書華美展
3学期が始まった。
始業式の次の週から書華美展だ。
放課後、部室の机をくっつけて、その上に全ての作品が並べられる。
見てくれる人の印象を考えて、並べる順番を考える、
今年は俺を除く描ける部員が2作描いて14作。
4×4が見栄えがいいだろうと、部長と副部長がもう一作つずつ描いてくれた。
書華美展の前日。
参加団体が集まって会場全体の準備をする。
もちろん、俺たち漫研も貴重な戦力の一つだ。
他の部の部員と協力して、コマの付いた自立式のパネルを次々と倉庫から運び出す。
生徒会役員の指示のもと、次々とパネルがホールに運びこまれて並べられる。
パネルのセッテイングが終わると、各団体の展示の領域が示され、S字フックが配られる。
パネルの穴にフックが通され、作品が掛けられていく。
俺たち漫研のレイアウトは打ち合わせ済なので、ほどなく掛け終わる。
部室で机の上で配置した通りにセッティングしたが、そのときとはまるで別物の展示が現れた。
正直、すごく感動した。
みんなもしばらく見入っていた。
それが終わると、真奈美は家の用事があると言って、すぐに帰っていった。
俺は、他の部の作品も見たくて、ホールの中心にあるベンチに座って、くつろぎながらすべての部の展示の準備が終わるのを待つ。
美術部がだいぶ遅くなって作品の展示が終わった。
さすがに高校の美術部だ。
俺には言われたくないだろうけど上手だ。
油絵も水彩画も。
掛け終わって美術部も解散になったので、ゆっくり見せてもらう。
俺は絵は描かない主義だが、鑑賞は好きだ。
「飯島君、絵は好きなの?」
同じクラスの美術部員の与田有紀が後ろから話しかけてきた。
あまり話したことはないが、落ち着いた雰囲気の知的そうな子だ。
「うん。絵を見るのは好きなんだ。見るだけだけど。与田さんも上手いね。俺に言われてもなって思うだろうけど。」
「ううん、そう言ってもらえたら嬉しいよ。飯島君のは?」
「俺のはないよ。」
「何で?」
俺は絵は描かない主義だからといっても何のことかわからないだろうから、本当のことを言う。
「俺、絵は描けないんだ。下手で。」
「えっ?漫研でしょ。」
「そうだよ。でも漫研って、漫画を描く部じゃないよ。描く人もいるけど。漫画研究同好会だから、研究が主な活動なんだ。俺はもっぱら評論を書いてるよ。」
それらしい理屈をこねる。
ただ単に描けないだけなのに
「へー、そうなの。」
「でも、やっぱり絵が描けるっていいなって思うけど。」
「たくさん描いたら上手くなるよ。」
「いや、もう二度と人に絵は見せないって決めてるから。」
「そうなの。じゃあ、評論を読ませて欲しいな。」
部誌はかなり余っているから、あげてもいい。
でも今年のはだめだ。
俺の文章じゃないから。
「じゃあ、来年になるけど、文化祭で漫研の展示を見に来てよ。そのときに見に来てくれた人に部誌を渡すんだけど、俺の評論もそれに載ってるから。」
「そう。じゃあ、今年の文化際は絶対に漫研を見に行くね。よかったら、美術部も見に来て。」
「うん。去年も見たよ。与田さんの絵も覚えてるよ。今年も見に行くから。」
「そうなの。ありがとう。」
俺の評論を目的に来てくれる人が現れた。
モチベーションも上がってくる。
今年はダメだしされない文章を描かないと。
もちろん自力で。
書華美展は空いている時間ならいつでも見られるが、やはり昼休みがお客のピークになる。
放課後は部活があるから、意外に少ない。
昼休みは、当番を決めて誰かが付いていることになっている。
何か尋ねられたら答えるためと、何か感想らしき声が聞こえたらLINEで共有するためだ。
今日は俺が当番。
有紀が友達の内田奏と一緒に見に来てくれた。
奏は名前の通り吹奏学部だ。
「みんな上手だね。こういうイラストってセンスがいると思うけど、どれもきれいね。」
と有紀が褒めてくれる。
「そうよね。すごいね。美鈴も咲良もこんなに上手だったなんて。」
と奏。
2人の名前が出るって言うことは同じ中学校の出身かな。
「でも・・・飯島君のはないの?」
また聞かれた。
俺は当番から外してもらうべきだった。
外してもらう分、何かで埋め合わせをするという条件で。
よく考えたら、俺が何か絵のことを尋ねられても何も答えられないし、俺の作品がないことも俺がいたら誰しも気になることだろう。
どう答えるのが無難かなと少し考えていたら
「飯島君は、絵は描かないの。評論が専門なのよ。入部してからずっと評論を書いてるの。」
「へー、そうなの。有紀、なんでそんなこと知ってるの?それって、ヤバくない?飯島君には真奈美がいるのに。」
イタズラっぽく奏がツッコむ。
「ち、違うよ。そんなんじゃないよ。この前の準備のときに少し聞いただけ。」
そう気にすることでもないのに、有紀が慌てるのが不思議に思えた。
でも、絵が描けないということにはまったく触れなかったことは嬉しい。
気を遣わせてしまったかな。
5時間目の前の予鈴が鳴る。
皆が急いでホールから出て行く。
俺の当番も終わりだ。
「私、次、音楽だから。」
教科書を持って奏が音楽教室がある隣の棟に向う。
俺と有紀は話しながら一緒に階段を登る。
教室が近付くと
「じゃあ。」
と足早に先に教室に有紀が入っていった。
真奈美に気を遣っているんだろうな。
私と付き合っているんだから、他の女子と仲良く話をするななんて真奈美は言わないのに。
そこも真奈美の好きなところなんだ。
だから、俺もそんなことは絶対に言わない。
由衣が嫌う変な束縛はしない。
する必要がないから。
彼氏がいても、真奈美に普通の高校生活を楽しんでもらいたい。
俺も、彼女がいても、普通の高校生活を楽しみたい。
男女が付き合うことで、その他の人との関りが制限されるなんて、あまりにももったいない。
なんて、それらしい理屈を言ってるけど、結局は俺には真奈美しかいないし、真奈美には俺しかいないと信じているから。
ただ、それだけだ。




