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徹先輩

少し前まで暑い暑いと文句ばかり言っていたのに、11月になると肌寒くなってきた。

こんなことになるとは思ってもいなかったので、これから冬になることなんか考えてもいなかった。

本格的な冬になって寒くなったら、部室での活動はどうなるんだろう?

暑いのはどうすることもできないが、寒いのは着込めばなんとかなる。

そう思うのは俺だけかも。

女子は体を冷やしてはいけないから。

また由衣の家で活動することになるのだろうか。

これじゃあ、年間の半分ほど部室が使えないじゃないか。

吹奏楽部や美術部、書道部などのエアコンが効いた場所で夏は涼しく冬は暖かく活動できる部がある一方で、俺たちのように活動が季節によって強く影響を受ける部もある。

あまりにも不公平だ。


今の漫研はと言うと、とても賑やかで活気にあふれている。

1月の書華美展に向けて、ほぼ全員が毎日部室でイラストの下絵を描いたり色塗りをしたりしている。

由衣と真奈美は一足先に仕上げ、漫画のストーリーの最終段階に入っている。

ストーリーに矛盾やねじれがなければ、描き始めるらしい。

部長と副部長は3人娘に色塗りを譲るのもあって、下絵を描き始めた。

萌は色鉛筆で、咲良と美鈴はアクリル絵の具を使って色を塗っている。

俺は、相変わらずネットでいろいろな評論を読みまくっている。

もちろん、読むだけではないが。


真奈美と由衣が休憩に入ったので、聞いてみた。

「どうやったら文章って上手くなるんだろう。この前の部誌に載った文章のようなゴーストライターが書いたのは今年は絶対に嫌だからな。」

真奈美が笑いながら

「ゴーストライターって、何。私たちで少し手を加えたくらいじゃない。」

「よく言うよ。ほとんどが変わってしまって全くの別物になってたよ。」

「文章が上手になりたかったら、やっぱり絵と同じでたくさん書くしかないんじゃないかな。」

と由衣。

「それに、みんなに読んでもらって批評を聞くのもいいんじゃない。単なる感想じゃなくてね。まず私が読んで批評してあげるよ。」

と真奈美。

前に批評されたときの苦い思い出がよみがえるが、現実から逃げてはいけない。

そこに部長と副部長が話に入ってきた。

「真ちゃん、前に言ったことがあるけど、私が1年のときに3年の先輩で評論だけ書く人がいたって話覚えてる?その先輩たち、書いてはみんなに読んでもらって批評してもらってたよ。」

と部長が。

「その先輩たちって、文章は上手でしたか?」

つい聞いてしまう。

人のことを聞いても仕方がないのに。

「う~ん。」

2人がしばらく顔を見合わせる。

「そうね、とっても上手いって思った先輩もいたし、そうでない先輩もいたかな。」

と副部長。

部長が少し含み笑いをしながら

「澪、徹先輩のこと言ってない?3年なのに文化祭まで部を続けて部誌に載せた。」

「うん、わかった?それにしても、最後まで文章が何を言ってるのかわからないままだったよ。」

「やっぱり澪もか。ほんと、それ。何が言いたいのかわからないならまだいいけど、何を言ってるのかわからないのには困ったよね。批評してくれって言われてもしようがないし。」

「その先輩のに比べたら、真ちゃんのは何が言いたいかはわかるから、まだましよね。内容はともかく。」

褒められているのかけなされているのかわからず、複雑な気持ちになる。

由衣がその先輩に興味を持ったみたいで

「その先輩って、1年のときから評論だけだったんですか?」

「そうだと思うよ、絵は一度も見たことがないから。描かなかったのか描けなかったのかは知らないけど。」

と副部長。

そこに見るからに嫌な顔をしながら真奈美がいらないちゃちゃをいれてくる。

「おそらく描けなかったんだと思います。それか、一度描いてみて、みんなに死ぬほど笑われて、もう二度と書かないって決めたのかも。」

4人が一斉に俺を見る。

そして大爆笑。

何で部長や副部長までが知っているんだ。

あのときは知らなかったはずなのに。

俺は描けないんじゃない、描かないんだ。

時代が俺に追いつけないから。

俺もその先輩が気になって、笑っている部長に尋ねる。

「3年間評論を書いて、結局最後まで上手くならなかったんですよね?」

「さあ、それはどうかはわからないよ。1年生のときに書き始めたときには、もっとひどかったかもしれないし。あれでも、上手になったのかもしれないし。」

もう、まったく遠慮がなくなっている。

「でも、たくさん書いたからって上手くなるとは限らないですよね。」

「だから、その先輩もいっぱい書いて上手くなったかもしれないし。」

副部長が笑いながら答える。


その答えを知りたい。

そうだ、部誌を見たらわかるかも。

部長たちが1年のときの3年だから、去年の部誌に3年のときのが載っているはず。

ということは、その先輩が1年のときは3年前だ。

とりあえず、過去3年分の部誌を引っ張り出す。

1年のからか3年のからか、どちらから読むべきか。

迷ったが、3年のときのから読むことにした。


確か徹先輩って言ってたな。

評論は最後の方にまとめられている。

前から名前を見ていく。

あった、「木下徹」。

タイトルは「なぜ○○はあのとき△△してしまったのか~私的にはそれはないだろ~」

タイトルからして怪しい匂いがプンプンしている。

読むのが怖くなってきて少しためらったが、怖いもの見たさの方が勝ってしまった。

意を決して読む。

ウンウン、確かに部長たちの言う通りだな。

読み終える。

本当に何を言っているのかがわからない。

話があっちに行ったりこっちに飛んだりもするし。

前に出てきたことが何度も繰り返されたり。

難しい言葉がたくさん使われているが、多くは使い方が違うような。

そのときの部員たちは、ちゃんと原稿のチェックをしたのだろうか?

何か、あきらめられた感が感じられて痛い気持ちになる。


1年ときのはどうしよう。

もっと怖くなる。

でも読まなければ。

俺にはそれを見届ける義務があるように思う。

読む。

いたたまれなくなって、途中で閉じた。


でもはっきりと答えは出た。

確かに3年間で格段に上手くなっている。

俺も迷わず精進しよう。

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