3. 不幸を招くこと
続いて案内したのがトイレだ。右側の壁沿にあるドアを開ける。
トイレは比較的きれいだ。便座がありトイレットペーパーホルダーがあるだけだった。
そして最後にリビングを紹介した。
ここは寝室兼用のリビングでもある。クローゼットにしまってある毛布や布団を取り出して眠るのだがいまはそれすらもしていない。床に敷いてあるカーペットに直接寝ている感じだ。
とりあえず寝るスペースだけは確保している。
見渡すとゴミが部屋をおおいつくさんばかりに投げ捨てられている。
引っ越ししてきたときに買ったテレビがゴミで埋まっている。
いつ買ったかわからない漫画本やらDVDなどが棚にしまったままゴミに埋もれている。
ほかにもアニメのフィギュアやゲーム関連があちこちに散らかっている。片付ける暇がないとは言わないが、こんなに散らかってしまうと片付けるという気力がなくなるのだ。
リビングから外に行く場合もゴミを踏み越えて行かなければならない。
「一応これで全部の部屋を見せたんですが……」
「……わかりました。いまのこの家には福を置くことはできません」
「そうですか。それは残念です」
「しかし、この家をきれいにすれば福を置けるようになります」
「きれいって?」
「まず、お片付けをしてください。それから掃除です。掃除をするのです」
「……あのう、そんな時間はないんですが。それに、べつに福がほしいと言ってるわけじゃないので」
彼女は渋い表情でぼくを見てきた。その目は心配しているような、殺気めいたようなそんな目をしていた。
「それはいけません。福を拒んではいけません。いまのこの状況は確実に不幸に向かっています。いまから何とかしなければ手遅れになります」
「ふこう? ですか……」
ぼくはそれを聞いて思い当たる節があった。
働いているが金は一向に増えたためしはない。むしろ減っていく一方だ。
会社の健康診断では異常だらけで、隠れ肥満やら高血圧、高コレステロールに尿酸値が高かったりする。
ぼくはそのことを面倒だという理由で気にしないことにしていた。それにまだ三十代だ。
「はい、いまはまだ何も感じないかもしれませんが」
「あの、すみません。ずっとこうやって生きてきたんで、いまさらそんなことを言われても……」
「わかりました。すこし未来の話をいたしましょう」
「みらい?」
ぼくは軽く笑いながら返答した。
「これから先、あなたさまには不運が続きます。まず、病気になります。いまは何も感じないかもしれませんが、この部屋にいれば、いずれ体の器官をやられ動けない体になってしまいます。それ以前に、部屋にあるゴミの種類を見たところ不摂生な生活をなさっていますね。それが積み重なれば入院することになります。入院にはお金がかかります。完治しない病気になれば、一生通院ということにもなりかねません」
うーん、とぼくは首を傾げた。
(変な勧誘業者のよくある、恐怖心をネタに金をせびろうって話じゃないのか?)
「あ、あの本当に、もう大丈夫ですので。ぼくはたぶんずっと健康だと思いますので、あのう……」
「わかりました。では、最後にこれをこの部屋に置いて行きます」
彼女は巾着袋から猫の置物を取り出した。手のひらサイズのそれは座った状態でたたずんでいた。
「何ですかそれは?」
「この猫はこの部屋がきれいになればなるほど、幸運を招くようになっています」
「え?」
「それでは、わたくしはこれで失礼いたします。また、ひと月ほど経ちましたらここへやってきます。それまでには」
彼女は微笑みを見せると玄関を出て行った。
「何だったんだ?」
猫の置物を見るとさっきと表情が違っているように見えた。
さっきは普通の招き猫のように目を閉じて笑顔のように感じていたが、よく見ると何だかムッとしている。不機嫌な顔とでもいうのだろうか。
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