由衣の誕生日
10月24日は由衣の誕生日だ。
由衣が引っ越してきてからずっと、その日に近い日曜日の昼に、由衣の両親が開く誕生日会に呼んでもらっていた。
誕生日会を開くなんて言ったら仰々しいが、事実、そう言うのがふさわしいのだ。
由衣のお母さんは料理が得意で、すごい料理がテーブルに並ぶ。
まるで高級レストランのように。
ケーキもお母さんの手作りだ。
母ちゃんには悪いが、その日の晩ご飯にがっかりするのであった。
で、今年だ。
もう高校生になったから、そんなのしないかも、しても俺は呼ばれないだろうと思っていたのだが、何とその真逆。
俺はともかく真奈美も呼びたいとご両親が言ったとか。
今朝、学校に行く途中にそのことを聞いて、おったまげた。
「何で真奈美も?」
「うん。真奈美ちゃんのことはお母さんにはよく話してるの。夏に毎日うちに来て活動したり、休みの日に漫画を手伝ってもらったりしたことも。真ちゃんの彼女だって言ったら、すっごくビックリしてたよ。真ちゃんもおとなになったねーなんて。で、今年は真奈美ちゃんも呼ぼうってことになって。」
「何で俺と真奈美のこと言うかな。俺、行き辛くなったよ。」
「えー、普通でしょ、それくらい。」
「おじさんもおばさんも、何かいじってきそう。」
「まぁ、それはあるんじゃない。少しは。」
「少しならいいんだけどな。」
「少しじゃないかも。特にお母さんが。」
「だよな、。おばさん、そういう話好きそうだし。」
「2人はどこまでいったの?とか。ウソよ。そんなこと面と向かって聞けるわけないでしょ。」
「いや、どうかな。・・・俺、今年はパスするわ。」
「待ってよ。そんなのなしよ。ずっと来てくれてたじゃない。」
「今年は今までと違うから。お前が真奈美と俺とのことを言わなきゃ普通に行けたのに。」
「ごめん、私が悪かったよ。お母さんにはくれぐれもいらないことを言わないように言っとくから。」
「それで解決するんだったら俺もこんなに心配しないよ。真奈美もいるんだったらなおさら。」
「ほんと、絶対にだいじょうぶだから。私が保障するから。」
由衣の「保障」ほど危ないものはないんだけど。
本人には悪気がないのはわかっているけど、何度も保障されなかったことがある。
「それより、真奈美にはまだ言ってないのか?LINEでとか。」
「うん。真ちゃんに言ってもらいたいなって思って。」
「そうか。じゃ、今日聞いてみるわ。」
「うん。迷ってるようだったら強引に誘ってよ。」
「いやいや、それはないだろ。真奈美の意思を尊重するし。2人揃って欠席ってことになるかもよ。」
「えー、それは絶対になしよ。そうなったらいつものうちのお昼ご飯になっちゃうよ。料理だけが特別の。」
「美味しい料理を家族水入らずでお召し上がりください。」
「いつも水入らずで食べてるって。絶対よ、2人で来てよ。」
由衣の顔が真剣になっている。
これ以上おちゃらけるとまた目をウルウルさせそうでかわいそうになる。
「わかりました。善処します。」
「絶対よ。」
「はい、前向きに検討いたします。」
「もう。」
この話はそれで終わった。
教室に入る。
「真奈美、ちょといいか。」
「何?」
「由衣の誕生日のことなんだけどな。」
「今月の24日よね。プレゼント何がいいかなってずっと考えてるんだけど。」
「でな、毎年、日曜日の昼に由衣んちの誕生日会に呼ばれてきたんだけど、今年は真奈美も来て欲しいっておじさんとおばさんが言ってるんだって。」
驚く真奈美。
「え~!何で私?」
「由衣が真奈美のこといろいろ家で言ってるみたいなんだ。俺の彼女ってことも。」
「そんなのまで言ってるんだったら、行き辛いよ。そういう目でお父さんもお母さんも見るでしょ。何で漫研の仲良し3人組くらいにしてくれないのかな。」
「そんなの無理。由衣のことだからわかるだろ。聞かれてないことまで言うやつだから。で、どうする?」
「どうしよう。」
「行きたい?」
「行きたいのは行きたいけど、やっぱり行き辛い。」
「まぁ、相手はおとなだから高校生みたいな無茶振りはないと思うよ。」
「それはわかってるけど・・・。」
「どうしてもって言うんなら、その日は予定が入ってるとかいうのもありかな。」
「うん、そうしよう。誘ってもらって申し訳ないけど、やっぱり気が進まない。それが一番波風立てないよね。真ちゃん、由衣ちゃんにそう言ってくれる?」
「俺はダメ。ウソは全部由衣にバレるから。顔に出るからわかるんだって。」
「へー。付き合いが長いのも良し悪しだね。」
「そう。俺はよく由衣に騙されてるけど。あいつ、ウソが上手いから。」
「もう、そんな悪い女みたいな言い方して。そんな子じゃないよ、由衣ちゃんは。」
「じゃ、真奈美から由衣に言ってな。」
「うん、そうする。」
放課後、部室で。
「由衣ちゃん、今朝、真ちゃんから由衣ちゃんの誕生日会のこと聞いたんだけど、ごめんね、その日は前々から予定が入ってたの。」
申し訳なさそうに謝る真奈美。
「そー。」
由衣が笑いをこらえている。
「真奈美ちゃんも真ちゃんと同じくらいウソが下手。わからないと思ってるの?」
「ウソじゃないよ。ほんとに予定が。」
「もういいよ。来たくないのに無理して来てもらってもね。」
真奈美が観念する。
「ごめん。ウソ。」
「どうせ真ちゃんが彼女だっていじられるかもなんて言ったんでしょ。」
チラッと俺を見る。
「それはないよ。これはほんとだから。ただ私が気が進まないなって思ったの。行きたいのは行きたいよ。正直言って。ただ由衣ちゃんが私と真ちゃんが付き合ってるってこと言ってなかったら・・・。」
「ごめん、やっぱりそれなんだ。私、馬鹿だから何でも話しちゃうんだよね。ほんと、ごめん。」
「いいよ。でも真ちゃんには行ってもらうね。真ちゃんも迷ってるみたいだけど、2人とも行かないのは失礼だし。」
「真奈美ちゃんにも来て欲しいな。お母さんの料理、食べて欲しいし。私のお母さん、料理が得意でフレンチとかイタリアンとかいっぱい作るよ。どれもおいしいよ。」
「えっ。」
真奈美の顔がパっと明るくなる。
「ねぇ、お願い。来てくれない?」
「行く!」
即答した。
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次回は3月29日の予定にさせていただきます。
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