第4話「幼馴染から、一人の女性へ」
梅雨が明け、夏の日差しが街を照らし始めた。
大学の前期試験も終わり、久しぶりに予定のない休日。
朝。
神代悠斗のスマートフォンが鳴る。
「もしもし。」
「悠斗、おはよう。」
朝倉美咲だった。
「今日、暇?」
「うん。何も予定ないよ。」
「じゃあ、少し付き合ってほしい場所があるの。」
「いいよ。」
「ありがとう。いつもの公園で待ってるね。」
「分かった。」
◇◇◇
三十分後。
待ち合わせ場所の公園。
「お待たせ。」
「私も今来たところ。」
今日の美咲は、白いワンピースに麦わら帽子という、どこか夏らしい装いだった。
「その服、すごく似合ってる。」
「本当?」
「うん。いつもと雰囲気が違うね。」
「ありがとう。」
美咲は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た悠斗も自然と笑顔になる。
「今日は少し歩こう。」
「もちろん。」
二人は、公園の奥へと歩き始めた。
◇◇◇
そこには、小さなブランコと滑り台があった。
「懐かしい。」
悠斗が笑う。
「ここで毎日遊んでたよね。」
「鬼ごっこもしたし。」
「かくれんぼも。」
「砂場で泥だらけになったこともあった。」
「あったあった。」
思い出話をしながら歩く二人。
どの話をしても笑いが絶えない。
「そういえば。」
美咲が立ち止まる。
「あのブランコ。」
「覚えてる?」
「もちろん。」
「美咲が高く漕ぎすぎて先生に怒られた。」
「もう、それ言わないで。」
二人は声を上げて笑った。
◇◇◇
しばらく歩いたあと、公園のベンチへ腰掛ける。
風が心地よく吹き抜けていく。
「悠斗。」
「ん?」
「昔はさ。」
「私たち、ずっと一緒だったよね。」
「そうだね。」
「幼稚園も、小学校も、中学校も、高校も。」
「大学は違ったけど、それでもよく会ってる。」
「うん。」
美咲は空を見上げる。
「昔はね。」
「私は悠斗に守られることが多かった。」
「そんなことないよ。」
「転んだ時も。」
「泣いた時も。」
「怖い夢を見た時も。」
「悠斗がいてくれた。」
悠斗は少し照れながら笑う。
「お互い様だよ。」
「俺だって美咲に助けられてきた。」
「料理も。」
「風邪の時も。」
「いつもありがとう。」
その一言だけで、美咲の胸はいっぱいになった。
◇◇◇
少しの沈黙。
美咲はゆっくりと悠斗の方を向く。
「ねぇ、悠斗。」
「ん?」
「私……。」
少しだけ緊張した表情。
そして真っ直ぐ悠斗を見つめる。
「もう子どもじゃない。」
「もちろん。」
「もう昔みたいに、『幼馴染だから』って理由だけで笑っていられる年齢でもない。」
悠斗は静かに耳を傾ける。
「だからね。」
「これからは……。」
「一人の女性として見てほしい。」
その言葉に、悠斗は少し驚いた。
「美咲……。」
「すぐに何か変わってほしいって言ってるわけじゃないの。」
「ただ。」
「私は昔の私とは違う。」
「少しだけ、大人になった私を知ってほしい。」
優しく、それでいて真剣な声だった。
悠斗はゆっくり頷く。
「分かった。」
「ちゃんと見るよ。」
「美咲のこと。」
その返事を聞いた美咲は、安心したように笑った。
「ありがとう。」
◇◇◇
帰り道。
商店街を歩いていると、小さなアクセサリーショップが目に入る。
店先には夏らしいガラス細工やブレスレットが並んでいた。
「きれい。」
美咲が足を止める。
悠斗はその中から、小さな四つ葉のクローバーが付いたキーホルダーを手に取った。
「これ。」
「美咲に似合うと思う。」
「えっ?」
「いつもお世話になってるお礼。」
突然のプレゼントだった。
「もらっていいの?」
「もちろん。」
美咲は大切そうに受け取る。
「ありがとう……。」
「宝物にする。」
その笑顔は、これまで見たどんな笑顔よりも輝いていた。
◇◇◇
夕焼けに染まる帰り道。
「今日は本当にありがとう。」
美咲が言う。
「こちらこそ。」
「また遊ぼう。」
「うん。」
「何度でも。」
二人は笑顔で手を振り、それぞれの家へ帰っていった。
家へ着いた美咲は、受け取ったキーホルダーを机の上へそっと置く。
「悠斗が初めてくれたプレゼント……。」
嬉しさで胸がいっぱいになる。
鏡に映る自分へ向かって、小さく微笑んだ。
「もう幼馴染だけじゃない。」
「私は、神代悠斗が好きな、一人の女性。」
一方、帰宅した悠斗も今日の出来事を思い返していた。
「美咲って……。」
「こんなに大人っぽかったんだな。」
幼い頃からずっと一緒だった存在。
だからこそ気付かなかった変化。
悠斗の中でも、美咲は少しずつ「幼馴染」から「一人の女性」へと変わり始めていた。
そして、その想いは、夏祭りの夜に大きく動き出そうとしていた。
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