砦は燃えていた
やがて北部連隊の守護するパルパット城塞の尖塔が見えた。砦はウルゴーン山脈を住処とするオークの侵入を防ぐために谷の隘路に立てられた古い砦だった。混凝土で造成された分厚い白い壁が深い谷の斜面から天空に向かって屹立していた。
今その砦からは火の手が上がっていた。
破壊された城門の落とし格子に衛兵の死体が寄りかかっていた。その手前には矢の刺さった緑色のオークが四肢を投げ出して死んでいた。壊された荷車の破片は荷台の小麦を撒き散らし黒く焦げてくすぶっていた。城門の奥からはさらに黒い煙が立ち上り外から中の様子を探ることはできなかった。風に乗って人肉の焼ける甘い匂いが漂ってきた。
城門の側塔の窓から首をくくられた死体が吊るされていた。そして胸壁の狭間から突き出されたパイクの先には串刺しにされた兵士の生首が掲げられていた。
オークは煙の吹き上がる城門をくぐった。アイルたちは森に入りしばらく様子を観察した。
「俺が行く」アイルは言った。「都合よく体が濡れてるし。正面の煙を突っ切る。塔に登ったら上から縄投げるわ」
年長の二人はうなずいた。アイルは縄を荷袋に入れると堂々と城門へ向かった。
城門からは、火薬でも燃えているのだろうか、黒黒とした煙が勢いよく吹き出していた。アイルは口元に布を巻き灰塵除けを作ると、姿勢を低くし煙の中に足を踏み入れた。高温の空気がアイルの肌を焼いた。彼の金髪に火の粉が燃え移り黒い焦げを作った。まだ燃えさしが残る床に足を踏み入れ、黒煙のわずかな隙間から城の内部を見た。
門を入ってすぐの、おそらく衛塔であろう小さな小屋の前に、巨大なハルバードを抱えたオークが2匹立っていた。右手を見ると、側塔の扉が開け放たれて開いていた。
アイルその場でしばらく待った。床に散らばる材の燃えカスがアイルのくるぶしを焼いた。やがて衛兵がどこかへ行くと、アイルは素早い足取りで側塔の内部に飛び込んだ。
塔の内部は暗く、ひんやりとして湿っていた。彼は螺旋階段を音を立てずに登った。すると二階に何者かの気配を感じた。ゆっくりと階段を登ると、オークの兵士が巨体を椅子に預け、ふんぞり返って眠っていた。足元には酒瓶が大量に転がっていた。アイルは彼を無視し、三階へ続く階段を更にのぼった。
三階には誰もいなかった。窓には兵士の死体がぶら下がっていた。彼は兵士の脇から手を突き出し、外に向かって合図を送った。そして窓の枠からロープを下ろした 。ヤゴーはその巨体に似合わぬ俊敏さで一気に城壁を登り、ひらりと音もなく着地した 。ゲイルもその後に長い手足を使い続き静かに壁を登りきった。
三人はさらに階段を登り四階へ上がると、回廊に出て頭を少し出して城の内部をのぞいた 。中庭があるであろう城の中央部では大きな煙があがり、そこで何かが燃やされていた。しかし手前の建物が視界を遮り南の回廊からでは何が起こっているのか見通すことはできなかった。アイルたちは東の回廊へ移動した。
東側の回廊にも敵の気配はなかった。右手には山の斜面が直ぐ側まで迫っていた。しかしここからでも建物に阻まれ内部の様子を観察することはできなかった。
城の東側には兵舎の大きな建物が城壁の際まで迫って建てられていた。小窓までは六フィートほどの距離しかなかったので、アイルは手で合図すると、勢いをつけて兵舎の小窓に飛び込んだ。ヤゴーとゲイルがその後に続いた。
三人は忍び足で窓に寄ると、息をひそめて中庭の様子を観察した。
広場ではオークたちの宴が催されていた。宴の晩餐は人間だった。
砦の中庭では人間が食われていた。それもただ食われていたのではない……人間が料理されていた。調理されていたのだ。
口から肛門まで串刺しにされた人間が、豚の丸焼きのように手足を木の棒に括られて 熾火の上に掲げられていた 。
その奥では血抜きのために首を切られた人間の死体がいくつも逆さまに釣られていた。そのさらに隣では裸に服を剥かれた女の死骸が内蔵をえぐり出された後、中に野菜か何かの詰め物をした後紐で再び傷口を閉じられていた。そして表面に黄色い脂を刷毛で厚く塗りたくられていた。
オークたちは大きな酒樽で乾杯の音頭を取ると、ヒトの丸焼きにかぶりつき、鋭い犬歯でその肉を引きちぎった。
アイルはその地獄絵図に動揺した。広場の中央に女が引き立てられてきた。その女は丸裸にされ、大声で男の名前を泣き叫んでいた。彼女は大きな壺の前に立たされた……壺には溢れんばかりに血が溜まっていた。女は髪を後ろ手につかまれ首を反らされると、剣で喉を一線に断ち切られた。決壊した土石流のように頸動脈から血が吹き出した。女は首をサバ折りにされると、逆さに宙吊りにされ血の一滴まで搾り取られた。
そのとき城塔の扉が開き、巨大なオークが姿を表した。その右手には誰かの生首が握られていた。宴をしていたオークたちは一斉に立ち上がり静まり返った。
それは異様なオークだった。ほとんど逆三角形型の異常に広い肩の上に小さな頭が乗っていた。その鬣は緑色に染められており、ながい下顎の犬歯は額に届くほど長かった。彼は手振りでオークたちを座らせた。そして何か話すと、オークたちは爆笑の渦に包まれた。
アイルはその様子から目をひきはがし、北側の城壁に開いた大穴に目を留めた。おそらく大砲の砲撃で穿たれたであろう穴の周りに、崩れた城壁の積石が細かい瓦礫の屑となってうず高く積もっていた。6フィート幅を有に超える混凝土の城壁をここまで破壊するなど一体どれほどの威力の大砲なのだろうか。アイルは中庭に鎮座する緑色の大砲の大筒を眺めた。
「ガキがいる」ヤゴーが低い声で言った。北側の城門の手前の荷車に、縄で縛られた子供が四人座っていた。
あの子供も食われるのだろうか。それともどこかへ連れ去られるのか?
アイルが彼らを見つめていると、一人が顔を起こして薄緑色の大きな瞳でこちらを凝視した。二人の視線が交わった。彼は、たしかにこちらに気づいている。…しかし、そのうちぷいと顔をそらしまた荷台にうつむいてしまった。
「あい、あそこを見ろ」ゲイルが右の空中を指差していった。指の先を追うと居館の尖塔があった。その尖塔の下の小窓から女が這い出てきた。
紅い色の髪をした女だった。アイルはその女に見覚えがあった。
「あれは、確か砦の領主の娘……?」アイルが言った。昔、北部連隊が村の視察に訪れたときに彼女を見かけたことがあった。父親と同じ真っ赤な色の長髪をしていた。確か村長になにか相談事があるとかで衛兵を十人ほど連れてやってきたのだ。そのとき連隊長は村長に片膝をついてなにか頼み事をしていた。その時はじめてアイルは村長がかつて高名な魔術師であったことを知ったのだ。
女は窓枠の縁に足をかけると、身を乗り出し、尖塔の屋根の縁に掴まり懸垂で体を持ち上げた。そして急峻な屋根の縁によじ登ると、小さな足場に足を引っ掛けかろうじて立った。屋根から地面までは六十フィートはあった。女は屋根瓦によりかかり息を潜めた。するとオークが部屋の奥から真下の窓から顔を突き出した。首を振り左右を睥睨した。するとその様子を見ていた広場から笑い声が響き、そのうち一匹が上を指差した。尖塔のオークはアタマをねじり、屋根上に潜む女を認めた。女はその頭上で震えていた。そして瓦に頬を押し付けさめざめと泣き出した。
オークは広場になにかサインを飛ばし笑っいた。そして窓を締めた。おそらく女が落下するまで見物して慰み者にする気だろう。
「助ける」ヤゴーが突如言った。「ガキも女も」
「助ける?どうやって?」ゲイルが言った。
「わからん。壁をよじ登る。縄もってきてるだろう。下で俺達がひきつけてる間にアイル、お前は壁を登って女を助けろ」
「ダメだ」ゲイルが首を振って反対した。「危険すぎる」
「だがあの兵士には義理立てがある」ヤゴーは強く言った。ゲイルは押し黙った。「陽が落ちてから行動しよう。なんとかあの女に合図できるか?」
アイルは短剣を抜いて陽にかざした。そして刃を鏡のように反射させて女に光を当てようとした。そうしてしばらく刃を細かく動かした。
女がこちらに気づき、アイルたちの方向をまっすぐと見つめた。
アイルは中庭から見えないよう部屋の奥へ少し下がると、立ち上がり姿を現して手を振った。そしてそこにとどまるよう手で合図した。女はうなずいたように見えた。
「夜まで待とう」ヤゴーが言った。「他に生き残りがいるかもしれん。手分けして探そう。アイルは塔を観察して登攀ルートを予め決めるんだ。じゃあ一旦別れるぞ」
3人はその場で一時別れた。アイルは荷袋から縄を引っ張り出し傷がないか調べ始めた。そして明るいうちに壁面に目を凝らした。
ヤゴーは砦を出ると谷底の渓流へと降りていった。ゴツゴツした岩陰に身を隠しながら、水辺を素早く上流へ走った。
ヤゴーは残存兵がいるのならば対岸の森の中だろうと当たりをつけていた。鬱蒼とした森は身を隠しながら城の様子を確認できるし、オークの巨体には身動きが取りづらく戦闘に有利だろうと踏んだからだ。
やがて城を通り過ぎ砦より上流に出た。するとその時、赤い鎧を纏った騎兵が荷車を先導して城門から出てきた。ヤゴーは岩の陰に身を隠し様子を伺った。遠目に見てもその巨体は並外れていた。赤い肌をした騎竜のようなものにまたがっていたが、ゲイルの見たことがない種族だった。谷の下からは視認できないが、荷車には捕らえられた子供達が乗っているはずだった。
ヤゴーは歩幅を強めた。荷車に先行し機会があれば襲撃するつもりだった。
その時ヤゴーの足元に小石が跳ねた。
ヤゴーが振り返ると、対岸の森から兜を抱えた兵が手招きしていた。鎧は光を反射しないよう泥で塗りたくられ茶色く乾いていた。
ヤゴーは細い渓流を三段飛びで一気に渡りきると、そのまま走って森の中下生えに突っ込んだ。
「城の兵か」
「そうだ。お前は」
「南のスホルト村から来た猟師だ」
「そうか」兵士を短く答えた。「中はどうなっていた?」
どうやら南門から出るところから見られていたらしい。「どいつも捕まって皆殺しにされてるよ。子供があの荷車に乗せられてる。追いかけるぞ」
「俺もそうしたいのは山々だが、やつらについては”手”が追跡している」
「”手”?」
「中央からやってきた斥候兵だ 。 俺も詳しい事は知らんが、追跡は全て”手”の人間に任せて一切追うなと厳命されている」
「何?…中央と言ったな。昨日の今日でなぜ中央から兵士が出張ってくる?」
「知らん」
「ガキが攫われてるんだぞ?指を咥えて見ているつもりか?お前の知り合いもいるんじゃないのか?」
「いない!前線基地に子供なんかいるわけ無いだろう!」
「なんだと?」
「あの子らは三日前にここにきたんだ」
「何?なんのためにだ」
「知らん」兵士は一旦言葉を切った。「ソートンは分かるか?」
「ずっと東の村だろ?二年ぐらい前にオークに襲撃された」
「そうだ。そこでは大人は皆殺しにされたが子供の死体はなかった。攫われたんだ」
「知ってるよ。だからガキは南に避難させてるんだろ」
「そうだ。だからここにも子供はいないはずだった。アマンダ様以外は……」
「アマンダって領主の娘だよな……待て。てことはあのガキどもは囮ってことか?」
兵士は黙ってうなずいた。
「ふざけるな。お前そんなこと許せるのか?仲間もぶっ殺されてんだろ?」
「許せるわけないだろ!だが一介の兵卒に何ができる!」
「囮ってなんのための囮だ。オークの巣でも見つけようってか?」
「巣という規模じゃないだろう。あれは軍隊だった。新しい大砲もあった」
「あのでかい大砲のことか?やつらみたこともない銃も持ってたな」
「ああ。奴らは遠くから来てる……ローデシアは分かるか?」
「山脈の向こうの大陸だろ?なんとかとかいう滅びた王国があるとかいう」
「多分奴らはローデシアから来てる。赤竜を避けてこっちに来るなんらかのルートがあるんだろう。多分中央はそれを探してるんだ」
「無駄話はその辺にしておけ」森の奥から細身の甲冑に身を包んだ男がやってきた。目深にかぶった兜に遮られて目の表情は見えなかった。美しい金の装飾が施された黒い鞘を身に着けていた。おそらく階級の高い騎士だろう。
「中の様子を話せ」
「兵士は皆殺しにされてる。女は中庭で料理されて食われてるよ。鬣を緑色に染めたオークが乾杯の音頭を取ってた。」ヤゴーが応えた。
「そいつは”緑青”だな。ここらの遊撃隊の長だ。そいつには散々辛酸を嘗めさせられてきた。」騎士は唇を噛んだ。「乾杯といったな。酒でも飲んでいたか?」
「酒樽に血を溜め込んで飲んでたよ」
「それはぶどう酒と混ぜてるんだろう。そうか、やつら我々が逃げたと思ってるんだな」
「実際尻尾巻いて逃げてるだろうが」ヤゴーは嫌味の一つでも言いたくなり噛みついた。
泥の兵士が怒って応えた。「あのな、武器庫がなぜか内側から閉じられてたんだよ。斧でぶち開けたときにはもうオーク共が城になだれ込んでたんだ」
「そのとおりだ。城内に裏切り者がいる……」騎士は言った。「だがそいつの目星は付いている。兵士の死体は何体見たか?」
ヤゴーは記憶の中の死体を数えた。「南門の死体は五体、中庭で焼かれてたのは大雑把に言って十体ぐらいだろう。」
「我々守備隊は四十二人だった。森には十二人残っている。残りはおそらく地下牢に閉じ込められているのだろう。北西側の側塔の地下だ」
「逃亡兵がいなければの話だろう?」ヤゴーはまた鼻を鳴らした。「そうだ言い忘れてた。赤い髪をした娘が居館の屋根に隠れている。領主の娘じゃないかと思うんだが……」
「おそらくそれはアマンダ様だ。そのとおり、連隊長の娘だ」
「あともうひとつ。赤い鎧をつけた巨人オークがガキどもを連れて北へ向かった」
騎士と兵士は顔を見合わせた。「そいつは”彗星”と呼ばれている……よくそいつに見つからなかったな」
「俺は猟師だからな。身を隠すのには慣れてる」
「そうか。そいつが砦から去ったのなら勝算はあるだろう……」
「俺は一旦東の城に戻る。あとで東壁の裏手の山で落ち合おう」ヤゴーはそう言い立ち上がった。
ゲイルは兵舎の一階へ降りると城壁に面した窓から外へ出た。陽の差さない細い通路は湿って所々コケが生えていた。
彼は建物をいくつか通り過ぎると、北東に鎮座する倉の裏手にやってきた。そして細かい石積みの壁に指をかけ、裏手の細い窓から倉庫内部に飛び降りた。
まず目についたのが破壊された扉だった。手前の床には2つに折られた閂とその木片が散乱していた。扉には大きな斧か何かで穿たれた深い傷跡が何本もついていた。
ゲイルは扉の中に足を踏み入れた。そこは武器庫だった。整然と並べられた長槍やハルバードやマスケット銃などの奥に、大きな火薬樽が三つほど保管されていた。
この武器庫の中身はほとんど使用されていないようだった。
推測するに 、砦が襲撃された際に何者かに内側から閂が下ろされ、武器庫を開けられなかったのではないだろうか。そして斧で扉を破ったが間に合わず、砦は落とされた。つまり内通者がいるということだ。ゲイルは武器庫の奥に進みマスケット銃を手にとった。
その時、何者かが扉の向こうからやってくる音がした。ゲイルは火薬樽の陰に身を潜めた。
灰色のローブに身を包んだ白髪の老人が部屋に入ってきた。彼は派手な装飾をつけた十字架の杖でこつこつと床をついきながら部屋の中央までやってくると、ゆっくりと部屋中を睥睨した。何か不審さを感じ部屋の隅々まで目を凝らしていたが、ゲイルには気づかないようだった。
こいつは誰だ?なぜ堂々と倉庫に入れる?果たしてこいつが内通者だろうか。
彼に続いてより太く大きい足音が階段を降りてきた。
首をすくめて門扉をくぐり部屋に入ってきたのはさっき見た緑に鬣を染めたオークだった。ゲイルは近くで見て改めてオークの強さを感じた。いきり立った逆三角形の肩の筋肉は他のオーク共より二周りも大きかった。普通のオークよりも肌の凹凸が深くゴツゴツとしていた。そして太い二の腕には黒い入れ墨を入れていた。
オークと老人は小声で何かを話していた。その右手には例の新方式の短銃が握られていた。
「それで?例の話は考えてくれたか」老人が言った。
「何の話だ」乾いた重低音の声でオークは言った。それは竜の唸り声にも似ていた。
「貴様に魔法を授けると言ったろう」
「断る。人の術などいらん」
「君はクワナンの力を見て、あれが欲しいと思わんのか」
「人の術などいらん」オークは繰り返した。
オークは 短銃を棚に預けると、大振りのハルバードを3本束ねて部屋から出ていった。それに続いて白髪の老人も部屋を出て行った。
ゲイルはしばらく間をおいてまた動き出した。彼は火薬樽の蓋を開け中を確認した。樽の中はやはり満杯の火薬で詰まっており、使用された形跡がなかった。彼はこいつの使い道を考え始めた。
やがて夜の帳が降り、谷間の砦は深い暗黒に包まれた。新月の夜の森において、城壁のやぐらの炎の他には、あたりを照らすものは何一つなかった。あいかわらず森は死んだように静まり返っていた。ただ谷底の渓流のせせらぎだけが絶えず静かに響いていた。
アイルは城の裏手の森の中で時が満ちるのを待っていた。
森の奥から甲冑の足音が聞こえてきた。ヤゴーが落ち延びた残存兵を引き連れて戻ってきた。兵士はわずか十五人だけのようだった。その中の一人の騎士が進み出た。彼は40手前ほどの顎髭を蓄えた細面の男だった。彼はパルパット守備隊の隊長でジークラットと名乗った。
「アマンダ様が生きておられると聞いた」ジークラットがいった。
「そうです」アイルが答えた。「あの尖塔の屋根に掴まっています」
「さっそく行動したい」兵士はいった。「準備はできている。いつでも命を賭けられる」
彼らは作戦を話した。
まず戦闘の教科書通りアイル達は高所を支配することとする。
このパルパット砦は、基本的には北部の魔物に対する防御を固めており、胸壁に登る手段は南の螺旋階段のみであった。まずそこを塞ぎ、胸壁を支配する。
その後兵は三部隊に分かれる。
第一隊は城壁の上からオーク共を狙撃する。
第二隊は北の城門を塞ぎ内部を孤立させる。
第三隊は隙きを見て牢屋に向かい捕虜を救出する。
戦闘が激しくなったら、アイルたちは居城の屋根に登りアマンダを救出する。そして川の西岸の森を抜け脱出する。
彼らはゲイルが倉庫から運び出したマスケット銃を各々手に取った。
「ひとつ話したいことがあるんだが……」ゲイルは武器庫で見た老人の特徴を話した。
「そいつはクラウザーだ。去年領主に雇われた元宮廷魔術師とかいう話だったな。だがあまりにも言動に不審な点が多くて最近放逐されたんだ。内通者はそいつだろう」ジークラットは言った。
つまりこれは解雇された復讐ということだろうか。しかし、だからといって人間とオークが易々と通じることができるものだろうか。
彼らは森で時が満ちるのを待った。やがて時刻は深夜を回った。
ゲイルは荷袋から鳥カゴを取り出し、トワの足首に手紙をくくりつけた。
「スホルトへ向かえ」ゲイルは言った。空に放たれたカラスは闇夜の中に消えた。
彼らは高台の上の楡の木に縄を括り付けた後、その縄を伝い静かに砦へ城壁へと降りて行った。




