2. 巫女の内見
「来年、あなたさまに福を届けるために参りました。今日参りましたのは、福の神から福もらい、それを置ける部屋であるか確かめに来たのです。すみませんが中を拝見してもよろしいでしょうか?」
「え?」
(福の神? なんで? どうして? やっぱり何かの勧誘か)
「あのう、すみません。間に合ってますから」
ぼくはすばやくドアを閉めようとした。そのとき「お待ちください!」と切羽詰まったように彼女が言った。
「す、すみません。実は試験中なのです。わたくし、神になるためにその試験をしているところなのです」
「え? しけん?」
「はい、わたくしは人に幸せをあたえる神になりたいのです。この試験に合格すればわたくしは幸せの神になれるのです。ですからお願いです。どうか、部屋の中を見せてはいただけないでしょうか?」
言葉が出なかった。彼女が言っていることは本当なのかそれとも嘘なのか、神になる試験なんて聞いたこともない。ぼくの中で彼女に対しての怪しさがますます大きくなった。
「あの、すみません。よくわからないのでほかを当たってもらえませんか」
「それはできません。すでに場所は指定されているのです。つまりここです。ここが試験会場になり、あなたを幸せにしなければならないのです。そうしないとわたくしは幸せの神になれないのです」
「はあ……」
(神、か。神さまになろうとしている人の願いを叶えないと、ぼくが不幸になる? いや、すでに不幸だ。こんなゴミ屋敷に住んでいるから。どうする? 彼女を入れてやるか? ……いや、まてよ。この部屋を見せれば幻滅して試験会場を変えてくれるかもしれない。よし)
「お気持ちはわかりました。では、どうぞ」
ぼくは彼女を部屋に招き入れた。玄関に入って早々、彼女を出迎えたのはゴミ袋の山だった。狭い玄関に押し込めるかのように置かれている。
彼女は手で鼻を押さえた。ぼくはそんな彼女を見て言った。
「どうですか? 満足しましたか? これじゃあ試験どころじゃないでしょう」
「ほかの部屋も見せていただけますか?」
「え?」
玄関の惨状を見ても引き返そうとしない。それどころか凛とした態度でぼくの顔を見てくる。
「福を置ける部屋か確認をしなければなりませんので」
「そ、そうですか」
そうして、ぼくは部屋を案内した。
ゴミをどかし人がひとりやっと通れるほどのスペースを開ける。彼女に玄関を上がってもらって、まず見せたのが玄関とリビングをつなぐ廊下だ。
基本的にどの部屋にもゴミが山のようにたまっている状態なので、そこを通るにもゴミをどかさなければならない。
「すみませんね。ちょっと散らかっていて」
ぼくがそう言うと彼女は軽くうなずいた。歩けるスペースをつくり彼女を通らせる。廊下を進むと左側にはキッチン、右側には洗面所や風呂場がある。
そのどれもが、ゴミがたまり腐敗臭が立ち込めているのだろうと思った。
ぼくにはいつもの部屋のにおいにしか感じられない。
「そっちがキッチンで、そっちが洗面所と風呂場です」
薄暗い両方の場所を紹介しながら、ぼくは努めて明るく振る舞う。彼女はこくりとうなずいた。
キッチンを眺めたあと風呂場を案内した。中は黒カビが繁殖していて、壁の隅や溝にたくさんついている。洗面具や足場のタイルには水垢や汚れが隙間なくこびり付いていた。
足の踏み場もないくらいにペットボトルの容器が散らばっていて、浴槽の中にもその容器が山のように積んである。
それもそうだ。この部屋に引っ越してきてからの十年、一度も掃除なんてしてないんだから。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




