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Solomon's gate (試作_7回目失敗)  作者: にしてつ
第一章 森の中の死体
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戦い

 アマンダは自殺を考えながら泣いていた。

 尖塔の屋根の縁に引っ掛けた足は幾度の痙攣と激痛に耐えかねてもはや感覚はなかった。闇夜の暗黒に閉ざされた砦は地面すら見えず、アマンダは世界の暗黒にひとり取り残されている感覚になっていた。

 彼女は塔の窓からオークの蛮行を見ていた。母は喉を引き裂かれ殺された。そして焼かれて食われた。

 父はアマンダをこの塔に押し込んだとき、ドアの向こうでオークの大槌で叩き潰されて死んだ。

 兵も女中もみな殺された。

 今アマンダは暗闇に一人だった。兵舎に潜んでいたあの人は今どこにいるのだろうか。彼は身振りでここに待つように言った。しかし、彼一人でこのオークの群れの中なにができるのだろうか。

 足のしびれはもはや限界に達し、右のふくらはぎがまた痙攣を起こし始めた。彼女は息を殺して激痛を噛み殺したが、もはや意志の力はもう殆ど残っていなかった。彼女は再び地面を覗き込んだが、暗闇の底にはなにも見えなかった。

 もはや死んでしまおうと彼女は目を閉じ,徐々に体重をつま先にかけた。胃がせり上がり息ができなくなった。彼女は首をもたげ意志の力を集め、暗闇の底に身を投げようとしていた。

 次の瞬間、闇夜に突如閃光が走った。

 西の城壁の屋上からいくつもの発火炎が瞬いた。そして耳をつんざく爆発音が闇夜の静寂を裂いた。暗闇のどこかで姿の見えぬ鳥が羽ばたいた。

 銃声が深いくさび形の谷間に幾度も幾度も反響した。

 そして闇夜の底からオークたちの悲鳴とうめき声が上がった。

 兵士たちの反撃が始まったのだ。

 次の瞬間、彼女の襟首が何者かに掴まれた。そして屋根瓦に身を押し付けられた。

 アマンダは手では口をふさがれた。汗の塩気がアマンダの唇を濡らした。男の顔が直ぐ側で人差し指を立てしゃべるなと合図した。

 男の首元から汗の匂いが漂ってきた。彼は細い女性的な首を持っていた。長いまつげのしたの真っ青な目と正面から見つめ合った。

 彼はゆっくりと口元から手を離して言った。

「あなたを助けに来ました」


 彼は尖塔をぐるりと廻り塔の先端に縄を引っ掛けた。そして彼女の体を縄に結んだ。彼は小さな礫を2つ地面に落として合図した。すると少し縄が緩んだ。

「ゆっくり体重をかけて」男はいった。男の金髪が櫓の炎に金色にきらめいていた。顔の半分は影になって見えなかった。

 彼女は言われたとおり縄に体重をかけた。そして宙に足を浮かせた。体を支えるものがなにもなくなっとき、彼女は恐怖心でパニックに陥った。彼女は目を閉じひたすら時間がすぎるのを待った。銃声と剣戟の音が直ぐ側の闇から響いてきた。彼女の心臓はせり上がり、腕はわななき恐怖で身動きが取れなくなった。彼女は首をせばめひたすら時間がすぎるのを待った。そして気がついたときは地面に下ろされ、二人の男に介抱されていた。

「お嬢ちゃん、もう大丈夫だ。」濃いひげの体の大きい男が言った。北方人特有の彫りの深い顔と毛深い腕をしていた。もうひとりの男が彼女の縄をはずしていた。彼も背が高く痩せて尖った鼻をしていた。男は縄をはずし終わると、その縄を大く揺らして合図した。縄はまた上に引っ張られていった。

「ありがとう」アマンダは言った。太い男は、手振りでアマンダに伏せろと命じた。

 やがて縄が再び引っ張られ緊張した。た。男二人は紐に体重をかけると、ゆっくりと上の男をおろし始めた。

 彼女は思考が定まらないまま男たちの行為を見守っていた。

 その時塔の影から物音がした。そして明かりが近づいてきた。彼らは凍りついた。痩せた男は手振りでアマンダに縄を支えるよう指示した。そして剣を抜き腰を落として物陰からくるなにかを待った。


 それは胴鎧を着込んだオークだった。右手に短銃をぷらぷらと下げた、顎の肉が肥えた間抜け面の太いオークだった。ゲイルは呼吸を殺してオークの懐に潜り込むと一閃刃を下から首元に突き刺した。オークは目玉を剥き驚愕の表情で刃を見下ろした。開いた口の乱杭歯の隙間からゲイルの剣先が銀色にきらめくのが見えた。オークはカンテラを取り落した。蝋燭が倒れ明かりが消えた。ゲイルは素早く剣を引き抜くと喉仏のふくらみの真下を再度突き刺した。それでもなおオークの喉を潰すのに十分ではなかった。

「ぐおおおおおおおお!!!」オークが血の泡に溺れながら濁った雄叫びを上げた。

 その雄叫びはこだまとなって谷間の隘路を幾度となく反響した。そして一瞬の静寂があった。このまま何も起きないのではないかという期待。

 中庭で騒ぐオークたちの声が、大きくなりこちらに近づいてきた。

 ゲイルは一瞬ためらった後指笛を鋭く吹いた。

 途端北の城門の方で大きな物音がした。そして激しく剣を打ち合う音が聞こえてきた。兵士達が囮として騒ぎを起こし敵をひきつけているのだ。

 ゲイルは上を向いて小声で叫んだ。「アイル、急げ!」

 次の瞬間、近くで何かが砂利を踏みしめる音がした。ゲイルは身構えた。痩せたオークが建物の影からぬっと顔をだした。その頭には分厚い鋳鉄製の兜がかぶさっていた。

 オークは3人を一瞥すると、剣を抜き放ち、縄を支えて身動きの取れないヤゴーに切りかかった。

 ヤゴーは片手で剣を抜きオークの剣を受け流した。オークの分厚い鋳造の剣はゲイルの両手剣の刃先を走り激しい火花が散った。そして重い剣同士がぶつかり合う硬い金属音が闇夜に響いた。鍔迫り合いに震える剣をオークはその膂力で押し込み、鈍い刃先がやゴーの頬を割いた。「アイル急げ!」ヤゴーが鋭く叫んだ。すると手に持った縄がゆるんだ。おそらくアイルが壁に取り付いたのだろう。ヤゴーは縄を放し両手で剣を握り直すと、オークの剣を押し返した。そして鋭く上段に振りかぶり全力で剣を打ち下した。

 オークは籠手で剣を受けた。そして返す刀で大股で踏み込んで下段に剣を突き出した。剣はヤゴーの右足に突き刺さった。ヤゴーは片膝をつき崩れた。

 その時、闇夜に気配を消していたゲイルがオークの右目にむかって鋭く突きを入れた。

 しかしオークは首をそらして頬で剣先をうけた。剣はオークの頬を突き破った。その剣の腹をオークは歯でがっちりと咥え込んだ。硬い臼歯には挟み込まれ剣は抜けなかった。

 オークは手首を返しゲイルに向かって剣を払った。ゲイルは剣を手離して飛び退いた。

 オークは再びヤゴーに向き直った。そして剣を高々と掲げ今まさに打ち下ろさんと振りかぶった。

 そのとき、オークは頭頂をなにかにぶん殴られ、ラフラとよろめき片膝をついた。アイルが壁から飛び降りそのままオークの頭を全力で踏み抜いたのだ。アイルはそのまま地面に転がり受け身をとった。

 だがアイルの会心の一撃も分厚い鋳鉄製の兜と野太い首に守られ致命傷足り得なかった。オークはやがて立ち上がり剣を構えた。

「逃げろ!」アイルが叫んだ。ヤゴー達は瞬時に反応して逃げ出した。オークもそれに反応しヤゴーたちへ向かった。

 しかしアイルはダマスカスの刃を抜き放つと、素早い踏み込みで切っ先をオークの太ももを突いた。

 オークはくるりと振り返った。しかし一瞬の逡巡のあと、やはりヤゴーたちを追う素振りを見せた。

 アイルは再び音を立てて踏み込んだ。つられてオークは振り返った。

 アイルは右手をひょいひょい掲げて挑発した。

 オークは僅かな予備動作で瞬時にアイルに襲いかかった。

 アイルは身を翻して居館の裏側へ走った。

 オークの巨体が地面を踏み込む大きな音が見の真後ろまで迫っていた。しかしアイルは振り返らない。

 アイルは居館をぐるりと一周して再びヤゴーたちの後を追った。

 ふとアイルはオークの足音が消えていることに気づいた。

 次の瞬間右手側から突如出現したオークは剣を上段に振りかぶり全力で撃ち込みに来た。

 これを受けることはできない。アイルは瞬時にそう判断した。

 そしてむしろ強く剣の間合いに踏み込むと、身を捩りスライディングして地面スレスレを通り抜けた。

 剣戟がアイルの頭髪をかすめた。

 穿たれた地面から小石がはねてアイルの後ろ首にあたった。

 アイルは体勢を起こすと、振り返らずに全速力で兵舎に向かって走った。




  突然の銃撃が鳴り止んだあと、緑青は静かに伏せた体を起こした。彼の太い右腕には穿孔が2つ空き、赤黒い粘度の高い血が吹き出していたが、今は気にしなかった。

 広場は仲間の死体とうめき声で覆われていた。彼は立ち上がり、息のあるものを壁際まで引張ったあと、武器庫へ向けて走り出した。

 武器庫の前には、すでに何体ものオークが扉の前に集まっていた。しかし、なぜか扉を開けるのに手間取っているようだった。

『どけ!』と言い緑青は下っ端を引剥がし、自ら扉に手をかけた。しかし、一度壊したはずの閂がなぜか再びかけられており、扉は小さくガタガタと揺れるだけで開くことはなかった。

『下がってろ!』緑青はそう言うと、少し距離を取り、全力で肩から扉に突進した。

何かが弾け、観音開きの扉は轟音とともに勢いよく開いた。

その刹那、緑青は見た。

暗い倉庫の真ん中に鎮座する、樽と、短銃と、切っ先をこちらに向けて床に並べられた、二十数本の抜き身の剣を見た。

 そして観音開きの右手の扉から伸びる縄が、樽の上に固定された短銃の引き金を引き、打ち下ろされたフリントが火花を擦り上げる様を。

 彼は何度も同じ光景を見てきた。それは彼の愛銃だったから。

 瞬間悟る。

 この罠の構造を。

『伏せろ!!!』緑青は腕で顔を覆い、倒れ込みながら叫んだ。

 直後、爆発と閃光が周囲を包んだ。臨界音響を超えた衝撃波が鼓膜と三半規管を激しく追檄する。粉砕された石畳の破片が千もの礫となって下肢を穿った。

 緑青は激痛に歯を食いしばり目を強く閉じた。

 やがて緑生はゆっくりと目を開けた。眼前には四柱の根本だけを残して吹き飛んだ倉庫と、パラパラと舞い落ちる石壁の破片と、あとは灰色の混凝土のつるんとした城壁だけが見えた。

 緑青は立ち上がり振り返った。彼の背後には膝から上が吹き飛んだ同朋の死体と血の海だけが残されていた。

 武器庫前に集ったオークは彼以外の全てが死んだ。

 緑青は慟哭の叫びを上げた。

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