第四話
今日、僕は別のダンジョンに来た。
電車代が勿体無かったが、前と同じ八王子の初心者ダンジョンに潜るのは少し怖かったのだ。
だから今日は遠出して、わざわざ日本最大級のダンジョン、新宿ダンジョンに来た。
「気をつけてくださいね」
受付のお姉さんの挨拶に頷いて、ダンジョンの入り口に向かう。
入り口に入ると、ドローンを起動する。
> 待ってました!!
> 今日も素手でゴブリン倒すの楽しみにしています!!
> ワクワク
あっという間にコメントが流れ出す。
少し目をぱちぱちと瞬かせる。
僕の配信チャンネルの登録者なんて一人もいなかったはずだ。
慌てて確認すると、登録者は 500 人に増えており、そして配信になんと 58 人も来ていた。
「皆さん、チャンネル登録ありがとうございます」
少し声が震えてしまった。
まさか、こんなに早く、たくさんの人に見てもらえるようになるとは思っていなかった。
この世界では、ダンジョン配信は一大エンタメである。
しかし競争が激しく、視聴者数 0 なんてのもザラである。
僕はこんなに多くの人に見られると思っていなかったので、震えていた。
> 今日もゴブリン倒すんですか?
そんなコメントが来ていた。
「いえ、今日は出会わない限りゴブリンと戦う予定はありません。初めてきたダンジョンですしね」
一応、防具を整え武器になる鉄パイプを持ってきたのだが、やむをえない限り戦闘するつもりがなかった。
> 残念!遭遇することを願っています
そんなコメントが流れていった。
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新宿ダンジョンは広かった。
通路の乾燥した感じは八王子ダンジョンと同じだったが、天井は高く壁の光がギラギラと明るかった。
ゴクリ。
モンスターがいつ出るかわからない。
慎重に進んでいく。
がさっ。
角の向こうから、音がした気がした。
嫌な予感がする。僕は顔を顰めた。
他の冒険者であってください。
ゴブリンは嫌だ。ゴブリンは嫌だ。ゴブリンは嫌だ。
そっと角から目だけ出してみてみた。
正解はゴブリンだった。
> おお、戦闘が見れる!
> バーサーカー!バーサーカー!
> 素手での戦闘、待ってますw
今なら気が付かずに帰れる。そんなことを思ったが、コメント欄を確認するともう戦闘を望む声で盛り上がっていた。
> 1000 勝ったらもっとスパチャします!とりあえず 1000 円!
> 300 頑張って!!
スパチャが飛んできている。
うう。
お金をもらっているのに逃げるのは卑怯者な気がする。
でも、戦えるなら妹のためになる。
少し戦ってみて、それでダメだったら逃げよう。
僕はため息をつくと、覚悟を決めた。
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僕の武器を確認しよう。
ホームセンターで買った鉄パイプ君。価格 3000 円なり。
昨日かなりの額のスパチャが入ったので、買うことができた。
さて、こいつで一発分殴ろう。そして、ダメだったり避けられたら逃げよう。
僕はそう決心する。
もう一度、角から目を出してみると、やっぱりゴブリンはそこにいた。
小さく息を吐く。
行くぞ行くぞ行くぞ。
そう自分に言い聞かせて角から出た。
先手必勝。
角の向こうに、僕は一気に出た。
ゴブリンはぼーっとしていて、こちらをみてビクッと棍棒を構えようとした。
遅い。
僕は横薙に鉄パイプをゴブリンの体にぶち込んだ。
ぐちゃり。
骨の折れる音がするとともに、ゴブリンの体が吹っ飛んでいった。
どさっ。
ゴブリンが地面に叩きつけられ、白い光になって消えた。
こうして僕の二回目の戦闘は終わった。
あれえ。
> え、普通に強い
> 鉄パイプでゴブリン吹っ飛ばすFランクとは
> 登録した
視聴者数が、58人から120人に増えていた。
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なんでだ。
僕は自慢じゃないが、体育の成績は 4 / 5 だった。
つまり、成績が悪くないけど、超いいわけではないってこと。
ゴブリンをこんなに吹っ飛ばせる力が、あるわけない。
ということは、犯人はこいつか。
スキル「視聴者応援」
僕に発現した謎のスキル。
察するに、視聴者となんらかの関係があるらしい。
仮説としては、視聴者の応援が多いほど、強くなれるというもの。
そういえば、前にゴブリンを倒した時よりも力を感じなかった。
あの時はもっと視聴者がいた。
もしかして、視聴者数と関係しているのかもしれない。
視聴者が多いほど、力が強化される。そんな気がする。
僕はゆっくりと息を吐いた。
> 500 ゴブリン討伐おめ
> 1000 鉄パイプ最強w
> 400 おめでとうございます!
僕を讃えるコメントが流れていく。
この力があれば、いけるかもしれない。
最弱判定された僕だけど、ここから成り上がれるかもしれない。
僕は通路の先を進み始めた。
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ぶっしゅ。
ゴブリンの首が吹っ飛び、体から血が流れ出す。
ゴブリンが倒れる音がする。
これで3体目だ。
ゴブリンはワンパンで倒せることがわかった。
> もっと強い敵と戦うところみたいな
> 主 F ランクでしょ?これ以上強い敵と戦うの、殺す気?
そんな声が流れている。
どうしようか。
そんな風に悩んでいると、通路の先に下層へ続く階段が見えた。
行ってしまうか?
強い敵を倒したら、もっと稼げるかもしれない。
僕はなんのために来たんだ。稼ぐためだろう。
逃げ道は確認してある
無理ならすぐ戻る
2層までならギルド許可範囲
いくしかない。
僕は黙ってゆっくりと階段を降りた。
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階段を降りると、そこは別世界であった。
というのは、嘘。
1層と同じような光景が目の前に続いていた。
ただ、空気が張り詰めているような気がした。
> F ランクには荷が重いんじゃ?
> 大丈夫か〜
> 戦闘希望!
コメント欄も、緊張感が少し増してきたみたいだ。
小さく息を吐く。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、僕は進み始めた。
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少し歩くと、目の前にゴブリンが立っていることに気がついた。
慌ててそこにあった通路に入る。
そーっとのぞいてみる。
黄色い目、緑色の顔、尖った爪。
ゴブリンの特徴だ。
でも通常のゴブリンより一回り大きく、棍棒の代わりに錆びた剣を持っている。
ホブゴブリンだ。
オーラが違う。
僕は少し息を呑んだ。
> ホブゴブリンだ
> こいつは強いよ
> お手並み拝見
コメント欄も盛り上がっている。
どうしよう。倒すか、戻るか。
僕は少し迷った。
里奈の顔が僕の心をよぎった。
お金を稼ぐには、視聴者を盛り上げるしかない。
そのためには、多少強くても戦うしかない。
ダメなら逃げよう。
僕は少し長めに息を吐いた。
行こう。
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僕は通路から出て走り出した。
> お??
> 1000 行くのか!!頑張れ
> さて、どんくらいで勝てるのか!
コメントが流れていく。
ホブゴブリンがこちらに気がついた。剣を構えた。
嫌な汗が僕の背中を流れる。
けど、足は止まらない。
勝負だ。
視聴者の数が増えていく。
120、130、140、150 人。
いくぞ。
ホブゴブリンが剣を振り上げる。
僕も鉄パイプを後ろに構え、思いっきり振った。
剣が吹っ飛ぶ。
チャンスだ。
そう思って、そのまま鉄パイプを再度勢いをつけて、ホブゴブリンの脳天に叩き込んだ。
ぐしゃり。
ホブゴブリンの首が体にめり込んだ。
そして光になって消えた。
> 300 つっよ
> 5000 ホブゴブリンも圧倒してる!
> 1000 ランク F じゃねえだろw
はあ、はあ。
息が上がる。けど、倒せた。
僕はどすんと、尻を地面につけ座り込んだ。
手汗が今になって出てきている。
握りしめた手の平を、ゆっくりと一本一本指を開いていく。
大丈夫だ。
勝てる。




