」
「本当ですか!」
「ワー!」
「やったー。」
部室が興奮に包まれる
由衣と真奈美も手を取り合って喜んでいる。
俺も嬉しくて目頭が熱くなる。
漫研に入って、感動することが多すぎて、明らかに涙腺がゆるくなっている。
「じゃあ、明日も全員で集まって、その3人の子たちを歓迎しないとね。」
部長も副部長も目がウルウルしている。
入部届のコピーを部長に渡して、先生は帰っていった。
男子が1人と女子が2人。
これで新入部員は4人になった。
ふと、綾を見る。
先輩たちの熱気に圧倒されたのか?
ボーっと立ちつくしている。
声を掛けてみる。
「綾ちゃん、漫研って、実はこんなだから。結構、熱いよ。俺も入った頃はとまどったけど、すぐに慣れたよ。俺、こういうの好きだから。」
綾が少しはにかみながら
「はい、ありがとうございます、真先輩。」
そう言われた瞬間にドキッとした。
俺は野球しかしてないから「飯島さん」意外に後輩から呼ばれたことがない。
『真先輩』か。
嬉しいけど恥ずかしいな。
これは慣れるのに時間がかかるかも。
でもやっぱり嬉しい。




