危険
結局、書華美展での俺に対する処遇への心配は杞憂に終わった。
いい作戦を思いつくはずもなく、かといっていつまでも不安を引きずりたくないから、思い切って部長に尋ねた。
よほど悲愴感が漂っていたのか、答える前に部長がフッと笑った。
そして
「今の部員の中じゃ真ちゃんだけが描けないらしいけど、私が入部したときには、3年の先輩に同じような人が3人ほどいたよ。評論だけ書いてた先輩が。」
そこで切って、しばらく俺の反応を伺うかのように、黙ってしまった。
その先を聞くのは正直言って怖い。
でも、聞かずにはいられない。
仕方なく
「で、その先輩たちはどうなったんですか?」
「どうなったと思う?」
質問に質問で返されて困ってしまう。
わかるはずがないから答えられない。
なんか意地悪されているみたいだ。
そんな俺を見て、ニコッとする部長。
「だいじょうぶ。描けないんだから仕方ないでしょ。描ける部員だけで描いて展示したよ。」
ホッとした。
何かやらされそうな雰囲気を醸し出していたから。
それも部長の演技だったんだな。
「そう言えば、由衣ちゃんと真奈美ちゃんにも少し前に聞かれたよ、同じこと。」
「え、本当ですか?」
「私はさっきと同じこと言ったけど、2人から聞いてないの?」
「はい、全然。」
「そのときに、真ちゃんって『犬』の絵だけは上手に書けるって聞いたけど、それほんと?それ出す気ないの?」
真面目な顔をして聞かれた。
「えっ?いや、そ、それは、それはないです。」
突然の展開に焦りまくる俺。
「そうなの?でもそれって危険だとも言ってたけど、どういう意味なんだろう?」
アイツら!
許さん!!
「僕にもわかりません。」
とだけ答えて、その場はクリアーした。
本当に腹が立つ。
先に部長に聞いてて教えてくれなかったこと。
毎日顔を合わせていたにもかかわらずだ。
絶対にわざとだ。
そりよりも『犬』の話を部長にしていたことはもっと許せない。
俺が『犬』だけは上手に書けるだと!
いい加減にしろよな。
ちょっと描いてみてとか言われたらどうしようかと思って冷や汗が出たじゃないか。
まだ心臓がバクバクしている。
それに危険って何だ?
俺の絵がひどいことをからかって楽しんでるな。
この後2人をギュウギュウに締めあげてやらないと。
と、意気込んではみたものの、かわいい彼女と長い付き合いの幼馴染にはキツいことは言えず、ことの顛末だけを由衣の部屋で伝えることになってしまった。
部長とのやり取りの、後半の部分には敢えて触れない。
聞いてなかったことにしてやる。
俺は心が広いから。
それなのに。
2人がアイコンタクトを取った後、由衣が
「ねぇ、志保先輩って私たちのこと何か言ってなかった?」
もう、わかりやすすぎるほど笑みがこぼれている。
それを見ていると、怒りがこみ上げてきた。
ここはガツンと言ってやらないと。
「言ってたよ。先に先輩に聞いてて、何で教えてくれなかったんだよ。」
「ごめんごめん。」
と由衣。
口ではごめんなんて言っているが、まったく詫びる気持ちが感じられない。
怒りがヒートアップする。
「わざとだろ!」
「何で?何でわざとなんて思うの?私はてっきり真奈美ちゃんから聞いてるった思ってたから。彼女だし、同じクラスだし。」
「私は絶対に由衣ちゃんから先に聞いてるって思ってたよ。毎朝、一緒に来てるんだし。」
どちらの言うことも一理あるが、どちらもウソをついているのがわかる。
2人とも俺に教える気なんてなかったんだ。
俺が悩んでいるのを面白がって見てたんだ。
さて、どんな手を打ちますかな?なんてな。
こうなったら『犬』のことも言わずにいられるか。
「それとお前ら、何で『犬』のこと、先輩に言ったんだよ。」
2人が顔見合わせて、大笑いし始めた。
笑うところじゃないだろ。
「おい!」
「い・・・言ったっけ、まな・・・。」
「私は・・・私は言った覚え・・・ない。」
いい加減に笑うのやめろ。
確信犯だってバレてるぞ。
「それに、危険って何だ?」
それを聞いた2人の笑い声がさらに大きくなる。
由衣はベッドの上を転がり回り、真奈美は床を叩いて笑う。
俺はもはや怒りを通り越して、冷静に2人を見ていた。
こんなヤツらだったとは。
「危険ってどういうことだよ。」
もう一度聞く。
「知らないよー。」
真奈美が涙を流しながら笑い続ける。
「とぼけるな!」
収まっていた怒りがまた燃え上がる。
「俺の『犬』を人に見せるのが危険ってことか!」
その瞬間に2人が完全に壊れた。




