第1話「クールな同級生」
第一章「朝倉美咲編」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ここから第二章「白石玲奈編」が始まります。
今回のヒロイン・白石玲奈は、主人公・神代悠斗と同じ大学に通う同級生。
学年トップクラスの成績を誇る才女であり、その美貌と近寄りがたい雰囲気から「氷の女王」と呼ばれる存在です。
しかし、その冷静な表情の奥には、誰にも打ち明けられない大きな秘密を抱えています。
そんな彼女が、なぜ悠斗だけには心を開いていくのか。
新たな恋の始まりを、ぜひ最後までお楽しみください。
それでは、第二章第1話「クールな同級生」をご覧ください。
夏休みが終わり、大学では後期の講義が始まった。
朝のキャンパス。
多くの学生が友人と話しながら講義棟へ向かう中、神代悠斗も教室へ足を運んでいた。
「後期も頑張るか。」
そう呟きながら教室へ入ると、教授がすでに教壇に立っていた。
「皆さん、おはようございます。」
「おはようございます。」
講義が始まり、出席確認が終わると教授が口を開く。
「後期はグループ研究を行います。」
教室が少しざわつく。
「今回は私の方でグループを決めました。」
スクリーンへ名前が映し出される。
神代悠斗。
白石玲奈。
藤原健太。
小川美優。
四人グループだった。
「よろしく。」
健太が笑顔で話し掛ける。
「よろしく。」
「よろしくね。」
美優も笑顔で挨拶する。
その隣では、一人の女性が静かに資料を見つめていた。
長く綺麗な黒髪。
透き通るような白い肌。
凛とした雰囲気。
そして整った美しい顔立ち。
白石玲奈。
大学でも有名な才女だった。
「よろしくお願いします。」
悠斗が声を掛ける。
玲奈は顔を上げ、小さく頭を下げた。
「……よろしく。」
それだけだった。
◇◇◇
講義終了後。
四人は研究テーマを決めるため図書館へ向かう。
「何にする?」
健太が尋ねる。
「地域活性化とか?」
「AIも面白そう。」
美優も意見を出す。
すると玲奈が静かにノートを開いた。
「候補をまとめてあります。」
「え?」
「昨日、教授が後期は研究になると言っていたので。」
四人分の資料。
参考文献。
研究方法。
すべて綺麗にまとめられていた。
「すごい……。」
悠斗は思わず声を漏らす。
「準備が早いね。」
玲奈は表情を変えず答える。
「時間を無駄にしたくないだけ。」
その言葉通り、作業は驚くほど効率的だった。
◇◇◇
数日後。
研究室。
四人で資料をまとめていると、美優が困った表情を浮かべる。
「ごめん……。」
「パソコンのデータ消えちゃった。」
「えぇ!」
健太も驚く。
その時だった。
玲奈は静かにUSBメモリーを差し出した。
「予備を作ってあります。」
「え?」
「全員分。」
「万が一を考えて。」
美優は目を丸くする。
「ありがとう!」
「助かった!」
玲奈は小さく頷くだけだった。
悠斗はその様子を見つめていた。
(冷たい人だと思ってた。)
(でも違う。)
(ちゃんと周りのことを考えてる。)
ただ、それを表に出さないだけ。
そう気付いた。
◇◇◇
昼休み。
学食。
「神代君。」
玲奈が珍しく悠斗へ声を掛けた。
「少しいい?」
「もちろん。」
二人は窓際の席へ座る。
「この前の資料。」
「確認してくれてありがとう。」
「こちらこそ。」
「すごく分かりやすかった。」
玲奈は少し驚いた表情を見せる。
「そう。」
「うん。」
「白石さんってすごく努力してるんだね。」
その瞬間だった。
玲奈はほんの少しだけ笑った。
「努力しないと。」
「何も手に入らないから。」
その笑顔は一瞬だった。
しかし悠斗は確かに見た。
大学では「氷の女王」と呼ばれる彼女が見せた、柔らかな笑顔を。
◇◇◇
その日の帰り道。
大学の正門を出ると、一人の女子学生が重そうな段ボールを運んでいた。
「あっ……。」
箱が傾き、中身が散らばる。
「大丈夫?」
悠斗が駆け寄ろうとした時には、すでに玲奈がしゃがんで荷物を拾っていた。
「ありがとうございます!」
女子学生がお礼を言う。
「気を付けて。」
玲奈はそれだけ言うと立ち去ろうとした。
その姿を悠斗は見逃さなかった。
(誰にも見られてないところでも。)
(ちゃんと人を助けるんだ。)
◇◇◇
駅までの帰り道。
偶然、玲奈と悠斗は同じ方向だった。
「今日はありがとう。」
悠斗が話し掛ける。
「何が?」
「グループ研究。」
「助かった。」
玲奈は少しだけ歩みを止める。
「私は自分の役割をしただけ。」
「でも。」
悠斗は笑った。
「白石さんって、本当は優しい人なんだね。」
玲奈は驚いたように悠斗を見る。
そのあと、小さく微笑んだ。
「……そう思うの?」
「うん。」
「ありがとう。」
その笑顔は、教室で見せたものよりもずっと自然だった。
二人は駅で別れ、それぞれ帰路につく。
悠斗は歩きながら考えていた。
(もっと話してみたい。)
(白石玲奈って、本当はどんな人なんだろう。)
一方の玲奈もまた、帰りの電車の窓から夕焼けを見つめながら、小さく呟いた。
「神代君だけは……。」
「私を見た目だけで判断しないんだ。」
その胸には、少しだけ温かい気持ちが芽生え始めていた。
しかし悠斗はまだ知らない。
大学一の才女と呼ばれる彼女には、誰にも言えない「もう一つの人生」があることを。
そして、その秘密を知る最初の一人になることを――。
最後まで第二章第1話をお読みいただき、本当にありがとうございました。
今回は、白石玲奈との最初の出会いを描きました。
大学では「氷の女王」と呼ばれ、周囲からは近寄りがたい存在と思われている玲奈。
しかし、その姿は彼女のほんの一面に過ぎません。
困っている人をさりげなく助け、誰にも見えないところで努力を積み重ねる姿を、悠斗は少しずつ知り始めました。
そして、玲奈もまた、自分を外見や噂ではなく、一人の人間として見てくれる悠斗に少しずつ心を開き始めます。
次回、第2話「秘密の芸名」。
悠斗は偶然、玲奈の誰にも知られてはいけない秘密に触れることになります。
その出来事が、二人の距離を大きく縮めるきっかけとなっていきます。
引き続き、『五つの誓い――僕だけの五人の花嫁』をよろしくお願いいたします。




