第3話「支え続けた理由」
六月に入り、大学では前期試験へ向けた課題やレポートが一気に増え始めていた。
神代悠斗も講義、アルバイト、課題に追われる毎日を送っていた。
「あと一つ……。」
深夜までパソコンへ向かい続けた悠斗は、ようやくレポートを提出すると、そのままベッドへ倒れ込んだ。
「少しだけ寝よう……。」
その数時間後。
目を覚ました悠斗は身体の重さに違和感を覚えた。
「……あれ?」
立ち上がろうとするが力が入らない。
額に手を当てると熱かった。
「熱……あるな。」
体温計を見る。
38.7℃。
「今日は大学休むしかないか……。」
大学へ欠席連絡を入れると、そのまま再び眠ってしまった。
◇◇◇
その頃。
大学では。
「神代君、お休みなんだ。」
友人の一言を聞いた朝倉美咲は少し心配になる。
「珍しいね。」
「体調崩したって。」
その言葉を聞いた瞬間、美咲は講義が終わると急いで大学を出た。
スーパーへ立ち寄り、お粥の材料、スポーツドリンク、ゼリー、果物、氷、冷却シートを買い込む。
「悠斗、大丈夫かな……。」
自然と足が速くなる。
◇◇◇
午後二時。
ピンポーン。
何度かインターホンを押しても返事がない。
「寝てるのかな。」
美咲は悠斗から預かっていた合鍵を取り出した。
「入るね。」
玄関を開けると部屋は静かだった。
寝室へ向かうと、悠斗は苦しそうに眠っている。
「悠斗!」
額へ手を当てる。
「熱い……。」
美咲はすぐに冷却シートを貼り、水を用意した。
「悠斗。」
「……みさき?」
ゆっくり目を開ける悠斗。
「ごめん、起こしちゃった。」
「来てくれたの?」
「当然でしょ。」
「こんな熱あるのに一人なんて心配だった。」
美咲は優しく笑った。
「今日は私が看病する。」
◇◇◇
キッチンではお粥が出来上がる。
梅干しを添え、消化の良い副菜も用意する。
「はい、あーん。」
「自分で食べられるよ。」
「熱あるんだから甘えて。」
悠斗は少し照れながら口を開ける。
「どう?」
「美味しい。」
「よかった。」
その笑顔を見て、美咲は安心した。
薬を飲ませ、水分補給も忘れない。
部屋の換気をし、洗濯物を畳み、簡単に掃除まで終える。
「本当に全部やってくれるんだ。」
「昔からでしょ?」
「確かに。」
「悠斗が困ってる時は放っておけないの。」
その言葉は、昔から何一つ変わらなかった。
◇◇◇
夕方。
熱は少し下がり始めていた。
「少し楽になった。」
「よかった。」
美咲はホッと胸を撫で下ろす。
「美咲。」
「ん?」
「いつもありがとう。」
「そんな改まって言われると照れる。」
「本当に助かってる。」
悠斗は穏やかに笑う。
その笑顔を見るだけで、美咲は十分だった。
◇◇◇
夜。
薬が効いたのか、悠斗は再び眠りにつく。
静かな寝息が聞こえる。
美咲はベッドの横の椅子へ腰掛けた。
眠る悠斗を見つめながら、小さく微笑む。
「昔から変わらないね。」
「風邪をひくとすぐ無理するところ。」
そっと悠斗の手を握る。
温かい手。
幼い頃、転んで泣いていた悠斗の手を握った時と同じだった。
「私ね。」
静かな部屋で、美咲は小さく呟く。
「ずっと好きなんだよ。」
「小学生の頃も。」
「中学生になっても。」
「高校生になっても。」
「大学生になった今も。」
涙が一粒、静かに頬を伝う。
「でも……。」
「この気持ちを伝えたら。」
「今の関係が変わっちゃうのかな。」
その不安だけが、ずっと心に残っていた。
眠る悠斗は、その言葉を聞くことなく穏やかな寝息を立てている。
◇◇◇
翌朝。
熱はすっかり下がっていた。
「おはよう。」
目を覚ました悠斗の前には、朝食の準備をする美咲の姿があった。
「おはよう。」
「熱も下がったね。」
「うん。」
「全部、美咲のおかげだ。」
「私は少し手伝っただけ。」
「いや、本当に助かった。」
悠斗は深く頭を下げた。
「ありがとう。」
美咲は少し照れながら笑う。
「元気になったなら、それで十分。」
二人は温かい朝食を囲んだ。
その時間は、まるで新婚夫婦のようにも見えた。
しかし、それはまだ幼馴染という関係の延長に過ぎない。
美咲は今日も笑顔で悠斗を支える。
いつか、この「ありがとう」が「これからもずっと一緒にいてほしい」に変わる日を、心のどこかで願いながら。
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