4. 片付けられない
一日の仕事が終わり家に帰ってきた。
ゴミの山を飛び越えながら自分の座るスペースまで進む。
コンビニで買ってきたペットボトルの飲料水を飲みながら、ふと、昨日うちに来た彼女を思い出した。
名前は小明、年齢はよくわからないがたぶん若い子だろう。巫女の格好してぼくのアパートにたずねてきた。
変な勧誘業者とは関わらないほうがいいと痛感した今日この頃だが、猫の置物が目に留まる。彼女が置いて行ったものだ。『部屋がきれいになればなるほど、幸運を招くようになっています』という言葉を思い出す。
「アホらし」
ぼくは鼻で笑いシャワーを浴びることにした。立ち上がって風呂場に向かおうとしたとき何かにつまずき転んでしまった。
「いって……」
その衝撃でほこりが部屋中に舞い上がる。ほこりというより砂嵐のような舞い方だ。ゲホゲホとせき込みながら風呂場を目指す。
「あっ!!」
立ち上がろとしたとき足に激痛が走った。どうやらさっき転んだせいで足をひねってしまったようだ。呼吸を荒げ、またせき込む。
(……息苦しい)
ぼくは嫌なことを思い出した。
『まず、病気になります。いまは何も感じないかもしれませんが、この部屋にいれば、いずれ体の器官をやられ動けない体になってしまいます』
「まさか!」
ぼくは周りを見た。ゴミ袋の山がぼくを押しつぶそうと迫ってくるように感じる。ゴミに殺される? そんな考えがよぎり、ゴミなんかに殺されてたまるかと自分を奮い立たせた。
「片付けてやる」
そうして、ぼくは部屋をきれいにすることにした。
次の日、会社から帰ってくるあいだ、どうやって部屋をきれいにするか、どこから片付けるかを考えた。しかし、疲れているためそんなことはすぐにやめた。
自宅に着き出迎えるのはいつもゴミの山の玄関だ。ドアを開ければゴミ袋の山が外に出てくる。まるでそこからゴミが抜け出したがるように。
そのゴミを玄関に押し込み中に入る。
帰ってきてまずやりたいことは風呂に入ることだ。風呂といってもシャワーを浴びる程度だが、体だけはきれいにしていたいという気持ちはある。
シャワーを浴び終えて畳一畳もない空間、つまり寝床でくつろいでいると、前に彼女が置いて行った猫の置物が目についた。
ふつうの招き猫は笑っているがこの猫は笑っていない。誰が作ったのか知らないがもっと愛想よく作ってほしいものだ。
(部屋を片付ける、か)
そう思ってはいるがなかなかできない。片付けようという意欲がわかない。昨日決意したことはどこに行ったのか。これだけ散らかってしまうと片付けようということ自体ばかばかしく思えてくる。
ゲームのスイッチを入れる。仕事から帰ってきてやるゲームはとても気晴らしになる。
こうして、部屋を片付けることをやらずに、それすら忘れてひと月が過ぎた。
横になっていると玄関のチャイムが鳴った。時計を見ると午前三時過ぎだ。こんな時間にいったい誰だと思いながらドアスコープを覗くと、巫女の格好した女性が立っていた。
彼女を見たとたん忘れていた記憶がよみがえってくる。
(そうだ! たしか一月後に来るとか言っていたな。留守を使うか。しかし何しにここへ? ……しかたない、出てさっさと帰ってもらうか)
玄関にあるゴミをどかしてドアを開ける。そこにはひと月前に会った彼女が立っていた。
「夜分に申し訳ありません。部屋を拝見してもよろしいでしょうか?」
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