第三話
座り心地が良いとはいえないパイプ椅子に座って、机を挟んで鈴木さんと向かい合っていた。
「ふむ、一階層を歩いていると、突然ゴブリンと遭遇したと」
「はい、ドローンの記録にも残っています」
ダンジョンに入る人間には撮影・配信が義務付けられている。救助の可否を素早く判断したり、未踏領域のデータを保存するためである。
「でも、君は F ランクの冒険者だ。それは間違いないね」
「はい、登録したてなので」
ダンジョン探索する人間は冒険者と呼ばれる。そして冒険者にはランクが存在する。F ~ A までの6段階だ。
F は最弱で、A に行くほど強い。
「F ランクがゴブリンを素手で倒すのは普通ありえない。特別な武術でもやってたのか、よっぽど強力なスキルを持っているのか」
「あ、そういえばさっきスキルが発現しました。冒険者カードのスキル欄には『視聴者応援』って書かれています」
「なんと。珍しいな」
スキルは基本的にモンスターを倒した時に発現する。僕のように戦闘中に発現することは聞いたことがないそうだ。
鈴木さんは、キーボードに素早く文字を打ち込んだ。
「今軽く調べてみたが、未登録スキルだな。ゴブリンを倒せたのは、きっとそのスキルのおかげだな。」
「はい、多分そう思います。スキルが発現した途端、ゴブリンの攻撃が効かなくなったので」
「よかったな」
鈴木さんは、僕に向かって微笑みかけた。
胸がドキドキした。
「ステータスなどに変化があったかもしれないから、後で再検査を受けておいてくれるか」
「はい、わかりました。」
そう言って僕は席をたった。
鈴木さんはそのままキーボードで何かを打ち込んでいた。
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帰り道、バスに揺られながら今日のことを思い出していた。
ゴブリンの醜悪な顔、棍棒に殴られた時の痛み、ゴブリンを倒した時の感触。
そして、謎のスキル「視聴者応援」。
僕は強くなったんだろうか。
あの後受けた再検査では、筋力などに変化はなく、診察した医師も困惑していた。
なんで F ランクの僕が素手でゴブリンを吹っ飛ばせたのか。
わからないままだ。
そんなことを考えながら手をポケットに入れると、財布に手が当たった。
財布の中には少しばかりのお札が入っている。
ゴブリンの魔石を換金したお金だ。ゴブリンなのであまり大した額にはならないが、妹の目先の薬代くらいにはなりそうだった。
僕の妹は、難病で入院している。父は僕らを見捨てて出ていった。母と二人で今は暮らしている。
母のため、妹のため、僕はお金を稼がないといけない。
たとえ今回のが偶然でも、やるしかない。ダンジョンで大金を稼いで、妹を完全に治すための手術代を稼ぐのだ。
僕はそっと外を見た。
まだまだ目標までは遠い。
また、潜るしかない。




