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それは、てきかくなけんとう
今日だけで良いから、昼の喫茶店の給仕に入れないかと雪之丞がマスターから打診を受けたのは、前の日の帰り際だった。
調度、着替えにいった春真はいなくて、雪之丞は少しだけ悩んでから、結局断れずに頷いていた。
「こっちがホール担当の紫村君。紫村君、こっちが助っ人の墨吉君だよ」
「ひゅー噂に違わぬ美人さんだね」
少し軽そうなタイプに見えた男に曖昧に笑うと、彼は少し困ったように目を細める。
「あれ? 言われ慣れてるかと思ったのに」
「噂?」
「マスターが良く言うからさ」
僅かに眉を顰めると、マスターがわたわたと手を振った。
「ちょっと、紫村君」
「図星を指されたからって、怒らない、怒らない」
「噂っていうか、可愛くて仕事出来る子が入ったってだけで」
「十分、噂だって。春真の入った時も、面白かったけど」
「紅野君を、御存じなんですか?」
驚いて尋ねると、紫村は肩を竦める。
「勿論。あれも羨ましいくらいイケメンだよ」
「男性から見ても、やっぱり魅力的なんですか?」
「君とならんで目の保養だよなーと思うくらいにはね」
あっさりそう言って、紫村はよろしくと手を出した。




